第2話
「ナズナ、しばらく一緒に叔母さんのところに行くからね」
夏休みに差し掛かる少し前。学校から帰宅するなり、玄関先でスーツケースを手にしたママにそう言われた。
「――へ? おばさんって、誰?」
「ママのお姉さん。田舎の大富豪のところに嫁いでから疎遠だったけど、やっと会えることになったから」
「お、叔母さんなんていたんだ……。ていうかまだ夏休み前だけど、学校はどうするの?」
「休んでいいから。あとで、学校に電話しとく。とにかく、パパが帰ってくる前に早く荷造りしなさい」
「ええっ、休んでいいの? わーい!」
涙目のママの様子から察するに、またパパと喧嘩でもしたんだろう。ママは子供みたいに我儘な人で、パパも自分の考えを譲らないところがあるから、二人はよく衝突してる。
喧嘩するたびに、「こんな家、ナズナ連れて出てってやる!」ってママは叫んでたけど、今日は本気で家出するみたい。
でも、1週間早く夏休みに入れるなんて最高じゃん。パパには悪いけど、あとで謝ればいいよね。どうせすぐ、いつもみたいに仲直りするだろうし。
そんな安易な気持ちで、私はママにせかされるがままに、早々に身支度を整えた。
7月初旬の夕方。蝉の声が鳴り響く都会の大通りを、キャリーバッグを転がしながらママと一緒に駅へと急ぐ。
ウキウキして、ワクワクして、世界が妖精の粉を纏ったかのように輝いて見えた。
学校が、休めるってだけじゃない。
我が家は、親戚付き合いが少ない。だから叔母さんという存在に会えるというだけで気持ちが弾んだ。
それに、生まれてこの方都会で育ったから、田舎という響きに単純に憧れてたっていうのもある。
とにかく、まだ中学一年生だった私は、あまり深くを考えずにママの後ろを夢中で追いかけたんだ。
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