大盤振る舞い

 この日の夜、遠矢さんに盛大に紹介された。


 「見張りの者はしょうがないが揃ったな!?紹介しよう!殿が言った事ではないがまず間違いなく第一功であろう如月さ・・・如月だ!」


 私が女だと確実に分かったから名前を言うの躊躇してる感じかな?気にしなくていいのに。


 「ゴホン・・・如月三左衛門です。男装してますが女です!」


 「なんと!?」「まさか!?」「ぬしが女とな!?」


 最後の人!!なんで女とな!?って驚くのよ!?顔はどう見ても女でしょ!?


 「おい!無礼な口を聞くなよ?なんと言っても如月は本気になれば気づかぬ間にあの世に送る武器をどこからともなく取り出す者ぞ?」


 「いや黒木様?勘弁してください!私は平和主義なのです!無用な戦は民草を疲弊させるだけではなく農作物まで被害を出し、その後に訪れる飢饉の原因にもなります」


 「ふん。よく言うぜ?殿やワシ達の次に如月が敵を倒したと言うのに驕るわけではなく平和主義とな?傑作だ!」


 「「「「ははははは!!」」」」


 いや何でみんな笑うのよ!?真面目に言ったつもりだよ!?


 「とにかく!私は無用な争いは好みません!本日は皆さんに見た事のないご飯をお出しします!存分にお食べください!」


 それから私は混乱を避けるため、一度下がり下女さんに台所に案内してもらいそこで既存の皿や陶器に料理を盛り付けた。盛り付けたと言っても皿に置いただけだけど。


 案の定料理人の人達は驚いていたが『これが私の技!』と言い切り凌いだ。料理頭と言われる、権兵衛さんという方が一つ一つこの料理はなんだ?なんだ?と聞いてくるから今度教えると言って黙ってもらった。


 出した料理は肉じゃが、コロッケ、ピザ、寿司、すき焼き、サラダ、ケーキ、プリン、日本酒、焼酎、ウイスキー、ビールと私のインベントリーに入ってる物の大盤振る舞いだ。


 まだまだ入っているけど今日はこの辺でいいと思う。多分これでも残るだろうと思うけど明日も食べれるし大丈夫でしょう。


 「こ、この料理は・・・」


 「お前等!覚悟して食せよ?如月が出す飯は殊の外美味い!」


 「さぁ!如月!乾杯の音頭を取れ!」


 「え!?私がですか!?」


 「当たり前だろ?さぁ!」


 こんな事やった事ないんだけど・・・


 「島津様がまだ帰っていませんが戦は終わりました!好きなだけ飲み食いしてください!乾杯!!!」


 「「「「乾杯!」」」」


 それからは皆見た事のないような目つきに変わった。まさに戦の時のような目だ。あの冷静な黒木さんですら酒の争奪戦に参加している。


 「島津家の掟だ!酒の席に身分は関係ない!!がははは!」


 遠矢さんも酒が入りおかしくなっている。


 私はやはりお酒は苦手だ。そして、酔った人のテンションには付いていけない。


 「おう!如月!!其方の活躍を聞かせてやれ!正次郎を助けた時の話だ!」


 「遠矢様!勘弁してください!」


 城詰めの男の人達が大広間に集まっているのが分かるが、やはり女性の方はいない。私はインベントリーに入っている、サンドイッチを取り出した。夜にサンドイッチはどうかと思うが片手間に食べるのにはちょうどいい。


 私は静かに廊下に出て待機していた下女さんらしき人に声を掛けた。


 「こんばんわ。お疲れ様です。よければどうぞ」


 「そ、そんな私如き者に如月様にいただき物なんて・・・」


 非常に面倒くさい。普通に『ありがとう』と言って食べてくれればいいのに。


 「はい!終わり!私は身分差が嫌いなのです。気にせず食べてください!手で食べる物ですよ!」


 「そ、そんな・・・」


 「あなたがどのような生まれでどのような境遇で城詰めかは分かりません。けど今はこれを食べてください。私は他にも回ります」


 半ば強引に手に渡して他に回る。行くところは台所だ。


 「ほら!やっぱ居た!皆さん!なにしてるのですか?」


 「「「「「き、如月様!?」」」」」


 5人の女性が居たけどみんながハモった。


 「何してるって皆も頑張ったのに食事が出来ないのは可哀想だなと思いました。これをよければどうぞ!サンドイッチって食べ物です!後は・・・・男の人達には内緒ですよ?」


 そう言って、私はインベントリーからとっておきのシュークリームを取り出した。元はゲームアイテムだが現実でもシュークリームは大好物だったデザートだ。


 「美琴様!?非常に甘い匂いが致しまする!!」


 「こら!冬菜!如月様に失礼ですよ!」


 「ははは!気にしないです。さぁどうぞ!食べてください!後、よければ身分の高い方の奥方様はどちらに居られますか?」


 私が質問すると、多分この下女さん?の纏め役っぽい美琴さんって方が三の丸に居ると教えてくれた。場所が分からないのでそのまま食べた後連れてってくれた。その道中・・・


 「如月様は・・・その・・・」


 「はい?なんでしょうか?」


 「女性と言われるのは本当でございましょうか!?」


 そんなに女に見えないかな?確かに服装は未だ男装だけど顔は中性的に作りはしたけど、どちらかと言えば女寄りだと思うけど・・・ショックだな。ゲームでは男に憧れてたから課金してアバターを中性的に変更したけど今は女でもいいかなと思う。意外にみんな優しいし。男尊女卑な世界かと思ってたけど島津家ではそこまで差は感じない。


 ただやはり、さっきのようなご飯なんかは先に男の人が食べてからとかはあるし、布をいっぱい用意してたから多分、酒の飲み過ぎで吐いた人に対して使うんだなと思う。


 「はい。中々見えないかもしれませんが歴とした女ですよ?胸はありませんが・・・」


 「その・・・御髪が・・・」


 あっ!盲点だった。確かにこの時代の女性はみんな髪が長い。私は所謂、ボブだ。だからか・・・。まあいつか伸びるだろうから気長に待とう。


 「短い方が動きやすくて楽なのです!」


 「そうですよね!獅子奮迅なる活躍とお聞き致しました。他国の方ともお聞きしております。此度は殿のためにありがとうございました。正次郎も大変に心酔しておられました」


 「え!?正次郎さんの奥さん!?」


 「はい。釣りの伏せにて旦那が志願したと聞き登城を許されました。さっき居た者達は皆、此度の戦や以前あった戦などで殿のために・・・島津家をお守りし、散っていった殿方の妻達です」


 「そうだったのですね。そうとは知らずに・・・」


 「いいえ。今回、如月様や遠矢様に配属された殿方は皆、生きていて驚いておりまする」


 「私は身近で人が死ぬのは嫌いです。お家を守るためは分かりますが死ねば終わり。生きてこそいい未来があるのです」


 「そうですね・・・」


 バタン


 「美琴さん!?大丈夫ですか!?」


 「すみません・・・如月様と話していると急に安心して・・・」


 張り詰めていた物がなくなったって事かな?


 私は栄養ドリンクを取り出して渡してあげた。


 「薬?ではありませんが気分が良くなると思います。蓋開けておきますので飲んでください」


 「そんないけません!お返しできるものーー」


 「はい!終わり!お返しなんて要らないですよ!後は自分で行けますので構いません!あの建物ですよね?


 「はい。本当にすみません」


 「いいですよ!じゃあ、それ飲んだら戻って構いませんからね?」


 そして教えてもらった建物・・・まあかなり大きい平屋の入り口に到着した。そこには薙刀を持ち、鉢巻をした女の人4人が見張っていた。


 「これより先は通す事叶いません。お引きください」


 「誰かしら?あっ、あなたが如月様でしょう?」


 「え!?はい。私が如月です。あなた様は!?」


 「私は広瀬!義弘様の側室です!」


 うわぁ〜・・・めっちゃ大物の人じゃん・・・確か身分が低くて、ここ飯野城ではなく加久藤城で住んでた記憶があるけど・・・


 「そんな顔してどうしたの!?私は下級武士の家柄だから気にしないでほしいの」


 「え!?あ、すいません!加久藤城に居るのかと思いまして・・・」


 「あ!そうなの!本当はあそこに居たのだけど相良家に攻められると聞き、私は身分が低いのに義弘様の過分な配慮にて此度は飯野にて過ごせと言っていただきましたの!とにかく、上がって!上がって!」


 なんかこのキャピキャピ系のテンションに付いていけそうにない・・・。


 

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