新たな考え

 「目が覚めましたか?」


 「こ、ここはどこですか!?あなたは!?」


 「私は如月三左衛門。あなたを治療した者です。そしてここは私の家です。お腹空いてるでしょう?こちらにどうぞ」


 私は女性の手を引っ張りながらダイニングに向かう。


 グゥ〜〜〜〜〜


 食べ物を見た瞬間、女性から漫画のような盛大なお腹の音が鳴った。初めて見る食べ物もあるだろう。だけど食べ物と認識はしているみたいね。


 「紹介します。リズと艶です。この料理はリズが作りました」


 「リズと申します。お口に合うか分かりませんがゆっくりお食べください」


 「すいません。お返しできるものがございません。なにより生き長らえるつもりもございません。治療してもらいましたが堪忍してください」


 「何故、死にたいと?」


 まぁこれを聞くのは酷だとは分かる。けど本人の口から色々聞いておかないといけない。


 そしてこの女性が語ってくれたのは息子と2人でこの地で暮らしていた。たまに南蛮の船の人がここへ来て色々な物と交換したり小さな畑で食い繋いでいたが、いつしか隣の種子島に船が行くようになりこの島には船が入らなくなったと。


 2人分の食料を賄う事はできない。動けなくなった自分は山のとある場所に息子に連れて行かれ・・・


 そう言うとこの女性は泣き出した。まぁ辛いだろう。私の感想はこれだけだ。島を出ようにも出られるわけもない。


 「まず・・・生き長らえるつもりはないと言いましたがそれは許しませんよ。命を捨てたい気持ちはわからない事もないですが今はやめてください」


 「で、ですが一時良くてもーー」


 グゥ〜〜〜〜〜


 女性からもう一度お腹から音が鳴った。体は正直だ。体が食べ物を欲している。


 「命令です。食べてください。せっかく艶が獲物を獲り、リズが料理した物です。今生味わった事のない物と断言しましょう」


 ゴグッ


 今度は唾を飲み込んだね。食べるとは生きる事・・・せっかく治したのに勝手に死なれては困る。


 「こここれを私が食べてよいのですか!?」


 「えぇ。どうぞお食べください」


 「ハフッハフッハフッ・・・美味しい・・・ハフッハフッハフッ………」


 まあ見事な食べっぷりだよ。余程お腹空いてたんだろうね。こんな時に食べ方を注意するような事はしない。それに本当に死ぬ気なら食べないはずだ。けど食べるという事は生きたいという事だ。


 「食べながらでいいから色々お話ししてもよろしいですか?」


 「あ、はい!すいません!ど、どうぞ!!」


 「あなたのお名前を聞いても?」


 「すいません!私は、竹と申します」


 「竹さんですね。リズ?艶?あなた達も聞いてくれる?」


 「「はい!!」」


 「竹さんも聞いてください。私は決めました。あなたには生きてもらいます。その山の上?に居る人達も私が助けましょう」


 「美幸様!?」


 「ごめんリズ。私の我が儘なのは分かっている。けど許して?」


 「・・・畏まりました。艶!すぐにスパイバードカメラを飛ばし、場所を確認し早急に連れて来なさい!」


 「分かりましたわよ!」


 「すいません!助けていただけるのはありがたいですが私は何もできません!ましてや、その・・・銭もありません・・・」


 「ふふふ。今考えついた事があるのですよ!その代わり・・・この島から出ますがいいですね?」


 「島から・・・出る!?」


 「まぁまずは食べて寝て英気を養ってください。仲間が4日後に来ますので紹介します」


 私が考えている事・・・隠岐島で商いをする事だ。その先頭に立つ人をこの人になってもらおう。私にはお金なんかいらないけど、真白に言って缶詰みたいな保存食なんかを作れる機械を作り海産物の缶詰やレトルト食品擬みたいなのを作り、リンさん達に各地に出稼ぎに行ってもらえば生活は成り立つんじゃないかなと思っている。


 ちょうど船の中継地点としてもいい場所だろうと思う。

それに並行して女性の服や着物、下着類なんかを作り隠岐の名産品として銘打って売ればいずれ名前が広がり購入したい人が現れるはずだ。


 しかも隠岐は・・・後鳥羽上皇や後醍醐天皇が流刑にされて子孫が居るはずだ。元、公家や公卿の人達も居るはずだろう。品の信憑性も高くなるはず・・・。


 そうこう一気に考えていると艶が2人の女性を連れて帰って来た。見るからに竹さんみたいに衰弱している。


 「生きていたのはこの2人だけでしたわ!」


 「艶、ありがとう。ポッドに乗せて治療しよう」


 この2人は間一髪だろう。骨と皮だけの見た目だ。しかも意識もない。息だけしている感じだ。


 ポッドですぐに治療すると2人共極度の栄養失調。それとその内の1人は・・・若年性認知症と診断されていた。確か65歳未満で発症で若年性認知症と呼ばれると思うけど、言っちゃ悪いけどとても65歳未満には見えない。


 そしてもう1人は・・・強迫性障害と診断されていた。この人の人生がどんなものだったかは分からないけど相当苦労したのだろうと思う。


 シュィーーーーーン  ピンポーン


 程なくして2人の治療が終わる。すぐに目は覚めるだろうがまた驚いてしまうんだろうな。


 「私もこのようになっていたのですね!?」


 「え!?竹さん!?」


 「すいません。今私にできる事はこの2人の目覚めを見守りする事です。この箱から出ると体が軽くなり頭が冴え渡りました」


 「これが体の悪い病気や怪我を治す場所だからね。なら、竹さんに任せてもいいですか?」


 「はい」


 聡明な女性のように思う。人当たりも良さそうだし、なんとかやっていけそうな気がする。


 「それと・・・息子さんに会いたいと思いますか?」


 「・・・会えるならこの手で抱きしめたいと思いますが、息子も私を捨てるくらい追い詰められていたのでしょう・・・構いません。私は死んだ者と思っているでしょう」


 「そうですか・・・。もし何か欲しい物があるなら言ってください。先に風呂にでも入ってきてください。リズ?あなたも風呂に入ってきて?竹さんに色々教えてほしいの!」


 「畏まりました。竹様?こちらに」


 飯野を飛び出した初日から濃い1日だ。まずはこの3人に私達の事を知ってもらい慣れてもらおう。屋久島にはすぐに行き目的を達成すればすぐに戻ろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る