■ROUND2 『全5話 序/起/承/転/結』
ROUND2・序 青空からの挑戦状
皆様、ごきげんよう。
サーシャ・アーゼリオでございます。
どうか少々、わたくしの転生先の世界のお話にお付き合い下さいませ。
この世界は今でこそ平和ですが、数十年前は滅亡の危機に瀕しておりました。
魔王ヴォルグラント率いる魔王軍の猛威に晒されていたのです。
しかし、世界を救うために立ち上がった若者たちがおりました。
若者たちは命を懸けて魔王軍と戦い抜きました。
そして激闘の末に、魔王ヴォルグラントを封印することに成功したのでございます。
人々は世界に平和をもたらした若者たちを、勇者とその仲間と
それから数十年の歳月が流れ、伝説となった勇者様やそのお仲間の多くは帰らぬ人となりました。
人の一生は短く
ところが魔族の寿命は人間と比べて遥かに長く、魔王軍の残党たちは
しかしながら魔王が封印されて以降、ずっと鳴りを潜めたままとのこと。
もし魔王が復活してしまえば、魔王軍の残党も息を吹き返して世界は再び恐怖に陥ってしまうでしょうけれど、その心配は
封じ込められた魔王は、激戦の地から遠く離れた場所へと移されたそうでございます。
その封印の地を知る者は伝説の勇者とそのお仲間のみ。
魔族はおろか人間たちにも封印を解きようはありません。
これからも封印は維持され続けるはず。
そして平和な世界も。
さて。こちらの世界は本日も平穏無事。
これに勝るものはございませんわね。
あら。窓辺に小鳥が。
可愛らしいこと。
まるで平和の象徴ね。
足の片側に手紙が結びつけられていますわ。
届けてくれたのね。ありがとう。
どれどれ?
まあ。わたくしの婚約者、隣国の王子アルバート様からですわ。
『正式結婚に向けての手続きが順調に進んでいる』ですって。うふふ。
そして結びは『愛しているよサーシャ』。
わたくしもですわ。アルバート様。
鳥さん。お返事を書くからちょっと待っていてね。
紙と羽ペンは机に置いてあるの。サラサラと。
この愛のお手紙を、アルバート様に届けて頂戴ね。
よいしょ。足に結んだわ。
ふふ。青空へと飛び立っていきましたわ。
別の国にもすぐに届きますのよ。
何せ空を飛べる鳥が運んでくれるんですもの。
皆様は
特定の種類の鳩の
こちらの世界の伝書鳩はさらに優れモノ。
片道だけでなく往復でもお届け物をしてくださるのよ。
それだけでなく、あらかじめ教えておけば何か所かを巡って受取人を見つけ出して届けてくれたりと、お利口さんで色々と融通が効きますの。
でもネット通販みたいに重いものを運ぶのは無理なのよねぇ。
この世界には食べ物を届けるサービスのナンタライーツもないし。
飛ばした鳥を受取先でヤキトリにして食べていいというビジネスを始めたら儲かるかしら?
令嬢といっても、自分の自由にできるお金ってそこまで多くないし。
でも新規ビジネスが当たればウハウハね。ウフウフ。
コホン。
この青く澄み渡った空を見てくださいませ。
きっとたくさんの伝書鳩が飛び交っているはずですわ。
人々の様々な思いを込めた手紙を携えて。
そう思うと感慨深いですわね。
あら。伝書鳩がもう一羽。
ふふ。わたくしの指に留まったわ。
手紙の差出人は――。
クリスティーナ叔母様だわ!
正確には父の叔母で、サーシャの大叔母にあたるお方。
そして何を隠しましょう。
なんとクリスティーナ叔母様は、伝説の勇者様のお仲間でしたのよ。
しかも封印魔法で魔王を封じ込めたその人。
回復や呪い封じの魔法についても当代随一の使い手。
偉大なる聖女なのですわ。
ですが称賛や見返りを一切求めないお方。伝説の聖女だということも勇者のお仲間であったことも秘密にして、ある修道院のシスターとしてひっそりと暮らしておられますの。
まさに聖女。
アーゼリオ家の誇りですわ。
神に仕える身としてご結婚はされなかったので、子供や孫はおられません。
でもサーシャのことを孫のように思ってくださっていて、ときどきお手紙を下さるの。
読ませて頂きますわ。『自分が神に仕える身として生涯独身を選んだことに後悔は無いけれど、あなたは愛する人と添い遂げて幸せになって欲しい』?
今日のお手紙も、なんてお優しいのかしら。
数ヶ月前にサーシャに転生したばかりのわたくしでも、この胸にしっかりと
クリスティーナ叔母様。サーシャは必ず幸せになります。
伝書鳩さん。そう書いたお返事を届けてくださいな。
ヤキトリビジネスの実験台からは外してあげる。
あらあら。またまた伝書鳩が。
きっとこれも嬉しいお手紙よね。
でも誰からかしら?
ん? ミランダ様から?
鳥さん。届けてくれてありがとう。
読み終わったら、お前ヤキトリな。
どれどれ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
拝啓サーシャ様。
先日、友情の印に差し上げたアクセサリー、きっと大事にしてくれていますわよね?
わたくしがばら撒いたものを、サーシャ様はあんなに一生懸命拾い集めて下さったんですもの(笑)
ご成婚に向けての準備が順調に進んでいると聞き及んでおります。
お
サーシャ様のお相手のアルバート様は、隣国の第五王子(笑)
四人の兄上たちを飛び越して王位を継承する可能性はゼロに等しく、我が国の王家
一方のわたくしの婚約者はソプラーニ家長男のセバスチャン様。
言わずと知れた、世界に広がるソプラーニ商会の跡取りでございます。
ベネデッティ家とつり合いが取れる年商を誇るのはソプラーニ商会くらいのもの。
相応の相手に巡り合えまして、ミランダは幸せにございます。
どちらの家中も、お似合いの二人と喜びに満ち溢れておりますわ。
というわけで、ふさわしい婚約者を得られた者同士で恋バナでも致しませんこと?
ご結婚後の生活に難儀された場合に備えて、早めの資金援助計画のご相談に乗って差し上げてもよろしくてよ(笑)
この間はアーゼリオ家にお招き頂きましたので、今度は是非サーシャ様がベネデッティ家にいらしてくださいな。
一週間後の○月×日のご予定は空いていらっしゃいます?
来て下さるというお返事をお待ち致しますわ。
草々
ミランダ・ベネデッティより
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あ、あの、「ブフー」×2の紅茶吹き出し
「拾え拾え」でまだ悦に入ってるの?
それに第五王子のアルバート様が王位を継承する可能性はほぼゼロ?
だから何? 大切なのは愛なの。
相手がお金持ちだという打算で婚約したり、手紙でもマウントを取りに来るような、愛を知らない女には分からないでしょうけどね。
愛とは、自分がマウントを取るときにその人がどれだけプラスになるかで決まるの。
アルバート様はたとえ王位継承の優先順位は低くてもイケメン王子。
婚約中の今もだけど、結婚後も9割くらいの相手にはマウントを取れる試算よ。
だから9割くらい愛しているわ。
それにしても、またしてもアーゼリオ家を王家の遠縁と馬鹿にするなんて。
聖女クリスティーナを輩出した名家であることは知っているはずなのに。
魔王が封印された平和な世界で安心して商売ができるのも、クリスティーナ叔母様のおかげだということが分かっているのかしら?
ベネデッティ家さんよぉ。
見返りを求めない聖女様に、ショバ代払ってもらおうか。
ああん?
ふん。ここで息巻いていても仕方がないわね。
この手紙はわたくしへの挑戦状。
受けて立つわ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
拝啓ミランダ様。
お手紙ありがとうございます。
ミランダ様もセバスチャン様とのご結婚に向けて順調なご様子で何よりですわ。
ベネデッティ家、ソプラーニ家ともに、世界に広がる商会を営む大家。
この国と隣国どちらの国でも、年商の一位と二位は御両家が占めていると聞き及びます。
本当にお似合いですわね。
きっとお二人の元で、どちらの商会も更なる発展を遂げられることでしょう。
わたくしもアルバート様の元に嫁ぎましたら、隣国の民のため及ばずながら尽くしていく所存にございます。
旦那様に政策の提案もしていきたいと思っておりますのよ。
王子は政治への影響力が一定以上ございますから。
例え王位継承順位は低くても(←ここ重要)。
結婚後に献策しようとわたくしが温めている税制法の抜本的改革案、以下に本邦初公開ですわ。
現在はどの国でも、商会への法人税率は利益の20%程度と記憶しております。
でも儲けている商会からは、もっと多く税金を負担して頂いてはどうかしら。
すなわち、法人税に対する累進課税の導入。
それによって国庫が潤えば、民への税を減免することも可能になりますものね。
暴利を貪る上位2トップの商会に対しては、税率85%ぐらいを予定しておりますわ(笑)
そして隣国で導入されれば、きっとこの国でも。
ふふ。さすがに少々飛躍しすぎかしら。
さて。ベネデッティ家へのお招き、まことに嬉しく存じますわ。
○月×日は、ぜひベネデッティ家にお邪魔させて下さいませ。
ミランダ様への友情に報いるために、将来の税率軽減のご相談、
かしこ
サーシャ・アーゼリオより
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
よし。書けたわ。
手紙はコンパクトに巻いて縛らないといけないから、カミソリレターにできないのが残念ね。
鳥さん。この手紙をミランダに届けて頂戴。
ふふ。青空に羽ばたいて行ったわ。
また来週、ベネデッティ家で会いましょうね。
一週間後はミランダにマウントを取った状態で、美味しくヤキトリを
ミラの字め。
私を本気で怒らせたことを後悔するがいいわ。
聖女の家系を愚弄した罪、お家断絶も覚悟なさい。
さてと。来週まで忙しいわね。
色々と準備が必要だから。
我に秘策あり、ですわ。
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