第8話

「そっかあ。親父さんのニューヨーク行き、急に決まったんだ。それで、キョーコもついていったわけね」



「······そうなの」



放課後の中庭。私とりょーちゃんは、三年間の埋め合わせをするように互いの話をした。



十月初旬。アメリカのハイスクールなら新年度が始まったばかりの新鮮味溢れる時期だけど、日本は違う。校内全体が、まったりと落ち着いて腰を据えている雰囲気だ。



綺麗に刈られた緑色の芝生に、夕方の空気を孕んだ肌寒い風が吹き抜けた。








「まあ、キョーコの親父さんらしいよな。破天荒っていうか、バンドマンらしいっていうか」



芝生の上にあぐらを掻いて座っているりょーちゃんが、ははっ、と白い歯を見せて笑った。



華奢な体躯なのに、組んだ両足に乗せられた指先だけが痛々しいくらいに荒れている。



でもその”ギターだこ”が、ギターを愛するりょーちゃんの誇りなのを私は知っている。



そうか。りょーちゃんは、今もギターを弾いてるんだ。









「”The Sign”は向こうでダメだったの?」



”The Sign”とは、日本ではそこそこ名の知れたロックバンドだ。お父さんは、そのバンドでかれこれ二十年ベースを弾いている。



三年前、私が突然引っ越したのは、活動の拠点をニューヨークに移したお父さんについて行ったからだ。



「ううん。わりと、うまくやってるみたいだよ」



「もしかして、親父さんは今もニューヨーク?」



「うん」



「じゃあ、どうしてキョーコだけこっちに戻って来たの?」

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