【世界樹の涙】

 パンパンパンパンパンパンパンパン


 「正次郎さん!早く!陣地内に戻って!!」


 「俺に構わず!!!」


 だから何回も言ったのに!なんで死にたがりなのよ!


 「もう!誰も死なせたくないの!早く戻ってください!!」


 「そうだ。如月の言う事を聞け!」


 遠矢さんの一喝で正次郎さんは陣に戻ってはくれるようだ。だが、その間を与えてくれないのが敵だ。


 「如月様!遠矢様!敵の本隊多数がこちらに向かって来ます!保てません!!左側の方も来ています!」


 落ち着け。落ち着け。どうする!?どうすれば守り切れる・・・。


 ポンポン


 「如月!お前は良くやった!だがさすがに敵が多い。いくら連射できる銃とて、あの人数に押されられれば敵わまい?ワシが出る」


 「そんな!無茶です!私も一緒にーー」


 「広原村の吉蔵1番乗り!誰ぞ相手しろッッ!!」


 そんなこんな言ってる間に敵の1人が陣の中に入ってきた。


 「楠元村の助六!俺が相手だ!」


 ビシュンッ ビシュンッ ガキッ ガキンッ


 名乗り合ってからの本当の一騎打ち。悪いけど私は卑怯と言われても何も思わない。助六さんら手柄が欲しいとは思うけど悪く思わないでね。


 パンッ


 「うっ・・・グッ・・・貴様・・・」


 「如月お前・・・」


 「遠矢様のお考えは分かります。神聖な一騎打ちにと思うでしょう。けど私はなんと言われようが勝ちを拾います。助六さんもすいません。あなたを失うわけにはいけない」


 「ふん。助六!はよう首を飛ばせ!もう良い!如月がそこまで生にしがみつくならばワシはお主に賭けてやる!皆の者!向かってくる敵を全員倒せ!生きてまた相見えようぞ!ワシが左側に向かう!如月は右側だ!」


 私はまた口からの出まかせかと思ったが、遠矢さんはベレッタの9ミリパラベラム弾を半分持って左側に向かったから死ぬ気はないのだと思う。


 私も弾を持ち右側に向かう。


 「権六さんはこの刀を!一つしかないから大事に使ってください!後から返してくださいね!遠矢さんの弾込め時を稼いでください!」


 私は【ストーム剣】を権六さんに渡した。このストーム剣とは名前こそ仰々しいが刃が付いていない剣だ。殺傷能力は0。だがこの剣の素晴らしいところは振ると突風を巻き起こせるのだ。


 大群に囲まれたりした時に使える剣だ。けど、暁君の持っているニンフ剣の下位にある剣だけどニンフ剣は成長までに時間の掛かる精霊剣。これは普通の風属性だけの剣。今はすぐに使えるこの剣が重要だ。


 「任せてください!って・・・如月様!?これ刃が付いてませんよ!?」


 「大丈夫です!敵に向かって振ってください!効果は分かります!助六さんは私の補佐を!この槍を!」


 助六さんは私のリロード時間を稼いでもらうため【ストーム槍】を渡した。効果は剣と同じ。ゲーム内ではゴミに近いシリーズだけど私は捨てずに持っていた。本当に捨てなくてよかったと思う。


 「お任せを。これも敵に向かって突けばよいので?」


 「いえ、薙ぎ払う感じでお願いします!」


 「はっ!」


 「長次郎さん!正次郎さん!太郎さん!一郎さんは陣地内から援護をお願いします!絶対に勝ちます!」


「「「「おぉ!!!!」」」」


 明らかに劣勢だけど士気は高い。私も今まで感じた事のない何かを感じる。


 「敵は少数!ただの捨て奸だ!数で押せッッ!!!」


 パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン



 パンパンパンパンパンパンパンパンパンパン



 ブゥォーーーーン!! ブゥォーーーーン!!



 パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン



 ギリギリの綱渡りだけどなんとか敵を抜けさせずに保ててると思う。3号陣地の窪み。これがかなり有効だ。


 ビシューーーーン  ズドンッッ!!


 「キャッ!!」


 「如月様ッッ!!!おのれ!!!」


 ブゥォーーーーン!!!


 敵は中々抜けない私達の陣に向かって、鉄砲ではなく弓を放ってきた。そしてその一矢に私は射抜かれる。


 「痛い痛い痛い・・・・」


 「如月様!今は我慢してください!肩に刺さっているだけです!後で俺が抜いてあげます!!」


 「如月ッ!!大丈夫か!!矢が刺さったくらい我慢致せ!!肉が巻く前に矢だけ抜いておけ!!」


 みんななんなのよ!?なんでそんな冷静なのよ!?痛い・・・右の肩を射られたけどこんなに痛いの・・・。


 「如月様!御免ッ!!長次郎とやら!如月様が怪我をされた!陣地内で見てやれ!右側は俺に任せーー」


 「おい!助六ッ!?」


 ビシュンッ!!


 「うぐっ・・・なんのこれしき・・」


 ビシュンッ!!


 「グハッ・・・」


 私は自分が射られ、熱くなった右肩を強く押さえ、陣地内に行こうとした。すると援護してくれていた助六さんが・・・


 「助六さんっっっっ!!!」


 「俺は大丈夫です!それより如月様は早く陣地の中へ・・・」


 ビシュンッ!!


 それはまたもや見た、目の前での光景・・・人の死。


 「嫌ぁぁぁ!!!!助六さん!!!!」


 「今が好機!!押せ!こんな所で足を止められるなぞ末代までの恥ぞ!!!」


 敵は一気に押し寄せて来た。どうする事もできない数の暴力。遠矢さんも同じく肩に矢が刺さっているのが見える。



 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン



 「なに!?何の音!?まさか新手!?」


 「如月!落ち着けッ!!!この蹄の音はーー」


 「待たせたな!!!!まずはこの世にも珍しき小さいながら堅固な陣にて迎え撃つ!加久藤の兵児達よ!敵を寄せ付けるな!!!如月!遠矢!よくぞ守り抜いた!伊藤を蹴散らす!」


 助かった・・・・。まさかこんなにも早く島津さんが駆けつけてくれるとは思わなかった・・・。そんな事より!!!


 「助六さん!!待って!!!死なないで!!」


 確かインベントリーに一つだけあったはず!あった!!【世界樹の涙】!これよ!ゲームではケガで亡くなった人は蘇るはず!!


 私は自分の怪我を無視して助六さんに薬を振りかけた。すると数秒の後に助六さんは発光を始める。


 「成功だ・・・やった・・・」


 私は助六さんの発光を見届けると、あまりの肩の痛さにまたもや気を失ってしまった。


 そして気がつくとどこか部屋の中だった。


 「え!?ここはどこ!?肩は!?い、痛っ・・・・」


 「お目覚めでしょうか?ここは飯野城、二の丸にございます」


 飯野城って・・・島津義弘さんのお城だっけ!?何で!?木崎原はどうなったの!?ってかこの綺麗な人誰よ!?綺麗過ぎて眩しいくらいなんだけど!?

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