涙の別れ

 家で待機してもらっていた艶、リズ、真白は私の慌て具合で恐らく分かっていると思う。


 「真白?私のしたい事分かる?」


 「はいよ!この地を去るから例の周辺に居る奴達に土産だろ!?」


 「うん。OK。貿易地だから銀の需要が高くなってると思う。だから銀の大判を1家庭に10枚。金の大判も1家庭に5枚。すぐに錬成してくれる?」


 「任せときな!!」


 「艶は明の人達を外に出させて!リズは正次郎さん夫婦を呼んでくれる?」


 「「はい!!」」


 時間もかからずすぐに正次郎さん夫婦はやって来た。


 「正次郎さん美琴さんすいません。やはり望まぬ形になってしまいました」


 「そうですか・・・・」


 「申し訳ありません。やはりあなた達を連れて行く事は・・・そして、私からのお願いがあります。大事な役目です」


 さっき義久さんはいつか戻って来いと言ってくれた。戻ってくるかは分からないがいつか遊びに来れるくらいにはなりたいと思う。


 「なんでしょうか!?」


 「私はこの地を離れます。ですが、近い内に戻ってきます!それまでこれを預かっておいてください。それと、ある物をこの城下に居る人達に渡してくれますか?」


 「ある物・・・・?」


 「美幸っち!!お待たせ!!速攻で作ったぜ!!」


 ナイスタイミングだ。さすが真白だなと思う。しかもちゃんと持ちやすいように木箱に入っているからそのまま渡せばいいようになっている。


 それに私の会話を聞いていたかのように正次郎さん夫婦に渡す物だけ真白は私が分かりやすいように口頭で教えてくれたのだ。多分、真白からの気持ちも入っているのだろう。それが何かを聞くのは無粋な事だ。


 「これは正次郎さん達に・・・残りをこの一帯の城下の人達に渡してほしい」


 そして、私が正次郎さん達に預けると言った物・・・それはAK47と弾4000発だ。これは正次郎さんにだけ渡すつもりだ。これからまだまだ戦に駆り出されるだろう。生き抜いてまた笑って出会うために死なれてしまうのは困る。


 「こ、これをおいに!?」


 「はい。先の戦で使い方、掃除など教えたの覚えてますよね?これでみんなを守ってください。生きて・・・生きて必ずまた会いましょう!」


 「・・・・必ず!!」


 そして、その横で静かに涙ぐんでいるのは美琴さんだ。美琴さんには特別に完全回復スプレーを一つ渡してあげた。


 「美琴さん?こんな形になりすいません。正次郎さんにも言ったように必ずまた会いましょう。そしてこれは寿命以外の怪我や病気全てに効く薬になります。もしもの時のために・・・傷に向けてここを押せばいいだけです」


 私も少し寂しくなり涙を我慢しながら説明を終えると美琴さんは私に抱きついてきた。


 「必ず・・・必ずまた会っていただけるとお約束くださいまし!!」


 「はい!必ず!約束致します・・・すいません・・・」


 私は最後の言葉を言い終えると涙が我慢できなくなった。また会える保証なんてない。この時代は残酷だ。だけどまた美琴さんには会いたいと思う。


 「美幸様?そろそろ遠矢様が勘付いてしまうかと・・・急ぎましょう」


 遠矢さんや黒木さんにもお世話になった。


 「美琴さん?黒木様御夫婦と遠矢様にこれをお願いします。最後にお願いばかり申し訳ない」


 私は更にインベントリーからお菓子のクッキーと【ロングソード】2本を取り出した。


 このロングソードはその名の通り刃が長い西洋の剣だ。ただ材質はミスリル鋼。固有技や特殊能力はないが素のポテンシャルが高い剣だ。ゲームでは意外にも上級者達も重宝しているコスパの良い剣だ。


 リアルマネーではなくゲーム内通貨で回せるガチャのハズレで貰える良い剣だ。


 「この刀を2人に渡せば良いのですね!?」


 「さすが美琴さん!回転が早い!その通りです!そしてこちらの箱を黒木様の奥さんの伊織様にお渡しください。では・・・」


 それから艶が明の人達を連れ出した事を確認して、ドクターハウスをインベントリーに収納した。


 「キエタ!?」「ドウナッテイル!?」


 「これも如月様の技ですか?」


 「そうです。では・・・美琴さん!正次郎さん!よろしくお願いします!リンさん!行きますよ!」


 "天翔!!行くよ!2人乗せてくれる?"


 "お任せあれ!!戦闘は自信ありませんが脚の速さには識者から定評のあるこの天翔!!どこまでもいつまでも駆け抜けてみせます!駆け抜ける喜び・・・天翔!!"


 まったく調子のいい馬だと思う。どこか外車のcmの一コマみたいな言葉まで言ってるし。


 

 そして出発しようとしたその時真白が凄まじい物を作ったみたいで持って来た。


 「よう!明の者よ!お前達はこれに乗りな!!」


 それは馬車だった。まぁ馬車なんだがなんか馬がおかしい。明らかに体躯がデカいし足が太い。目が赤くツノまで生えている。


 「真白!行きながらでいいからちゃんと説明してよね!!」


 「了解だぜ!!」


 それから私たちは加治木に向かう。船で出航だ。


 ちなみに程なくして説明を受けたのは足代わりに馬を作ったらしい。生身の馬ではなく作り物らしい。真白や艶のようにカリホルニウムやエーテル、蹄にはヒヒイロカネを使っているとの事・・・。


 また考えつかないものを作ってしまったんだなと思う。


 「美幸様?行き先はどちらにされる予定ですか?」


 後ろに乗っているリズから聞かれる。


 「う〜ん・・・考えていないんだよね。どうしよっか?どちらにしても今は九州に居るから先に屋久島に行くよ。杉の葉を採取して北海道に行き、それから拠点を考えようと思う」


 「では隠岐島なんていかがでしょう?隠岐は内地から程よく離れているにも関わらず本島と交流があります。島には黒曜石から始まり、入り組んだ地形を利用して水産業を行い、放牧して肉なんかも加工できますよ」


 「おっ!さすがリズ!じゃあ隠岐島にしようかな?」


 「ありがとうございます。それに対馬程ではありませんが造船技術も向上すればリン達を明攻略に使えそうですね」


 「は!?明攻略!?なんで!?」


 「(クスッ)言ってみただけですよ!」


 まったく恐ろしい事言うリズだなと思う。明攻略なんか無理でしょ!!大阪くらいまで暁君が織田信長と進出してくるとして私は中国地方・・・毛利家を貰ってしまおうかな?」


 

 加治木に着いた私達・・・すぐにカモフラージュネットを外して船に乗り込む。


 「リンさん達は自分の船に乗るでしょ!?着いてこれる!?」


 「なんとしても追いついてミセル」


 不安だな。確かに和船より大きな船ではあるけど、漕ぎ手が足りないだろう・・・。


 「美幸っち?あーしが改造してあげよっか?」


 「うん?真白が改造!?そんなすぐにできるの!?」


 「任せんかい!」


 いやなんでいきなり関西弁!?


 すると真白は私のインベントリーみたいに見えないところから錬成炉を取り出し、色々放り込み作業を始める。


 目にも止まらぬ早さで20分もしない内に作業が終わった。


 「よーし!!野郎ども!!出航だぜ!キャプテンはリン!操縦士はあーしだ!あーしの操縦を覚えやがれ!!」


 いやいやなんちゅう口上だよ!?


 「「「「アネゴ・・・・」」」」


 いやいや明の男達もどこでそんな言葉覚えた!?


 「リンさん?真白はあんな口調だけど悪い子じゃないから許してね?」


 「あ、あぁ。スマナイ」


 見た感じ帆を外して軽くして、竜骨を鉄で覆い明らかにスクリューエンジンを取り付けたように見える。それにハンドルの横に禍々しく光ってる何かが備え付けてあるけど・・・。


 「美幸っち!あーしがあれを操縦するぜ!あぁ!あれの動力は飛行石だぜ!空に浮かぶ力を水面に向けると船は莫大な推進力を誇るんだぜ!その美幸っちの船には負けるかもしれないがこいつも中々だぜ!?」


 「へぇ〜!そんな使い方もあるんだ?確か空のダンジョンに向かうのに使ったアイテムだったよね?名前の割に浮かぶだけのアイテムだったと思うけど?」


 「はは!要は使い方だ!真白様にかかればこんなもんよ!」


 確かに真白にしか使えない物だと思う。


 「よぉ〜し!出発しよう!目標は屋久島!!」


 「「「「オォォォォーーーーー!!!」」」」

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