ROUND2・承 婚約破棄呪術合戦②
サーシャの向かいの席で、ミランダがうつむいている。
「セバスチャン様。急に婚約を破棄だなんて、どうして」
うふふ。それはね。
私が婚約破棄の呪いを掛けたからよ。
呪術師ジェマ・ゾーイに依頼してね。
人間の身でありながら魔女とまで呼ばれるこの国随一の呪術使いよ。
ジェマは高価な宝石や装飾品に目がないことでも有名。
支払った報酬は、あなたがばら撒いて拾わせてくれたアクセサリー一式よ。
そのことを手紙に書いてまでしつこく
ミランダが顔を扇で隠すようしているわ。
きっと泣いているのね。
さあ。婚約破棄された哀れな女に、徹底的にマウントを取ってあげるわ。
「サーシャ様。あんまりですわ。魔女ジェマ・ゾーイに婚約破棄の呪いを依頼なさるなんて。しかもわたくしが友情の証にと差し上げたアクセサリーを代価として譲り渡してしまうんですもの。クス」
「!」
どうしてそれを知っているの?
しかも扇を外したミランダの顔は、
「サーシャ様にとっては残念でしょうけれど、わたくしとセバスチャン様の婚約は破棄されてなどいませんわ。そのお手紙、わたくしが書いて伝書鳩に持たせていたフェイクですもの」
「なっ!?」
「別のお手紙が来ましたわね」
舞い降りてきた伝書鳩から、ミランダが手紙を外して目を通した。
「サーシャ様もご覧くださいませ」
訳が分からないまま手紙を受け取った。
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拝啓ミランダ・ベネデッティ殿。
サーシャ・アーゼリオから依頼の代価として渡された宝石や装飾品は三流品に過ぎないという忠告、痛み入る。
鑑定士に確認させたところ、ガラス玉やメッキ張りの安物ばかり。
ミランダ殿の忠告通りだった。
アーゼリオ家の小娘めが。
高額な品々などと
当然ながら
逆にミランダ殿からの依頼は間違いなく
サーシャめと隣国王子アルバートの婚約破棄の呪い、この魔女ジェマを愚弄してくれた怒りを上乗せして、最大限の呪力を込めて放ってくれたわ。
結果を楽しみに待たれよ。
ジェマ・ゾーイより
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「こっ、これは!?」
「ふふ。ご結婚後におかしな税法をアルバート様に提案されて、万が一にも採用されるようなことがあっては商売上がったりですもの。わたくしも、ジェマ様のところに婚約破棄の呪術をお願いに上がりましたの」
「私の後に、あなたもジェマのところへ?」
「ええ。奇遇でしたわね。もっとも呪いを依頼するのであれば、この国随一の呪術師であるジェマ様は当然候補に入ってくるでしょうけれど」
「だとしても呪術の依頼主、依頼内容は秘密厳守が
「ジェマ様を責めないで下さいませ。もしサーシャ様から依頼があって報酬をアクセサリーで受け取ったのであれば、間違いなく安物だからご注意をと、わたくしが申し上げたからですわ」
「そんなことを言ったの?」
「ええ。
「ぐっ。改めてプレゼントのお礼を申し上げますわ。とんだ安物の」
「わたくしとサーシャ様の友情の証ですもの。妥当ではなくて? そうそう。ジェマ様には代価として、本当に高価な装飾品の数々をしっかりとお渡しましたわ。誰かさんのように報復を受けるのは恐いですもの」
くっ。やられた。
「あら? 伝書鳩が。サーシャ様の元に舞い降りてきましたわよ」
その伝書鳩の手紙を読んだ。
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サーシャ。君との婚約を破棄する。
アルバートより
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「見せていただけますわよね?」
言われるままにミランダに手紙を手渡した。
「さすがジェマ様の婚約破棄の呪い。効果
ミランダの高笑いを聞いて、頬がゆるむのを感じた。
「クス。フェイクですわ」
「な、なんですって!?」
「本当に奇遇ですわね。わたくしもミランダ様のように、偽物の手紙を伝書鳩に持たせておりましたのよ。婚約破棄の呪いが成立したとヌカ喜びさせるために」
「負け惜しみを。嘘をおっしゃい!」
「確かにあのアクセサリーが安物だったことと、ミランダ様が魔女ジェマの元を訪れたことは誤算でしたわね。しかしながらミランダ様も
「それがもし本当だとしても、魔女ジェマ様の強力な呪いを防ぐ手立てなど、そうあるものではございませんわ。アルバート様から本当に婚約破棄の連絡が来るのは時間の問題。ほら。また伝書鳩がやって来ましたわよ」
ミランダの言った通り、伝書鳩が手紙を携えてきた。
手紙の内容は予想通りだった。
「うふふ。あら?
怪訝そうな表情のミランダに手紙を渡した。
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サーシャへ。
先日は修道院を訪ねてきてくれてありがとう。
急で驚いたけれど、嬉しかったわ。
あなたは優しい子。
心配していたように人から恨まれて呪いを掛けられるようなことはないと思うけれど、アーゼリオ家の令嬢ですもの。
用心に越したことはないものね。
あなたに授けた聖なる加護は、あらゆる呪術を跳ね返すことができるわ。
しかも跳ね返った呪いは、術師ではなく依頼主にまで
今の私が発揮できる限りの力を込めてあるわ。
相当なレベルの呪術師の呪力も跳ね返せるはずよ。
でも私も老齢の身。
魔族の魔将軍レベルの呪力を跳ね返す力はないの。
一応気を付けておいて。
念のためにこうして手紙にも説明を書いて送ります。
それでは元気でね。
クリスティーナより
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手紙にはそう書かれているわ。
そして案の定、読み終えたミランダの顔色が変わっている。
「クリスティーナって、伝説の聖女の? 生きていたの? だとしてもずっと昔に姿を消したはずのお方と、なぜ連絡を取って――。あっ」
「ふふ。ようやくクリスティーナ叔母様が、アーゼリオ家出身だということを思い出したようですわね」
「むむ。親族の身を案じて、聖なる加護を授けて下さったのね」
「そのとおりですわ。あれ!?」
不意に自分の周りを、禍々しい黒いオーラのようなものが漂い始めた。
聖なる加護には見えない。
ということは、魔女ジェマの呪い――。
恐怖を感じてガーデンテーブルから離れた場所に移動したが、それでも黒いオーラが周囲を漂い続けている。
だが――。
清らかな光がサーシャを覆うように黒いオーラを阻んでくれている。
これが聖なる加護なのだろう。
「魔女ジェマの呪いといえども、伝説の聖女クリスティーナの施してくれた加護には、やはり及ばないようですわね」
禍々しい黒いオーラが弾け飛んで、円形にまとまった。
「そして呪いは依頼主へと跳ね返るのですわ! 人を呪わば穴二つ! ミランダ様! お覚悟なさいませ!」
黒い円形のオーラがミランダへと向かっていく。
ミランダが慌てて席から立ち上がって走り始めた。
だが黒いオーラは逃げようとするミランダを追いかけていく。
「きゃあぁぁっ!」
黒いオーラに包まれながら、ミランダが悲鳴を上げた。
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