6 ―〈夢の輝石(ドリームダイヤ)〉―
「新入生のみんなー! おっはよー!」
溌剌とした声が体育館全体に響く。
「わたしはエステラ・エレオノーラ! 『
同年代の女子と比べてちょっと低い背丈。そんな矮躯の一体どこから出せるのかと思うほどの大きな声。長くウェーブした金髪が揺れるのも構わずに、新入生へ笑顔で手を振る彼女の姿はとにかくエネルギッシュだ。その頭上、彼女の瞳と同じ翡翠色の応冠は陽光に繁る新緑のようで、絡み合った枝葉を模した紋様が月桂冠を象っている。
「みんな、夢はある? 夢に向かって挑戦する姿って格好いいよね。わたしたちの寮はそんな真っ直ぐな思いを持つ人が集まってるんだ。大きくても小さくてもどっちでもいいよ。やりたいこと、欲しいもの、譲れないもの、動機なんて何でもいいよ。とにかく自分の胸の高鳴りに任せて、したいことを見つけよう! それが夢ってやつなんだから。そして、一番大事なのは楽しむこと! だって夢って楽しいことじゃん。だからそれを叶えるための努力も、挑戦も、何もかも、全力で楽しんじゃおう! わたしはそんな君を全力で応援するよ! だからみんな、入寮よろしくねー!」
エステラの快活さにつられて、新入生たちから今日一番の拍手が起きた。ダイヤ寮の生徒だろうか。観客席の一区画でも歓声が上がっている。どうやら彼女は随分好かれているらしい。
「エステラって言ったっけ。なんだかアイドルみたいな人気ぶりだな」
「ええ。でもああ見えてあの子、研究者志望よ。実際、私たちよりも一つ上の学年、グレード一一では彼女が首席だし。因みに、ステージにいる他の三人も彼女と同期ね」
「嘘だろ! めちゃくちゃ賢いじゃん 。でもそれだけであんなに人気になるか?」
「ネットに色んな科目の授業動画を投稿してるの。それが分かりやすいって評判で、この学園でも結構な学生がそれを見て勉強してるみたい。実際、彼女のお陰でダイヤ寮が一番授業の成績は高いし。おまけにあの気さくな人柄だもの」
「成る程。そりゃ人気なわけだ」
いつの間にか質問時間も終わり、エステラが手を振りながらステージ後方へと下がる。
「ふう。これで全部か。どの寮も良さげで正直迷うな」
「ちょっとクライド! まだ一つ、私たちの寮が残ってるんだけど」
「ああそうか。ハート寮の紹介は結局まだだったな。ん? 今『私たちの寮』って言ったか? つまり……ミーゼってハート寮だったのか!」
「ええそうよ。言ってなかった?」
言っていない、と表情で訴えるクライド。
「ってことは、去年一位だったのってハート寮なんだな」
「去年だけじゃないわ。三年前からずっと、一位はハート寮よ」
「マジか! すげーな」
素直な感嘆が零れる。明らかに只者じゃない寮生代表たち。そんな彼らが率いる他寮を打ち負かすのだ。その事実だけでもハート寮の実力の高さが窺える。
「それじゃあ、ミーゼも実は優秀だったりして」
「『実は』ってなによ。既に優秀そうでしょ! 実際ちゃんとポイントは稼いでるし。そんなに多くはないけど」
「そういや、さっきの二人もハート寮なのか?」
「ええ。ただベルダはともかく、リックの方は結構足引っ張ってるかな。ほら、遅刻って減点対象だから」
それを聞いて、クライドは思わず首を傾げた。
「……なんか話聞いた感じだと、めちゃくちゃ優秀な奴らの集まりってわけじゃ無さそうだな」
「そうね。おそらく寮生のレベルは他の寮と同じくらい、いやむしろ問題児が多いから中央値は低くなるかも」
「それってつまり、その分頑張ってる奴がいるってことか? ……もしかして寮生代表?」
「そう言うこと。ハート寮が一位になれるのは全部私たちの代表、ルイーズのお陰ね。因みに私たちと同期よ。っといけない、忘れてた。そろそろ応冠を起動しなきゃ」
ミーゼはそう言って自身の髪留め、すなわち応珠に触れる。
次の瞬間、赤い大輪の花が開いた。そう見間違えるほど美しい真紅の応冠だ。放射状に広がる突起は六つと極端に少ないものの、その分一つ一つが大きく広がって、力強くも華麗な花弁を模している。
「おお! めっちゃ綺麗じゃん」
「あら、ありがとう。そう言うあなたも……、まあ個性的な形の応冠ね」
そう言って、少し上目づかいでこちらの応冠を眺めるミーゼは、なんとも微妙な表情を浮かべていた。
「無理に褒めなくても良い。自分でも奇抜だなって自覚はあるんだ。ところで、なんで応冠を起動したんだ。応珠のバッテリー、節約してたんじゃないのか?」
「問題ないわ。今使うために節約してたんだから。じゃないとルイーズを見れないもの」
その言葉の意味を、クライドはすぐに理解できなかった。
だから、呆れられると分かっているのに、つい尋ねてしまう。
「つまり……、どう言うことだ?」
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