見たくない闇の部分
私はポッドの診察の結果を見て驚いた。栄養失調、右肩脱臼、逆流性食道炎、軽い鬱病。年齢は68歳。
現代の68歳の女性の見た目とは程遠く、見ただけならば80歳を超えていると言ってもおかしくない。それでも人間50年のこの時代では長生きしているほうだと思う。
シュィーーーーーン ピンポーン
「でもこの救急ポッドって本当に凄いよね〜。どんな原理なのか分からないし、怪我も病気も絶対に治るもんね」
「人によってはメディカルポッドとも言いますね。どうしましょう?少し眠ってもらいましょうか?」
「そうだね。少し聞いたけど口減らしって言ってたよね。全員は助けてあげれないけど見えた人は助けてあげようか」
「優しいですね。ですが1人助けるとどんどん集まってくると思いますが、今は良くても行く行くは・・・」
「分かってる。圧倒的に食料が足りてない」
「ならば1人を助けようと変わらないと思いますが?この方も捨てられた人間。頼る者も居ないでしょう」
リズの言葉は冷たいが的を得ている。私がその場凌ぎな事をしても結果は変わらないだろう。かと言って、私のアイテムで畑を作り、土壌を作り、作物の栽培促進をしたところで、他の元気な島民に奪われてしまう恐れまである。
「どうしたものかよね〜・・・」
「ただ今戻りましたわよ!!」
リズと真面目に考えていると艶が帰ってきた。大量の魚を抱えている。
「おっ!?マグロにそれは・・・」
私が知ってる魚はマグロしか居なかった。艶が獲った魚だから私の知らない魚でも、多分美味しい魚なのだと思う。
「美幸様、これはクロマグロです。それにブダイ、石垣鯛、クルマエビ、カンパチですよ」
「さすがリズ!じゃあ今日は楽しみにしておくね!この女性の事は考えておくよ」
「畏まりました」
リズは艶から魚を受け取り台所に向かって行った。艶は私の方を見て固まっている。
「うん?艶?どうしたの?」
「褒めてくれてもいいのですよ!?」
「え!?」
「私(わたくし)が1人で獲った魚ですの!褒めてくれてもいいのですよ!?」
「分かった分かった!!艶!ありがとう!助かるよ!」
本当に変な性格になってしまったものだよ。
それからお風呂に入り、湯船に浸かりながら思案する。だけど私ができる事と言ってもせいぜい、家を一軒出してあげて、適当な区画に畑を作る事しか・・・それにあの人に農業ができるか分からないし・・・。
「失礼しますわよ!お背中お流し致しますわよ!」
「艶!?なに!?どうしたの!?」
「いえ、真白様に先日の件でかなり怒られてしまいましたの。美幸様を1人にするな!との事ですの。だからこれからは必ず一緒に居ますの」
「大丈夫だよ。私も少しは戦えるし!私は全部洗ったから艶を洗ってあげるよ」
「じゃあお願いしますわ!」
いや少しは社交辞令で遠慮しろよ!と思ってしまうが、艶も色々学びながら頑張ってくれてるし、魚も獲って来てくれたからな。私の大事な仲間だしね。
艶の体を初めて見たけど、人間と何も変わらないように思う。日焼けサロンにでも通ってるかのような肌だ。そして私にはない二つの大きな胸・・・身長は私もアバターと同じ170センチ。
並の男ならすぐに惚れてしまうのだろうなと思う。
艶の体を洗い終わり、2人で浴槽に浸かりながらあの女性の事について相談した。
「助ける事は助けたけど今後をどうしたらいいか分からないの。艶が私だとすればどうする?」
「私は美幸様の下僕・・・美幸様が望むままの事をするまでです!」
「そうじゃなくて、艶は艶のやりたい事をしてもいいの!ちゃんと考えてくれない!?」
「では・・・・私なら怪我も病気も治したのなら後は放っておきます。そうですね・・・リズ様の夜ご飯くらいは食べさせてあげるでしょう。ですが後は放逐致します」
「え!?可哀想じゃない!?元々口減らしだって言ったでしょ!?すぐにまた餓死寸前になるんじゃない!?」
「だからこれが私です。私は美幸様の事を第一に思います。人間でもない私を可哀想と言ってくれ私に生の意味を教えてくれましたわ」
「そりゃそうでしょ!?見た目は関係ない!感情があるから真白が言った物資にと言うのを否定したの!」
「だからこそですわ!私が生きる目的の第一は美幸が安全に過ごしてもらう事!リズ様も御守りする事!ただそれだけですの」
「それはだめよ?艶は艶の思う事やりたい事をみつけてこれから好きに生きていいのよ!私は自分を守れる。ただ・・・それでも私が生きてる間は隣に居てほしいかな?話し方も感情もこれからどんどん学びなさい!」
私がそう言うと艶の目から光る液体が流れ落ちた。
「え!?なに!?大丈夫!?」
「大丈夫ですわ。これは涙と同じ感情ですの。流れているものはエーテルですが」
いや涙がエーテルって・・・。
女性の話から私達の関係性の話しをしたところで風呂を上がる事にした。
湯から上がった艶を見て、やはり思う。ナイスバディだ。ボンキュッボンだ。
結局女性の結論は出なかった。
「贅沢すぎよ!!こんなマグロの頬肉がこんなにも食べられるなんて・・・」
「ふふ。ありがとうございます」
風呂から出ると夕食の準備がされていた。私は初めて魚の活き造りを見たのだ。現実世界でも食べた事ないマグロの頬肉・・・。これにはビックリだ。口に入れると勝手に溶けていくのだ。総じて脂身だがくどい脂身ではなく、上品なのだ。
そして見るからに食欲が失せるような色だったブダイの皮付き酢〆、これが殊の外美味しい。〆さばとは違う美味しさがある。
石垣鯛の刺身と煮付けも絶品だ。クルマエビも現実ならもったいないだろうエビフライにしてくれている。私の大大大大好物だ。
ゲームの時も総じてこのゲームのご飯は美味しそうに見えた。アンドロイドが作るプレイヤーも居れば、自分でクッキングするプレイヤーも居た。
そして音。音がもの凄くリアルだったのだ。私もよくリズに色々作ってもらっていた。現実ではとても食べられる事のできないオーストラリア料理のポッシュパイやロシア料理のビーフストロガノフなどだ。まだまだ他にもリズに作ってもらっていたけど本当にリズは凄いと思う。
食べたいメニューを言えばだいたい作ってくれていたからだ。このゲームでご飯を食べて、現実でもご飯食べてたっけ?懐かしく思う。それが今やこっちが現実になってしまったのよね。
「リズ!!100点!どれもこれも美味しいよ!!」
「元々の素材が良かっただけですよ。明日の朝はフォカッチャの予定です。そして屋久島にて昼ご飯は今日の魚介の出汁を使ったラーメンを予定しております」
「異論なし!!リズシェフにお任せするよ!!」
「(クスッ)ありがとうございます!私もいただいても?」
「当たり前じゃない!食べよう!艶!艶も食べなくてもいいかもしれないけど食べよう!!美味しいよ!」
「しょうがないですわね!?そんな優しく言われれば食べてあげてもよろしいですわよ!!」
うん。明日以降艶には言葉の勉強をさせよう。
3人が黙々と食べていた頃、ポッドにて寝てもらっていた女性が目が覚めたのか悲鳴が聞こえた。
「うきゃぁぁぁぁぁ〜〜」
「起きたみたいだね。あ!2人とも食べてていいよ!私が連れてくるから!」
今後の事の結論はでていないがとりあえずこの女性にも食べてもらおう。ポッドで治したから私達と同じ物もすぐに食べられるはずだ。
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