帰って来た皆

 約束の日まで後1日だ。正確には後10時間程だ。電話して状況を聞いてもいいけどそんな信用していないような事は私はしない。


 真白とはまだ日が浅いけど私は信用している。


 昨日の彦太郎の歓迎会はかなりの大盛り上がりだった。リズが今生見た事ない物を作るとの事で鯛の塩釜焼きや野良猪の焼肉、牡丹鍋など色々用意してくれて食べたのだ。


 松さん竹さん梅さん達もお酒が入りガールズトークにも花を咲かせた。


 そして今は夜中の1時だ。いつもなら寝ている時間だけど私は色々考えている。いや、思い出している。隠岐島の事についてだ。


 元権力者が居るはずだが今は誰が差配しているのか。どう思い出そうとしても隠岐の歴史を、私はそこまで詳しくない。極力戦争はしたくないけど、誰かの下にはもうなりたくない。


 「まっ、なるようにしかならないよね」


 「美幸様は尾張まで手を伸ばさないのですか?」


 「いやいやリズはなに言ってるの!?尾張は暁君が居るでしょ!?」


 「だからこそですよ。気になるなら先に挨拶くらいしてもいいのでは?別に美幸様は美幸様で隠岐を拠点に根を張るのでしょう?」


 「う〜ん・・・。暁君だけならいいけど織田信長も居るでしょ?多分私はあの人とはイメージだけど合わないと思うの。もし喧嘩別れでもすれば暁君と戦になるかもしれないでしょ?さすがに暁君とはどんな理不尽な事でも争いたくないの」


 「いや多分あの方は美幸様に有利に動いてくれるかと思いましてね?少し恩を売ってもいいかと。隠岐に到着し、落ち着けば越前に入りましょう。もし史実通りなら浅井、朝倉の首を手土産に再会すれば暁様も喜ばれるのでは?」


 「この人数で大丈夫かな?」


 「大掛かりな作戦はできませんが小規模且つ大将首を狙うだけなら可能かと」


 「リズはいつから参謀になったのかな!?コラコラコラ!」


 「(クスッ)私はいつでも美幸様の幸せ、楽しみを思っているだけですよ。さぁそろそろ寝ましょう!明日から船旅ですよ!」


 リズに話し相手になってもらっていたがやはりリズとの、会話は落ち着く。眠くなかったはずか今はもう眠くなってきた。


 私はそのまま目を閉じて意識を離した。



 朝になると私はガヤガヤした声で目が覚めた。


 「てめぇーら!静かにしないか!美幸っちが起きてしまうだろうが!!」


 「「「「はっ!姐御!気をつけます!」」」」


 今のは真白の声だけどもう帰って来たの!?真白の声で目が覚めたよ!?まだ朝の7時だよ!?


 私は軽く顔を洗い着替えてから外に向かう。


 「てめぇーら!挨拶しやがれ!美幸っち様だ!!」


 「大姐御!おはようございます!姐御から新しく名付けてもらいましたリュウと申します!」


 「え!?リュウさん!?あっ、あなたは・・・」


 「はい!腕を斬り落とされた者です!その節は失礼しました!」


 「いや私は別に・・・私の方こそすいませんでした!」


 「いや自業自得っす!ただあれは少し快感・・・」


 ドフッ


 「おい!リュウ!なんだ!そのっすってやつは!?ちゃんと学んだのか!?あん!?それに快感とはなんだ!快感とは!?」


 「はっ!すいません!気をつけます!ですからもう一度蹴ってください!」


 ドフッ


 「気持ち悪い!二度と快感なぞ言うな!よし!次はポッポ!お前だ!」


 え!?まさか全員命名したの!?それを今から紹介するの!?松さん、竹さん、梅さんも外に出て来たけどめっちゃ、引いてる顔してるよ!?


 しかもポッポってなんなの!?人の名前じゃないよね!?


 「大姐御!俺はポッポです!」


 あ、うん。なんとなく分かった気がする。鳩に見えるような・・・いや人の容姿を貶すのはよくない。気をつけよう。


 

 いやぁ〜長かった。色々な人を覚えるのは大変だ。とりあえずまともな名前の人がまったくいない。ボラって名前やタガメって名前ばかりだった。真白は気にせずつけたようだが可哀想だと思う。


 ただなぜかみんな呼ばれると嬉しそうにして、蹴られると更に喜んでいる。ど変態になってしまったのだろうか。まともなのはリンさんだけだ。


 一通り自己紹介が終わり、竹さん達も紹介し真白からポリタンクに入ったいっぱいの神の子池の水を貰った。


 その時見慣れない女の子が居る事に気付いた。


 「あなたは誰かな?明の人かな?」


 「わっちはアラクネ!真白様のチョコレートを食べて人化しました!」


 「あぁそう。アラクネさんだったのね・・・えぇぇぇ!?アラクネ!?」


 「ははは!さすがの美幸っちも驚いてくれたようだ!そうだ!あーしが見つけて手懐けたんだ!ちゃんと契約を結んだんだぜ!?日にチョコレート10個ってな!アラクネ!名前をもらいな!」


 「わっちに名前がほちぃ」


 いや名前って・・・名前をもらいたい行動はゲームでは仲間になりたいって事だけどアラクネって仲間になる生き物だったの!?


 「じゃあ・・・リディア!あなたは今日からリディア!」


 確かギリシャ神話の神からきた設定だったと思う。元は染物の町リディア出身だったと記憶がある。だから街の名前を貰った。


 私が名前を言うと体をブルブル震わせて光に包まれた。幻獣を仲間にした時の演出だ・・・なら私に近いように・・・


 「ばぁぁぁぁ!!!わっち参上!!!美幸様!この身はいつまでもあなた様のために!!姐御!チョコレート楽しみにしてるぞ!!」


 「おう!迷惑かけるなよ!!!よし!美幸っち!行こうぜ!!」


 何で私の仲間はみんなこんなに個性が強い人ばっかりなのよ!!


 「彦太郎!私の安らぎはリズと彦太郎だけだよ〜!!」


 「か、可愛い〜・・・・」


 「え!?彦太郎!?」


 「おうおう!お前誰だ!?背が高いな!?わっちと織物勝負するか!?あん!?」


 「某は彦太郎と申す。ぜ、是非今度花摘みにでも・・・」


 「やだよ〜!わっちは織物が好きなんだ!みんなにわっちが自ら出した極上の糸で召物作るのが夢なんだよーだ!」


 「は!!某とした事が邪な考えを!!美幸様!どうかお許しください!某はリディア嬢に邪な考えをしてしまいました!責任を持ち今からこの腹掻っ捌いてーー」


 「はい!ストーップ!!あなたそんな侍じゃないでしょ!!?なに言ってるの!?それにリディア!あなたも彦太郎と仲良くしなさい!彦太郎は優しいんだから!」


 2人は人間ではないけどくっついてくれれば助かる。ってか何で彦太郎もおかしくなってしまうの!?まぁけど彦太郎は真面目すぎだからリディアとはちょうどいいかもね。


 「竹さん!松さん!梅さん!お騒がせしました!島に未練はないですか?」


 「「「はい!!」」」


 3人ともいい返事だ。うっすら涙流してるのは黙っていてあげよう。生まれ故郷を離れるって事だしね。


 私達はやっと九州の海域を抜ける事とした。島津さんには勝手してしまい申し訳ない事をした。黒木さん、遠矢さんにも我が儘を貫いてしまった。明日、明後日には会えないけどいつかまた会いましょう!


 「みんな!!!バイバーイ!!艶!出航!!目指すは隠岐島!!!」


 「分かりましたわよ!!!」


 「おい!リュウ!大姐御のケツを離れるな!見失うなよ!!」


 ドフッ


 「おい!誰がケツと言っていいと言った!?ボラか!?今のはボラが言ったのか!?」


 「違います!俺じゃありません!!」


 「あん?じゃあ誰だ!?」


 「すいません俺です・・・」


 「おめーは誰だった!?」


 「俺はゴンズイです!」


 「おう!そうだった!そのドジョウ髭がゴンズイのようだからだったな!!まぁいい!とにかく!美幸っちから離れるなよ!帆を上げろ!!」


 「真白様!帆がありません!!」


 ドフッ


 「ポッポ!空気を読め!!分かるだろうが!!」


 ははは。個性豊かな仲間ばかりだよ。私の旅はこれから。みんなと笑って暮らせるだけで私は満足かな?


 「さぁ!みんな!出航!!!」


 「「「「「オォォォォーーーーー!!!」」」」」

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