第3話

新幹線に乗り、電車を2本乗り継ぎ、そしてバスに乗った。



オフィスビルの立ち並ぶ景観が、住宅街になり、やがて田んぼばかりの田舎町へと姿を変えていく。



そして、7時間という大がかりな時間をかけて、私達はようやく叔母さんが嫁いだらしい邸の前にやって来た。



まるで英国貴族の邸のような赤銅色の煉瓦造りの建物が、屈強な鉄格子の門の向こうに物々しくそびえている。








「いい? 姉さんの嫁いだこの家は、この辺り一帯の大地主で、すごく厳粛らしいの。家では大人しくしてるのよ」



呼び鈴を鳴らすと、ママが言った。想像以上の邸の大きさに、私は目を見開くばかりだった。



ていうか、田んぼばかりの古き良き田舎町では、瀟洒な洋館は明らかに浮いていて悪趣味にすら感じる。



「すごいね。ママのお姉さん、玉の輿だね」



「こら、子供がそんなこと言うもんじゃないわよ」



横目で私を叱りつつ、ママはブラウスの襟元を整え背筋を伸ばした。






 

生ぬるい夜風が、どこからともなく吹いてきた。



ザワザワ……、ザワザワ……。



風に煽られ、邸の後方にそびえる山の木々が一斉にざわめき出す。



ふと振り返れば、後方の丘の中腹に、白っぽい建物が見えた。距離感から考えると、あっちもかなり大きな邸だろう。まるで夜の木々に守られるように、そびえている。



黒々と生い茂る森の中腹にポツンと浮かぶその邸から、どういうわけか、私はしばらく目が離せなかった。

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