すれ違う二人
「それじゃあ行ってくるよ!」
「リディア!くれぐれも美幸っちを頼むぞ!」
「任されたし!!わっちが作り仕立てた召物は鉛弾や神剣の刃すら通さないから大丈夫だよ!もしもの時はシェルターだって作れるのだから!!」
結局出発は延びに延びて更にあれから1ヶ月と過ぎた。
どういうルートにするか、日数はどうするかなど考えた結果、また九州迂回ルートから太平洋側に抜けるか、日本海側から北上し越前くらいから陸ルートで行くか迷ったが、畿内の情勢が分からないけど万が一にでも朝倉と敵対したとしても織田軍や暁君も敵対しているだろうと思い、日本海ルートにした。
今は皆が見送りに来てくれている。
「西方村の吉蔵です!これを美幸様に」
「あっ!吉蔵さん久しぶりですね!わざわざ見送りありがとうございます!これはなんですか?くれるのですか?」
隣の島の中ノ島の人達とも今は普通に交流している。日に4回だが往復便を出し、獲れたての魚を渡したり、リディアの服なんかも渡したりしてるからだ。その中ノ島、私達が作った船着場近くの西方村の村長の吉蔵さんが私に木箱を渡して来た。
中は永楽銭や宋銭の束だった。
「西方村の皆から出し合った銭です。俺達は使う事がないので役立ててください。美幸様達の御厚意の御礼には程遠いですけど・・・」
「そんなの悪いですよ!?お金は大事に取っておかないとーー」
「いいえ!その銭で美濃?という外国で何ができるかは分かりませんがどうか美幸様に・・・」
まったく健気な人達だと思う。貧しいながら生活をし、私が来た事で幾分かは余裕ができただろう。けどその余裕を私に返そうと村の人達が出し合ってお金を渡してくれようとする。
私はこの島や島民の人達が好きだ。マイペース、優しい人達・・・戦とは無縁のこの島を島民を守ってあげたく思う。
「吉蔵さん!ありがとう!これは大事に使うからね!」
「美幸っち?次は此奴だ!あーしが最近面倒見ている中ノ島の三穂村の村長と三穂神社の神職の亀吉と光道神職だ」
「光道神職さん!お久しぶりです!血色もよくなったようで良かったです!」
この光道神職とは元々出雲のとある神社に属していた1人だそうだが尼子と毛利の戦を目の当たりにして戦は見たくないとのことで自ら隠岐島に流れ着いた人だ。
島に到着後は色々とあったみたいだが本土からの来訪者との事もあり色々な人に助けてもらいながら今は中ノ島南の少し入り込んだ湾の所にある、後鳥羽上皇が配流された時に隠岐で最初の夜を過ごした三穂神社の神職だ。
「その節はありがとうございました。めでかるぼつとに入るとたちまち良くなりました。たくあんや味噌などもありがとうございます」
「ふふ。メディカルポットですよ。他にも欲しい物があれば真白や艶に言ってくださいね?」
「いやはや貧しい僧ですみませぬ。もしよろしければ京に近い場所の、最新の仏教書物をお願いしたく・・・足りるか分かりませんがこれをお納めください。亀吉殿の村と出し合いました」
「え!?亀吉さんも光道様もお金ですか!?」
「おう!光道神職!時間が押してるんだ!美幸っちが必ず最新の書物を買って来てくれるだろう!よーし!次だ!美幸っち!次は知夫里島の天の村のーー」
まさか見送りの人達が手に持ってるのって全部私になの!?かなり人が居るんだけど皆に挨拶しないといけないの!?勘弁してよ・・・・。
〜那古屋港〜
「なんかオレなんかのために織田様自らお見送りしてもらいすいません」
「うむ。恥ずかしくないよう朝廷に働きかけ従四位下 兵部大輔じゃ。ワシが正四位上 兵部卿じゃ」
「え!?という事は官位の件を受けたのですか!?あれ程嫌がってませんでしたか!?」
「まったくの無官ではいかんだろう?これからワシは足利幕府を終焉とする。それには朝廷の力が必要ぞ。人が決める官位は嫌いだ。なんの意味もないからな。だが・・・踏み台に使える。そうは思わんか?」
オレも色々小雪と話し合ってはいたが予想を超える人だ。これだからこの人は面白い!もっともっと信長さんは大きくなってもらわないとな!
「そうですね。じゃあオレはもっと朝廷に個人名で銭を寄付して太政大臣にでもなりましょうか」
「ふん。抜かせ!大橋が太政大臣ならワシは正一位 太政官じゃ!これの上は帝のみぞ!ははは!」
昔はこんな冗談すら言えなかった。だが今は冗談も言える仲になった。駆け足で来たがもっともっとこれからだ。
「織田様!必ず見つけてきます。島津との友好関係も築いてきましょう」
「うむ。あまり深入りはせずともよい。そうだな・・・よその国をぴくちゃーとやらで撮影してこい!どれほど違うのかこの目で見てやろう」
だからなんでピクチャーなんだ?写真でいいだろ!?
「よし!出航!!!ルートは太平洋側からだ!」
オレはあたごに乗り出航している。共の者はもちろん黒夜叉隊の皆だ。千代女さん、望月さん、黒川さん、みお、すず、風華、市華、彩葉だ。
「よぉ〜し!黒川さん!操船頼みますね!」
「・・・・はい」
うん?なんか歯切れが悪いな?体調が悪いのか?
「黒川さんどこか具合でも悪いのですか?」
「あ、い、いえ・・・。なんでもございませぬ」
いやおかしいだろ!?
「望月さん?何か心当たりが?」
「あ、いや、某は何も知りませぬ!存じ上げませぬ!少し船室に居ますので御免!」
望月さんもどうしたんだよ!?
「すずちゃん?あの2人どうしたの?」
「え?私は何も知りませんよ!」
いやすずちゃんはポーカーフェイスだが何か知っているな?出発前に小雪に何か言われたのか?小雪は留守番にしたから必ずオレを守れとか・・・うん?そういえば見送りに小雪は居なかったよな!?小雪が現れないなんて・・・あり得ないよな!?まさか!?
バサァ〜〜〜
「あっ!バレてしまいましたか!?早かったですね!私を留守番にするなんておかしいじゃありませんか?約束しましたよね!?2度と離さないって!ねぇ!?暁様!?聞いてます!?」
「ちょ!小雪!皆の前だ!声を下げて!」
「いいえ!私は2度と暁様から離れません!私を放っておこうとした罰です!口にチュウを12回お願いします!」
「は!?なんでだよ!?しかも12回とはなんだよ!?」
「問答無用!!チュッ チュッ チュッ………」
「頭領?暁様は嫌がっているがなんであんなに嫌がるのだ?ワシなら喜んでこの場ででも抱くがな」
「馬鹿!滅多な事言うんじゃない!小雪様は以前にも増して暁様に心酔しているのだ!この前暁様に聞かれたのだ。『何か甲賀の秘薬に夜の方を弱くする薬はないか?』とな」
「強くするのではなく弱くするとな!?何故だ!?」
「聞けば小雪様が毎晩迫ってくるそうだ」
「ほう?暁様もお若いのだし、お子もまだだから良いのではないのか?」
「ワシも同じ事を言ったさ。だが・・・『一晩に最低4回は迫ってくるんだ。今オレは戦の時より身近に死を感じている』とゲッソリしたお顔でお答えになられた」
「あっ!だからか!?最近やたら夜に我らと共に過ごしておるのは!?戦も終わったというのに復習やらこれからの展望を毎日毎日話していた理由は・・・」
「恐らくな・・・。さすがに複数回はしんどいであろう?だからワシは飲み物に混ぜてとある薬を小雪様にお渡しした」
「まさかあの薬か!?」
「あぁ。だが小雪様に勘付かれ、セバスチャンザブートキャンプに参加を余儀なくされたのだ。2ヶ月程前に7日程ワシは留守にしていたであろう?あの時だ」
「あの新兵の9割が脱落する夢も希望もクソもないあのセバスチャンザブートキャンプをか!?まさか!?」
「そのまさかだ。暁様には悪いがオレは金輪際小雪様には逆らわない。誠に恐ろしい方は小雪様だ」
「望月さん?あなたも私が来た方がいいと言いましたよね?」
「え!?某ですか!?」
「えぇ。言いましたよね?暁様も絶対に喜ばれるって。ねぇ?望月さん?」
「え!?あ、はい!さぷらいずなる物で小雪様が居られる事が暁様はなによりも1番喜ぶだろうと提案させていただきました!」
「ちょ!?望月さん!?まさか!?」
暁様すいみません。某にはどうしようもありませぬ。後は甲賀に伝わる秘技、隠れ身の術を使い船の端っこで過ごしていよう・・・そうするほかあるまい・・・。
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