黒木の妻 伊織

 「あなたは誰ですか!?木崎原の戦いはどうなりましたか!?」


 「はい。妾は黒木実利が妻。伊織。戦いは終わりました。其方は女だてら、男の格好をし戦場を駆け、獅子奮迅なる活躍を致したとか?主人が褒めておりました」


 「え!?黒木様の奥様でしたか・・・それはどうも失礼致しました。戦は勝ったのでしょうか!?私の活躍なんて大した事なくーー」


 「おぉ!!目が覚めたか!!粥を持ってきたぞ!金創医に言い、治療させた!肩は大事ないか?」


 「黒木様・・・私はどのくらい気を失ってましたか!?助六さんは!?遠矢様はどうなりましたか!?」


 「うん?遠矢か?あいつも矢が刺さっておったが獅子奮迅なる活躍だったと殿が褒めておった。薩摩兵児は遠矢の事を言うのだとかな。俺は些か疑問ではあるがな。それと助六とはあの農民のやつであろう?其方が目が覚めると下僕として働くと言うておったぞ?」


 「え!?下僕!?なんでですか!?」


 「いやそれは事切れたところを不思議な力で蘇らせたのだろう?其方を背負って運んだのは助六ぞ?治療費なんか払えないから身体で返すしかないと意気込んでいたぞ?」


 「実利様?如月様は病み上がりにて・・・それに女性ですよ?そんな事も忘れたのですか?」


 「あ、いや・・・伊織・・・違うのだ。色々話をしたく・・・」


 「へぇ〜?私という妻よりこの女が気になると?そりゃあ如月様のような男勝りな身体はしてませんが妻の前で他の女性を褒めるなんて・・・」


 「いや待て!伊織!違う断じて違う!如月!とにかく暫しこの城で休め!相良も追い返した!伊藤も追い返した!第一功は間違いなく其方等であろうよ!誇れ!じゃあな!」


 助かった・・・。戦にも勝てたんだ・・・良かったよ・・・。


 奇しくもとりあえずは史実通りになったんだ・・・。これからどうなるんだろう。


 それに黒木さんの家庭は間違いなく、かかあ天下だ。


 ってか、まんま女の格好じゃん・・・やだよ!こんな服!誰もいないし着替えておこう。


 「痛ッ・・・いててて・・・」


 「おう!入るぞ!あ、いやすまぬ!出直す!!!」


 私はパンツも穿かされていなかったため気持ち悪かったのでインベントリーから取り出して着替えしてるところにタイミング悪く遠矢さんが現れたのだ。


 だけど何故か不思議とそこまで恥ずかしくは思わない。恐らく現実?だけど本当の私ではなくアバターだからなのだと思う。


 「遠矢様、大丈夫です。着替え終わりました。お入りください」


 着替えの間に金創医の方には悪いが【アカチン】にて肩は治療させてもらった。


 「お、おぅすまぬ。ワシは何も見ていないからな!?」


 「別に気にしていませんよ。それより遠矢様も失礼致します」


 私はすかさず遠矢さんの肩にもアカチンを使った。


 「薬です。すぐには無理ですが、半日経てば完璧に治るかと思われます」


 「そうか。いやすまぬ。助かる。だが貴重な薬をそう易々と使うな。ワシなら放っておいてもこんな傷くらいどうってことない」


 「いえ。バイ菌が入り手が腐り死んでしまう事もありますよ?それにお金なんて要りません」


 「な何を言っているのだ!?」


 まあバイ菌なんて言ったところでってのは分かってはいたがまずは意識改革からだな。ただの傷でも舐めてはいけない。


 「兎に角、私は目の前で人が死なれたり怪我したりすれば見過ごせないのです。そこだけ分かってください。治療にお金なんて要りません」


 「其方は・・・菩薩のようだな。殿は今、戦後処理を行なっている。伊藤の将多数、士分多数屠った。なんと言っても、大将の伊藤祐信だ。殿が一騎討ちし、倒した。見事なり」


 「それは良かったです。私は少し休ませてください。黒木様に粥をもらったので食べますね」


 「そうか。なら夜飯はワシの配下に赤犬を捕まえさせてやろう。滋養を付け休め」


 え!?赤犬!?犬!?犬なんて食べたくないんだけど!?


 「遠矢様!!!犬は食べたくありません!!なんなら私が皆様に見た事ない物食べさせてあげます!そうですね・・・城詰めの人みんなで勝利の宴をしましょう!」


 「お!?如月が出す飯か!そりゃ〜そっちの方が楽しみだ!分かった!殿達が帰ってくればそれなりの人数になるが今は少数だ!殿には悪いが楽しませてもらおうか!ははは!」


 なんとか誤魔化せたよ・・・。犬は愛でるもので食べる物ではない!!!私は犬しか食べ物がなければ餓死でいいとすら思う!


 それから私はインベントリーの中を確認する。


 みんなに振る舞えそうな料理・・・まあゲームではなんの意味もなかった食べ物だけどあるよいっぱいあるよ!


 「中華オードブルにピザ、寿司、ハンバーガー、おにぎりに、お菓子、お酒、ジュースいっぱいあるな!あっ!これ暁君が錬成して作ってくれた幽霊船じゃん!?懐かし〜!!」


 「ゆうれいせんとはなんじゃ?」


 「あっ、伊織様すいません!興奮して独り言呟いてしまいました。幽霊船とは・・・」


 この幽霊船とは見た目はボロい船。なんなら戦闘後のような船だけどそれは罠。実は色々装備してあり、どこかサブミッションなどで素材を仕入れたプレイヤーの船を逆に奪ってしまう船だ。


 上級者プレイヤーなら他のプレイヤーの船を襲う時、積荷はインベントリーに入れて空にして襲うのが普通だ。だがこの幽霊船は見た目が見た目なだけあり、そのインベントリーに素材を入れる作業が面倒であり、大丈夫だろうと思わせて襲わせるある意味卑怯な船の一つだ。


 「ほんに、そのような船があるとはですね?今度妾も見てみたい」


 「いいですよ!見た目はボロいかもしれませんが中はかなりーー」


 私は自分たちが作った船を見てみたいと言われて嬉しく思い招待しようとしたが伊織さんは哀しい顔をした。そうよね。確かこの時代は身分の高い女性は中々外出できないんだったよね。


 「続けてくださります?あなたのお話は大変面白い。妾は家臣の女に過ぎませぬがそれでも簡単に外国には行けない身分ですので」


 「すいません。考えが及びませんでした。よければ・・・私の看病してくださったのですよね?ありがとうございました。御礼のケーキです。甘味が御礼とは失礼かもしれませんが、島津家の方は誰も食した事ない甘味だと断言致します」


 「まあ!?これが甘味!?この上に乗っている赤色の物は!?」


 「あ、それは苺という果物です!箸でお食べください!」


 歳は40代中頃だろうか?けどやはり甘い物や見た事ない物を見れば喜ぶものよね?これが普通に作られる世界になればいいのにな。


 私も一つケーキを口に入れ懐かしく思う。暁君に会いたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る