2 ―覚悟―
あまりよく眠れなかった。そんな反省で迎えた朝。
一人だと広過ぎるリビングで、ルイーズは日課のヨガをしていた。本来、ストレッチと精神統一を行う時間のはずだが、心は全く落ち着かない。ずっと頭の中を廻るのは昨晩の出来事だ。
だってあの時、私は――。
「じゃあ、行くよ」
ルイーズの手をジェスターが取った次の瞬間、二人は広場にいた。
何故だろう。ここに立っていると、急に胸のあたりがソワソワして、少しだけ不安になる。
パタパタと走る足音が近づいてきたのはその時だ。見ると、ジェスターの後ろに隠れるように幼女がしがみ付いていた。その姿に、瞠目する。
「…………これは、どういうこと?」
白いワンピースに、プラチナブロンドの髪、そして金のティアラの応冠。
ジェスターの背後からぴょこりと覗いた幼女の顔、それは紛れもなく――。
「どうして……、子供の頃の私がここにいるの?」
あり得ない。けれどその容貌はどう見ても、幼い自分にそっくりだった。
困惑。目の前の光景を受け入れられない。
なのに、幼女の無垢な瞳が見詰めてきて、ルイーズは思わず一歩後ろに下がってしまう。
「落ち着いてルイーズ。この子は
優しく説明する彼の隣で、幼女はルイーズを見ながら不思議そうに首を傾げる。
「なんで……。ずっとここで一人ぼっちだなんて、そんなの……信じられない」
動転した頭で思考が空回る。けれど沈黙の方が怖くて、浮かんだ疑問をそのままぶつけてしまった。
「ルイーズ。君なら分かっているはずだよ。
「まさか……。私が望んだの?」
静かに首肯するジェスターに、ルイーズはいよいよ耐えられなくなる。
「……一旦、考えさせて。ごめんなさい。覚悟してたつもりだったのに」
立っているのがやっとだった。果たして、揺れているのは体なのか、それとも――。
「いや。謝るのは僕の方だよ。ごめん。少し焦り過ぎたね。もっとゆっくり進めなきゃいけなかった。今日はもう解散しよう。君は一度落ち着いて、自分を見つめ直した方が良い。もしその後で、まだ向き合う覚悟があるなら、もう一度ここにおいで」
考えを改める。きっと自分の抱える傷は相当深い。でなければ、この状況になり得ない。
「分かった。明日中に何とかする。だからジェスター。明日の夕方、またここで待ってて」
「うん。わかった」
今度こそ、弱い自分から目を逸らさない。その決意と共に現実へ――。
結局集中できないままヨガを終え、スマートフォンの通知を確認する。メッセージが一件。両親からだった。『会いたい』と送ったのは昨日の夜なのに、早速返事が来ていたのだ。
「もう来てくれるんだ。きっと忙しいのに……。でも、ありがとう」
いつだってそうだ。両親は私の願いを優先してくれる。それに感謝と少しの申し訳なさを感じながら、そっとスマートフォンを置いた。着替えとタオルを持ってシャワールームに向かう。出掛ける前に汗を流したかった。
今日はきっと、自分にとって特別な日になる。それは決して楽しいものではないのかもしれない。それでも、向き合うと決めたのだ。
九月五日。波乱の新年度二日目が始まる。
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