捨て奸

 私は黒木さんに引っ張られ走っている。後ろにはバラバラになりながらも義弘さんの方に向かって味方は走ってきている。


 「殿!このままならば危ういです!今こそ捨て奸の下知をば!」


 「うむ。志願する者は!?」


 遠矢さんがそう叫ぶと皆が手を挙げる。


 私は今までにない全速力と緊張、怒りで息も絶え絶えだ。


 「そこの6人!薩摩に残る家族の事は任せい!遠矢!」


 「はっ。薩摩兵児の名に恥じぬ見事な捨て奸ば果たしてみせます」


 本当にこの人達なんなの!?捨て奸って死ぬまで敵を足止めさせる島津のお家芸の作戦よね!?私はまだ死にたくない!遠矢さんも死なせたくない!!


 「私も・・・志願致します」


 「ダメだ!如月は殿の側に居ろ!黒木!如月を引っ張って行け!」


 「聞いてくださいッッ!!!」


 敵との距離はまだ大丈夫。少しなら私の声を聞いてくれる!


 「皆の活躍にて島津義弘様あなたはここから逃げ、この先の木崎原にて加久藤城からの援軍を吸収して伊藤を討ち果たします」


 「この者は何を言っているのだ?預言者の類か?」


 「いいえ。歴史でそう決まっているからです!この捨て奸にて遠矢様達は死にます」


 「おぉ!!!それでこそ捨て奸ぞ!」


 何で死ぬ事を喜ぶのよ!やっぱ頭おかしいよ!?


 「私は死にたくありません!遠矢様とはまだ1日2日しか知りませんが死なせたくありません!皆で生き延びるのです!」


 「欲張りな男子だ。薩摩兵児にそのような者はおらん!」


 「私は薩摩の人ではありません!三河です!!!」


 みんな私と義弘さんとのやりとりに静観している。もう間も無く敵の先陣と当たる頃だ。そろそろ纏めないといけない。


 「殿!お早く!!」


 「遠矢!見事耐え抜いて見せよ!必ず戻る!」


 そうだよね・・・そうそう簡単に歴史は変えられないよね・・・。この必ず戻る・・・普通に考えると無理だよね。


 こうなれば私が奮戦して皆を守らないと!出し惜しみなしだ!


 「この遠矢良賢にお任せください!さぁ!早く!」


 遠矢さんが元気よく返事すると皆は逃げて行った。私も黒木さんに手を引っ張られたが振り解き遠矢さんの横に向かった。


 「馬鹿が!後で必ず来る!死ぬるなよ!!」


 死ねばどうなるか分からない。けど死ぬ気はない。抗ってみせる!ゲームでは簡単に歴史が変わる!いや・・・変えられた。ここも同じと思えばいい。現実には絶対にないアイテムを私は持っている!


 「如月も残ったか。それでこそ三河兵児だ!薩摩兵児も負けてはおらぬが貴様も同じだ!」


 「私は死ぬつもりはありません!皆さん名前は!?」


 「田崎村の長次郎です。横は弟の正次郎です」


 「俺は副田村の太郎です」


 「同じく副田村の権六」


 「楠元村の助六」


 「中村の一郎です」


 「私は三河国の如月三左衛門です。皆さんを死なせません!戦が終われば美味しい物食べさせてあげます!絶対に生き残りましょう!まずはこれを!時間がないため一度で覚えてください!」


 私はインベントリーから【M72手榴弾】【M18スモークグレネード】【ベレッタM92】を取り出した。私がこんなに武器を出すのは久しぶりだ。いつもは節約のため暁君の装備品を勝手に使ってたけど、それでも持ってて良かった。


 常陸のルート進めてた時を思い出すな。って、そんな回想してる場合じゃない!


 私は早口で手榴弾、スモークグレネードの使い方を教えた。この二つはピンを抜いて投げるだけだから迷う事はないだろう。


 「スモークグレネードに関しては退く時に使ってください!分かりやすく言えば煙幕です!殺傷能力はありません!次にこれは拳銃です!使い方はこのレバーを下げて、この引き金を引くだけ!撃ち切れば、親指の出っ張りを押してこの新しいマガジンを入れて、スライドさせる!このように!」


 クシャ シュ ガチャン


 「「「「おぉぉ!!」」」」


 「いやいや感動するところではないですから!もう余裕がありません!各自5つずつは最低持っていてください!私も戦います!」


 本当はAKのリロードを教えたかったけど重いし小回りが利かないし、私は死ぬつもりはないから退きながら戦うから拳銃がちょうどいい。


 「皆の者!如月に従え!先般の折に如月が出した武器の威力は知っているであろう」


 「「「「「はっ!」」」」」


 「如月!合図は任せる!」


 「分かりました!まずは手榴弾を投擲!その後、一定の距離を取りながらベレッタを撃ち、このスモークグレネードを投げ、下がった草むらにまた隠れてを繰り返します!」


 「分かった」


 私は自分でも驚くくらい冷静だ。この作戦はゲームでやった事がある。プチ捨て奸とかって言っていた気がする。


 「来た来た・・・っていやいや多すぎでしょ!?」


 「これこそ捨て奸ぞ!今さらひよっているのか?」


 「な!まさか!遠矢様!皆!死なないでください!奮戦します!!手榴弾投擲!!!」


 私の号令で左右に別れたみんなからM72手榴弾が投擲される。


 ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ 


 先頭の人達は見るも無惨な姿だ。身体が千切れている。私は吐き気を我慢して土煙りを見る。


 「よし!一発目の足止めは成功!皆!少し待機!敵が体勢を立て直せば二つ目の手榴弾を!」


 「敵が潜んでおる!」


 「チッ。捨て奸か。構わん!敵は少数だ!構わず追いかけろ!」


 いや多少は損害を見なさいよ!?構わず追いかけろって脳筋なの!?敵の指揮官は馬鹿なの!?


 「如月!敵の2段目が来るぞ!」


 「大丈夫です」


 「島津ッッ!!!どこだ!!!逃げるなッッ!!!!」


 「よし!2発目!投擲!!すぐに煙幕の方も投擲!!」


 ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ


 シュゥ〜〜〜〜〜〜〜


 「な、なんだこの煙は!?」


 「頭!前が見えません!!」


 よし!また止まった!今のでもかなり敵を削ったはず!これで、少し下がり同じ事していれば大丈夫!まだ装備はある!


 「遠矢様!皆!少し下がります!!次の隠れられる場所を!」


 「うむ。まったく敵を寄せ付けぬではないか!これは良いな!」


 「でしょう?他にも装備はあります!絶対に突撃や無謀な斬り込みはやめてください!」


 それから3回同じ事を繰り返した。そして4回目にもなれば敵がスモークグレネードはただの煙幕とバレてしまい、本当の意味で数で押し寄せるようになった。しかも密集せずバラバラにだ。


 本当の意味の捨て奸ならばかなりの戦果だろう。けど死ぬ気はない。だがここで聞きたくない事を助六さんが言った。


 「如月様、もう後方へは退けません。これより先は暫く平坦な地になり隠れられる場所がありません」


 「え!?嘘!?何で!?」


 「い、いや何でと申されましても・・・」


 「ははは!如月!貴様の作戦は良かった!もしかすればまた生きて殿のお顔を拝謁できるかと思うておったがやはりそうは許されぬようだ。如月!貴様は全速力で殿と合流しろ!な〜に!安心しろ!この拳銃とやらでワシが敵の度肝抜いてやる!」


 「ダメです!逃げません!ここで迎え打ちます!あぁ〜!!こうなればとっておき!!!3つしかないのに!!」


 私はまたまたインベントリーから【3号陣地】を取り出した。この3号陣地とは取り出せば、取り出した場所に馬防柵、盛土、木柵で半径20メートルを囲ってしまう陣地だ。


 明らかに人員不足。なんならスルーされれば何もできないがまさかここに来てスルーはしないだろうと思う。敵をそれなりに倒しているし。


 「出でよ!3号陣地!」


 バァァァァァァーーーーン!!


 「な、なんだ!?」「なんっすか!?これは!?」


 「はぁ〜!如月様ぁぁぁ!!!」


 なんか1人副田村の権六さんが私を拝んでいるけど気にしない気にしない。


 「これは・・・この陣地はなんだ!?」


 「遠矢様!説明は後回し!この陣地にて敵を迎え打ちます!」


 「いやそれは分かるがこんな広範囲守りきれぬぞ!?敵を通してしまうぞ!?」


 「はい。正直素通りされればどうしようもありません。ですがさすがに素通りはーー」


 シュパン シュパン カンッ カンッ


 「な、なんだ!?」


 「良かったです。敵は素通りしないようですね!ここからはピストルで応戦します!各自各々の間合いで撃ってください!端の敵から撃つように!ここを素通りさせないように!」


 さっきも思ったが驚くくらい落ち着いて指示できている。上手くいけば本当に敵を追い返せるかもしれない。


 敵は最初こそ急に現れた陣地に慌てていたが、やはり兵力差がありすぎる。敵も火縄銃や弓を放ちながら攻めて来た。


 パンパンパンパンパンパンパンパンパン


 パンパンパンパンパンパンパンパンパン



 皆、私の拙い説明でちゃんとベレッタの操作を分かっていた。


 この3号陣地の木柵は火には弱いが防御力はピカイチだ。弾も弓も弾いてしまうのだ。私はゲームではあまり戦が嫌いで内政に励んでいたけどたまに、プレイヤーが攻めて来たりするから少しの防衛設備なんかは持っていたのだ。それが今は功を奏している。


 重課金者には敵わない陣地だし、空からは無防備だけどこの世界に空からの攻撃はないからそれなりに威力を発揮してくれるはず・・・。


 だけど、そんな私の思い虚しく毛色の変わったちゃんとした甲冑を装備している敵の本隊らしき部隊が肉眼で見えた頃・・・3号陣地の馬防柵を突破する一団が見えた。


 「長次郎さん!そっち!何人か抜けています!!」


 「え!?あっ!正次郎!!!」


 長次郎さんが反応した瞬間、弟の正次郎さんが自分の陣地を超え抜けた敵の一団に盛土で一段上がった3号陣地からジャンプして下に降りた。


 「あぁ!もう!!遠矢様!下に降ります!正次郎さんを助けます!!」


 「ダメだ!なにかは知らぬがこの陣はかなりの防御力を誇っておる!敵に取られれば厄介だ!太郎!一郎!お前達はこの場を死守!」


 「「は、はい!!」」


 確かに私達が居ない間にこの陣地を取られるのは不味い。こんな時でもやはり本物の武将は冷静だ。


 そして私も正次郎さんを追いかけジャンプし、着地したところに運悪く敵の騎乗武将が真横に居た。


 「ぬっ!貴様か!先から味方を殺しやがって!楽に死ねると思うな!」


 騎乗武将がそう言うと私目掛けて槍を突き刺そうとしてきた。私は咄嗟に死んだと思ったが、遠矢さんが飛び蹴りをしながらこちらに来てくれた。


 「油断をするな!」


 パンパンパンパンパンカチカチカチ


 「ありゃ!?もう弾無しか!チッ。こうなりゃワシの大事な二つの弾を使う他あるまい!」


 いやいや、こんな時に下ネタか!?私はそんな風に思った。だがこれは遠矢さんが私を落ち着かせるために言った言葉だと後で知る事になる。

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