脱走者

第9話

――――……



スマホの目覚まし音で、目を覚ました。


ゆっくりと、ベッドの上に起き上がる。


面倒臭いけど、学校に行かなければいけない。


重い体をどうにか起こし、わたしはパジャマを脱ぎ捨てると紺色のブレザーの制服に袖を通した。


全てを着替え終えると、クローゼットに取り付けられた鏡で自分の姿を確認する。


小学校の時以来伸ばしたことのない、ショートカットの黒髪の女子高生と目が合った。



持って生まれた顔を覆い隠すように、今日も眼鏡をかける。


分厚いレンズ越しに再び鏡を見た途端、ほっと胸が落ち着いたのは、自分の素の顔が死ぬほど嫌いだからだろう。







部屋を出て廊下を歩む。


廊下に面したガラス窓からは、朝の光に包まれた大都会の全容が見渡せた。


都心部に建てられたこのタワーマンションの最上階は、数億はすると言われている。


いつも思う。


一介の化学者でしかない父は、そこまでの資産を稼いでいるようには思えない。


父はどうやって、こんな高級マンションを手に入れたのだろう。


だけどそれを直に本人に問わないのは、わたしと父の関係がぎくしゃくしているからに他ならない。







思春期の親子にありがちな関係性ではあると思う。


だけどうちの場合は―――それとは、ちょっと違う気がする。

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