ここだけ違う世界

 「父上!」


 「なんぞ?信忠?」


 「本日面白い者が3人参りました!」


 「面白い者?誰だ?」


 「なんと隠岐島から来られたそうです!しかも敦賀を通って来たそうです!女3人ですが、女3人ですら関所を通れるくらいってことですよ!」


 「隠岐・・・あの流刑のあの島からか?何しにわざわざここへ?」


 「どうも聞けばそれなりに島は海産物を養殖したり黒曜石が産出するらしくそれらを売れないかと思い来たそうですよ!」


 「ふん。那古屋の方が優れているだろう。それに黒曜石なぞ古い。セバスチャンが作るヒヒイロカネとやらの方が凄い。捨ておけ!」


 「畏まりました。ですが今こそ攻め時ではないですか?」


 「信忠よ。小雪から話を聞いただろう?『これより先の犠牲はもったいない。将軍如き小物に兵を失うのは末代までの恥。近江、越前、京に荷を止め織田領の物は何一つ入らないようにする。干上がらせる』と言っていたであろうが」


 「確かに言われていましたね。いきなり締め付けるのではなく徐々に道を閉じて行くと・・・そして我が領の関所を撤廃し浅井、朝倉から人を居ないようにさせる。将軍が痺れを切らして挙兵すれば根斬りとすると・・・」


 「分かっているではないか。将軍は頼みの武田を信忠と大橋めが甘い判断をしてしまったからか。もしかすれば将軍も和睦と言ってくるやもしれん」


 「それこそ、大橋殿が言っていたではありませんか」


 「うむ。『将軍が和睦と抜かしても無視してください。求心力なんか最初からない人です。裸の将軍にさせてやりましょう。それと帝への贈り物は欠かさずに!帝からもせっつかせましょう』と言っていたな。まぁ顔に似合わず中々エグい作戦を思いついたものだ」


 「はい。時はかかりますが確実に力を削ぎ落とし極力血を見せないやり方です。しかもそれとなく帝にまで華を持たせるやり方には感服致します」


 「うむ。だからワシは九州行きを許可したのだ。まぁ自尊心の高い3人だ。今暫くは停滞するであろう。近江や越前からの人の入りは確実に注意しておけ」


 「はっ!」



 「一泊お一人様5000円になります。3人ですので小判3枚になります」


 「ありがとうございます。お願いします」


 「一人銀判1枚追加していただけますと明日の朝食もお付け致しますがいかがいたしましょう?明日ですと・・・おっ!良かったですね!30日に一度の織田印のパン処 尾張の虎パンの出張日ですよ」


 「え!?パン処 尾張の虎パン!?」


 「知らなかったですか?大橋様の妻のさき様と大橋様が考案したパンを売ってるお店ですよ。かなり売れ行きがよくて広場の大時計時間で11時には売り切れになってしまうパン屋ですよ」


 へぇ〜。さっそく奥さん見つけたんだ?暁君やるな!?


 「では、追加でお支払いいたしますのでパンをお願いします」


 「ありがとうございます。畏まりました。朝ご飯はこれより右手にあるあちらの部屋になります。お部屋は階段を上がった右手の部屋になります。ごゆるりとお過ごしくださいませ」


 「ありがとうございます」


 それにしても民宿のような作りの建物に女将さんは現代ホテルのフロント係のような話し方の人だったな〜。ここだけ時代を先取りしてるようだ。


 「わぁ〜お!すっごいいい部屋じゃん!」


 「美幸ちゃん!これ!隠岐のベッドみたいにフカフカだよ!!」


 「本当だね!てるちゃん!てるちゃんもおいで!!」


 コンコンコン  


 「は、はーい!」


 「すいません。失礼いたします。大変申し訳ございませんでした。湯浴みの事を伝えるのは忘れていました」


 「え!?嘘!?お風呂まであるのですか!?」


 「まぁ!?大橋様や小雪様のように言うのですね?あっ、失礼しました・・・先程の銭を払っていただいた左手の扉の向こうに湯浴み場があります!当、宿泊処【岐阜小町亭】は、岐阜宿泊書ランキング3位にございます。他のお客様にも湯浴み場が好評にございます。どうぞ一度ご堪能くださいませ」


 「ありがとうございます」


 それにしても岐阜小町亭ってこれまた凄い名前だね!?


 「美幸ちゃん!これ!!タオルも浴衣もあるよ!タオルはわっちが作るのと同じくらい吸水性があるよ!」


 「暁君の事だからどうせ、訳のわからないもったいない素材で作ってるんじゃないのかな?ってか、リディアはなんで美幸様と美幸ちゃんって使い分けてるの?」


 「うん?そりゃぁ〜人前では立てないといけないでしょ?真白様から教えてもらったんだ!」


 「そう?別に気にしなくていいよ?なんか使い分けられると変な感じするからどちらかに統一してほしいんだけど?」


 「オッケー!なら美幸ちゃんね!」


 グゥゥゥゥゥ〜〜〜〜


 「「!?!?!?!?」」


 「すすす、すいません」


 「ははは!てるちゃんもさすがに焼き鳥だけじゃお腹膨れないよね!よーし!ご飯食べに行こう!!」


 

 私達は女将さんに少し外出すると伝え表に出る。まさかゲーム内不要アイテムno1だった灯籠をこんな使い方するとは・・・。


 それは至る所に灯籠を配置してある。辺りは暗くなっているが、現代の町程ではないにしても明るい。そして、適度な間隔で左腕に【警備隊】と書かれた腕章を付けた槍を持った人が3人組で配置されてある。


 なにより1番びっくりしたのは大時計だ。


 「すっごい大きいね!これなら時間丸分かりじゃん!」


 「美幸ちゃんのお友達は凄いんだな!美幸ちゃんと違って何でも使ってる感じだね!」


 「そうみたいね〜。私も隠岐で自重せずしてきたつもりだけどこれは負けたよ」


 「そんな事よりラーメン食べに行きましょう!!」


 「オッケー!!」


 私達は宿の近くにあるこの時代に似合わないカタカナで書かれた看板のあるラーメン屋に入った。


 「へい!らっしゃい!おや?女性3人とは珍しい!空いてる所に座ってくれ!」


 中は現代のご飯屋のような作りだった。カウンター席とテーブル席とがあり、普通に畳まである。


 「メニューは・・・醤油、豚骨、味噌・・・は!?カレーラーメン!?なんじゃこりゃ!?」


 「おっ!カレーラーメンが気になるかぃ!?それは織田の殿様の御兄弟の信治様が考案した物だよ!意外に美味いんだ!お勧めするぜ?」


 「あ、いや普通の醤油ラーメンでお願いします!」


 「なんでぃ!まぁまた、今度食べてみてくれ!本当に俺の自信作だからな!」


 「てるちゃん?もう少し待ってね?店主が今作ってくれてるから!」


 「は、はい!」


 緊張してるね。まぁ私達は隠岐で慣れてるけどこの子は何もかも初見だからね。


 「へい!お待ち!醤油3つな!悪いがここで銭を支払うのだ!皿は置いたまま帰ってくれて構わねぇ〜からよ!」


 ふ〜ん。2000円か。現代感覚からすればラーメンは高級食になるのかな?だから人が居ないのかな?


 「はい。銀判6枚です」


 「あいよ!ゆっくりな?嬢ちゃん?熱いから気をつけるんだぞ?」


 店主のような人達まで教育ができているのね。本当に凄いよ。


 チュル チュル チュル


 ふふふ。初々しくて可愛いね。てるちゃんは上手く啜れないのかな?


 「お、美味しい・・・」


 「ははは!だろ!?味は申し分ねぇ〜と俺も思う!値段もギリギリでやってるんだがどうしても鰻屋に負けてしまうのだ!」


 「鰻屋?」


 「なんだい?食べた事ねーのかぃ?岐阜と言えば鰻は食べないと損するぜ?なんせ織田の殿様が気に入ってるからよ?あぁ〜!食べるのに話しかけるのは御法度だったな!まぁゆっくり食べてくれ!」


 どの人も明るく色々教えてくれる・・・治世がいい証拠だね。


 「美幸ちゃん!お代わりしてもいい?」


 「は!?リディアはもう食べたの!?さっき焼き鳥も10本くらい食べてなかった!?」


 「わっちの胃袋は無限大♪」


 はぁ〜・・・食べ歩きさせられそうな予感・・・けどいいかな?私も色々楽しもう!

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