第10話

「なになに? この、綺麗な子っ! 亮二の彼女?」



ついに私達の前まで駆け寄って来た夏帆ちゃんは、軽く息を整えたあとで無邪気にそんなことを聞いてくる。



「違うよ、この子はキョーコ。中学校の時の友達で、今日アメリカからこの高校に転校してきたんだ」



「へーえ。帰国子女ってやつ? かーっこいいっ」






りょーちゃんと夏帆ちゃんの会話は、まるで見えない壁の向こうから聞こえているみたいに現実味がなかった。



私の意識は、夏帆ちゃんに笑顔を振り撒きつつも、完全に別のところに留まっていた。



夏帆ちゃんと連れ立って、歩んで来た彼。



だけど、私達からは距離を置いて立ち尽くしている彼。







癖がかった薄茶色の髪の毛は、昔より伸びた気がする。



体つきも、顔つきも、以前よりもずっと引き締まっている。



それから、背も随分伸びた。



相変わらず非の打ち所のない、綺麗な顔。



着崩した制服の肩から掛けられた、ギターケース。



気だるげにポケットに両手を突っ込んだまま、彼は。



猫に似た目を見開いて―――私を見つめていた。

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