第8話

杉山ケンタは鳩が水鉄砲を食らったような顔をして、途端にしおらしくなった。


宙に浮いていたギターが、ガツンと音を鳴らして床に降ろされる。


その表情を確認だけしてから、わたしは前に向き直り3-1の教室を後にした。


ズキンズキンと胸が痛む。


本当はわかってる、いつまでもこんな態度とってたら、この気持ちは一生前には進めない。


でも、ついついやってしまうんだ。


―――馬鹿な自分。






「お、杉山がフラれてる」


「坂下冷てえ~」


「杉山、坂下がお前なんか相手するわけないじゃん」


ケラケラと笑う男子の声が、3-1の教室から聞こえていた。









前は、こうではなかった。


わたし達の関係は、もっと和気あいあいとしていた。


でも、杉山ケンタに対するわたしの態度が変わってしまった原因は、杉山ケンタにある。


ズキンズキンと痛む胸をぎゅっと掌で押さえ、わたしは自分の教室に向けてまっすぐに廊下を突き進んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る