5 ―入寮―
扉を開けた瞬間であった。
「お前がクライドだな。なんか知らんが優秀らしいじゃん」
「やっぱり特待生って凄い感じ? あたしの分もポイント稼いでくれたりするぅ?」
「ちょっとラタナ先輩、他人任せは良くないですよ。ようこそクライド先輩」
「わっ、待ってくれ。一斉に話すな。ちょっ、近い」
手厚い歓迎にクライドが辟易していると、奥から見知った顔がやってきた。
「よ、クライド。遅かったな。ルームメイトだなんて嬉しいぜ」
「リック! 良かった。知ってる奴が一緒だと俺も安心だ」
そんなこんなで入寮である。時刻は一五時を回ったところだが、クライドは既に疲れていた。
せめてもの抵抗で応冠を外しているが、本当は少し休みたい。だが、そうもいかない。
早速、リックが部屋を案内してくれた。ここのシェアルームは五人用で、リビングや水回りなどの共有スペースと、個人の自室から構成されている。
「学生寮で自室があるなんて珍しいな。やっぱり、男女混合のルームシェアだからか?」
「それもあるんだが、一番の理由は〈
「成る程。確かにそうだ」
その後、他のルームメイトたちから共同生活の基本ルールが教えられた、のだが……。
「あたしぃ、朝七時と夜九時にはシャワー浴びたいのぉ。だから、その時間に使うのは避ける感じでよろしくねぇ」
と、自分ルールを追加したのはルームメイトの一人、グレード一一の上級生ラタナだ。
「んー要するに、他人に迷惑かけねえなら何でも良いじゃん。ま、気楽にやろうや新人」
もう一人の上級生、グレード一一のトゥーラは説明を面倒くさがってこの始末だ。
「二二時以降から就寝までは基本的に自室で静かに過ごしてくださいね。あと平日の日中は清掃員の方が掃除に来るので、共有スペースには私物を置かないように注意して下さい」
ルームメイト唯一の下級生、グレード九のヘザーが一番しっかり教えてくれた。
「クライド、これも渡しとくぜ。このシェアルームとお前の部屋、それぞれのカードキーだ。登録すれば、応冠もカードキー代わりになるぞ」
「おっ、サンキュー」
手渡されたカードキーをクライドが受け取ると、リックが思い出したように付け加えた。
「そういや、このあと一六時から新入生に学校を案内して回ろうと思ってんだ。俺も案内役の一人として参加するんだけど、お前も来るか? 履修相談もできるぞ」
「オーケー。俺も行く。取りあえずこれだけ済ませるから、ちょっと待っててくれ」
そう言ったクライドは、自室に戻って荷解きに取り掛かった。スーツケース一個分しかない荷物を淡々と仕分けして所定の場所に収めていく。と、大体片付いたところで気付く。
デスクの上、『ラングールの手記』が転がっていた。確か、部屋に入ってすぐ、適当に置いたんだったか。奇妙なオブジェが写る表紙にはもう驚かない。けれど、やっぱり苦手だ。
片付ける前に少し気になることがあって、渋々手に取ってみる。
目当てのものはすぐに見つかった。裏表紙の隅。そこに記された文字列を指でなぞる。
――〈
やはり実在するようだ。つまり半年前、俺が〈ルーツ〉に迷い込んだ、あの時――。
コンコンッ、とドアを叩く音が、クライドを現実へと引き戻す。
「クライド、もう行けそうか? そろそろ時間だぜ」
「おっ悪い。今行く」
もう気にする必要はない。既に終わったことだ。そう自分に言い聞かせて足早に自室を出た。
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