目指すは龍神杉
今屋久島の目の前まで来ている。メンバーは私と艶の2人だ。
昨夜は新たに加わった女性の2人の介抱と、説明で大変だった。認知症の女性だった方は名前は梅さん。そして、もう1人は松さんって方だ。正直、松竹梅かな!?と思ってしまった。
とにかく、治療して元気になってもらい私たちの説明を根気よくしてご飯も食べてもらった。そりゃもう驚きまくりだ。先に目覚めた竹さんのおかげで悲鳴を聞く事はなかったけど一々驚いてくれるものだから私もビックリする。
そして、この人達も島を出る事は反対しない。家族には会いたいが死んだものとしてもらう方がいいとの事。本当は島の人全員を助けてあげてもいい気はするけどそこまでこの島で何かをするつもりはない。
まずは私達の事を分かってもらうために教育だ。今日、明日、明後日でアラビア数字から楷書体を学んでもらうつもりだ。そのために【アインシュタインの飴】というアイテムを渡している。
このアインシュタインの飴とは舐めると頭脳が良くなり、ゲーム内での効力とすれば頭がかなり良くなり、少しカリスマ性が上がり、内政パラメータが上がるアイテムだ。
これは購入する事ができなくて、cpuの行商人がたまに売ってくれる事でしか手に入らないアイテムだった。一応ラックが高ければ売りやすくなるとは言われていた。私はこのアイテムを20個ほど持っている。そして、どうせだから私も食べようと一粒舐めたのだが・・・
「苦ッ!辛ッ!臭ッ!酸っぱ!」
人生で食べた事のない味だったため途中で吐き出してしまったのだ。人間が嫌いな味を集約したような飴玉だった。
ゲームでは味が分からなかったがまさかこんな味とは・・・。だけど、あの3人には我慢して食べてもらった。ちゃんと口の中も確認してだ。竹さんは顔を顰めながら食べてくれた。
梅さん、松さんは泣きながら食べていた。リズが作った物が美味しかったみたいで飴玉も美味しい物だろと疑わず食べてもらったけど、ビックリしたと思う。
まぁ兎にも角にも飴玉を食べてからのリズとのお勉強だ。リズにも頑張って教えてもらわないといけない。
「美幸様?どちらに上陸致しますの?」
「う〜ん。どうしよっか・・・」
考えた結果、北側にある現在の元浦という場所に上陸する事にした。
そしてここでしくじった事がある。この屋久島・・・現実では行った事はなくまさか人が住んでいるとは知らなかった。現在は島津家 支配に入った禰寝って人が治めているとの事。何故それが分かったかというと・・・
「貴様等!何者だ!なにゆえこの地に参った!?この地は禰寝重長様が治める地ぞ!」
と、褌一丁で火縄銃をもった男が自己紹介してくれたからだ。
それを見てすかさず艶が私の前に出る。
「貴様こそ誰に向けて銃を向けておるのか分かっていらして!?このお方は、如月三左衛門美幸様ぞ!!分かったのなら頭が高い!!」
「如月?三左衛門美幸?聞かん名だな?しかもお前女か?しかも従者も女か。あんな大きい船は中々ないがボロ船で島に流れ着いたということは罪人であろう?大人しくしていればすぐに終わる」
男はそう言うと元からほぼほぼ裸なのに褌を外し、上に向いたイチモツを出した。正直気色悪い。
「天誅ッッ!!!!」
艶は私ですら追えないくらいの速さで一刀の元、男のイチモツを斬った。
「うぎぁぁぁぁ〜〜!!」
「美幸様すいません。思わずカッとなってしまいましたわ」
「いやいいよ。私も斬ろうかと思ってたから」
ちなみに艶が使っている愛刀は私が渡した【雷鳴黒刀】と呼ばれる日本刀だ。その名の通り雷属性の刀で、刀に雷を纒わして斬る刀だから刀身が黒くなっている。
12属性名剣ガチャの当たりの一つだ。ガチャ一回3000円という馬鹿高い値段だったがこのゲームの運営では珍しく、最低でも当たり確率が35%あると言われていて私も3回は引こうと思ったけどまさかの一回で引けた1振りだ。
暁君はドツボに嵌り、8回引いても当たりが出なかったんだっけ?懐かしい。
固有技として【スパークショット】という技がある。この男には技すら出さなかったようだが素の刀の斬れ味に雷を纏わせ相手の剣や刀を焼き切ってしまう技だ。ただ、相手の剣や刀の防御力が高ければ相殺されてしまう欠点もある。
あまりにも強すぎる性能だったためナーフされてしまったがエフェクトが物凄くカッコよく私は好きな刀だ。まぁ今は艶の刀だけど。
「どこのどなたか知りませんが恥を知りなさい!艶行くよ」
「はーい!」
「ま、待ってくれ!!」
シャキンッ
「それ以上口を開くと冥府に送るわよ?」
「ヒッヒィ〜〜〜」
雷を纏い斬っているから血も出ない。だからスリップダメージも入らない刀だけどやはりカッコいいの一言だ。あの男は可哀想だけど自業自得。
それから私達は一応船にカモフラージュネットを掛けて【巨人の心臓】【神速のブーツ】を取り出し装備する。
巨人の心臓とは謂わばドーピング薬だ。名前こそ巨人と付いているが材料は【妖精の粉】と【黄金兎の角】と【ポーション】を混ぜ合わせるとできるアイテムだ。レベル1の錬成炉でも作れる初心者プレイヤー御用達のアイテムだ。効力としては12時間体力、パワー小アップ。
そして神速のブーツは名前の通り走る速さがアップだ。これは通常ガチャで普通に出てくるハズレアイテムだがこれも移動アイテムを持っていないプレイヤーは重宝するアイテムだ。
この二つのアイテムを使い山まで走り抜ける事にする。目指すは龍神杉だ。この龍神杉の葉っぱがあれば素材の一つの採取は完了だ。
「それにしても凄い木ばっかりだよね〜。本当に神秘的だ」
「私には全然その気持ちが分からないですわね」
いやそこは嘘でも乗って来てよ!?せっかく感慨深く思ってるのに・・・。
道中、人と会う事はなかった。というか、とても人が入る場所のような気がしない。踏み入る場所ではないような気がする。
驚異的なスピードと体力で、ものの1時間もしない内に目的の龍神杉に到着した。
「そう!そう!これよ!ゲームと同じだ!!けど本当ならこの木の中にーー」
ポワンッ
「美幸様!?」
ポワンッ
気付けば木の中?に吸い込まれた。
「え!?ここ現実だよね!?いや、ゲームだったか・・・でもまさか本当に・・・」
「よく来た。人間よ。待っていた」
「美幸様!!」
「艶、大丈夫よ。まさかミノタウロスが居るなんて・・・」
「私が成敗致しましょう」
確かてっぺんの杉の葉が必要だけど取ろうとすればワープするのだったよね。まさか本当にこんな事になるなんて・・・。けど、ミノタウロスって喋ってたっけ!?ゲームではブボォォォォーーーーー!って叫んで襲ってくるような気がしてたけど・・・。
「ここは亜空・・・人間の住む場所とかけ離れた場所だ」
「えっと・・・言葉分かりますか?」
「うむ。龍神杉を守り1500年・・・雨の日も風の日も台風の日も灼熱の夏の日も冬の日も我は待った。だが・・・誰1人としてこの世界には人間が訪れなかった・・・」
おいおい!?何か語り出したよ!?
「そんな事、私は知りませんわよ?さぁ!あなたを成敗してさしあげますわよ!」
いやいや艶は鬼か!?1500年も1人でここに居るとか正気の沙汰じゃないよ!?私なら気が狂ってしまうよ!?それを問答無用で艶は斬るって言うの!?
「我は考えた。何故我はここに居るのか。誰に何のために作られたのか・・・我思う故に我あり」
いやいやあなた誰よ!?見た目ミノタウロスなんだけど!?ルネ・デカルトの仏語の自著の引用だと思うけどまだこの世界で産まれていないよ!?
「お黙りなさい!!」
「艶、待って!少し黙ってて」
「我は戦う事のために作られたのか・・・」
「えっと、ミノタウロスさん?でいいですか?」
「我は彦太郎と申す」
いやいや、名前あるの!?しかも彦太郎!?凄い名前ね!?
「じゃあ・・・彦太郎さんは私達と戦いたい?私はこの龍神杉の葉っぱを少し貰いたいんだけど・・・」
「好きなだけ持って行きなさい。頭が重くて敵わないのだ」
「頭が重い?」
「うむ。我はこの杉の木を具現化した者という存在だ。何故このような醜悪な見た目なのか・・・時折り水面に反射する我を見て溜め息を吐くばかりだ」
あっ!確かそんな裏設定があったかも!?杉の木の化身かなんかだったような・・・。なんかミノタウロスさん・・・彦太郎さんが可哀想になってきた。この世界には多分ここに来る人は居ないんじゃないだろうか・・・。
誰か他のプレイヤーが刻黄泉の薬を使えば分からないけど期間限定のガチャっぽかったし、期間もそうなかったはず・・・しかも当たりも大した物じゃなかったから引く人は少ないだろうと思う。しかも私も散々回してやっと出たアイテムだったし・・・。1番大事な事・・・フレンドの居ない暁君のフリーシナリオの鍵部屋だから誰も入れないんじゃないかな!?
「もし・・・ここから出られるなら着いてくる?」
「美幸様!?何をおっしゃってるの!?」
「艶も考えてみて!あなたがこんなところに1500年も閉じ込められてどう思う?嫌でしょ?」
「そりゃあそうですけど・・・」
「そう言ってくれる事はありがたいが我が外に出ればたちまち討伐されてしまうだろう・・・我はここで尽きない命朽ち果てるまで大人しくしておく」
見た目によらず考え方が人間寄りで男前な性格じゃん!よし!私が一肌脱ぐか!!
「はいはーい!実は・・・じゃーん!【エディターボール】!これが使えるならあなたは外に出られるんじゃないかな!?」
「「それはなんだ?ですの?」」
ふふ。2人ハモッたね!仲良し確定だね!
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