名も無き勇者
「ぬ!?新手か!?退け!退け!一度退けッ!!!」
「逃がすな!!!今こそ勝機!!城からも打って出よッ!!!」
なんなの!?戦ってこんな簡単に決着付くもんなの!?うへぇ〜・・・気持ち悪い・・・。
「がはは!壮観!壮観!伊藤め!退いておる!」
「御報告!!敵、伊藤軍は白鳥山に向かった模様です!味方の損害はなしです!」
「おい!黒木!聞いたか!?急げ!早く殿に合流ぞ!!」
「分かっておる!腹が減っておるのだ!力が出ぬ」
いやいや黒木さん!?こんな時に腹が減ったってどんだけ余裕あるの!?それにしても本当にこの人数で、しかも怪我人すらなしってかなり凄くない!?
「黒木様!私は食べ物も持っています!後でお渡しいたします!」
「うむ。相すまぬ。如月には後で礼をしよう」
うろ覚えだけど伝令さんも言ってたけど確かこれから白鳥山って所に向かうはずだったよね!?史実ならそれで遠矢さんは討死だった気がする。助けないと!
「ふん。黒木!それでも薩摩兵児か!?」
「腹が減っては力が出ぬ。それにしてもえーけーという名前の鉄砲は凄まじいな」
「私の隠し武器みたいなものです」
「殿も必ずや褒めてくれるであろう!うん?それはなんだ?」
私は話しながらインベントリーからサンドイッチを出した。ゲームではなんのためにあるか分からなかった食べ物の数々。暁君は意味のないアイテムと言ってたまにゴミ箱に捨てたりしてたけど私はなにかに使えるかもと入れておいてよかった。
「これはサンドイッチって名前の食べ物です!兵の人皆の分がありますので歩きながら片手で食べられます!」
「うむ。パオンに似ておるが中になにか・・・卵か?が入っておるのか?美味そうだ!」
ありゃ?卵ってここら辺の人達は食べてるのかな?なんて説明しようかと思ってたけどいいや。
確か肉食はまだだった気がするけど・・・。これだけ体格のいい人達ばかりだから肉食してタンパク質補っているんだろうね。
しかもパオンって宣教師達から流れてきた物だよね?意外にもパンを既に知ってる人も多いみたいね。
「美味いッ!!!なんだこれは!!?」
「黒木様!!大変美味にございます!!」
「遠矢様!おい達にこれはもったいのうございます!!」
「御託は良い!!歩きながら食え!それにこれはおいが出したものではない!如月に感謝して食え!このように柔らかいパオンは初めて食した!それにこの卵も今生味わった事のない味だ!」
「ははは。そう言っていただきありがとうございます。また落ち着けば他にも食べ物ありますのでお出ししますよ」
この時はまだ冗談が言えそうな雰囲気だった。私達は小走りで行軍しながら加久藤城より南側の白鳥山に向かう。そして敵の伊藤家軍旗 月星九曜旗と相良家軍旗 五つ梅御紋が見える。その一団が山に上がっているのを私達が居る所からでも見える。
そして私達が白鳥山麓にて待機していると数えられるくらいの人達が現れた。
「おぉぉ!黒木!遠矢!ようやった!!大事ないか!?」
「「「「「殿ッッ!!!」」」」」
え!?この人が島津四兄弟で1番強いって言う人も多い島津義弘さん!?筋肉隆々でガッシリした人なんだけど!?現代のボディービルダーにも負けないくらいじゃない!?
「実は面白い者を見つけその者の活躍によるところも大きいのです」
「ふむ。ふむ。この者か?ほう?まるで戦には無関係のような芸者のような顔立ちの者だな?名はなんと申す?」
「は、はい!如月三左衛門と申します!」
「如月?聞かぬ名だな?日向の者か?」
「殿!!この者は女子にございます!そして三河国の出身だそうです!」
「三河国?何故そのようなところからーー」
「御報告!!敵方、白鳥山に上がったところ、伏兵が手筈通り急襲。もう間も無く下山してくる頃かと・・・」
「よし。狙い通り。その方は聞けば黒木、遠矢を助けてくれたのだな?今すぐ褒美は出せぬが伊藤を追い返せば必ず礼をしよう。だから死ぬるなよ?」
「わ、分かりました!私もお手伝い致します!」
「ならぬ。お主は女子だろう?最後方にて待っていなさい」
なんだろう?優しい口調だけど私如きが入れる雰囲気がないんだけど・・・。
「如月!おいの殿はこのような優しい方なのだ!任せておけ!如月の鉄砲だが見事伊藤を討ち果たしてみせようぞ!」
「黒木様・・・・」
私はこれ以上出る事ができなかった。
「来い!来い!来い!」
「来たぞ!!撃て撃て!!!」
パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン
「なに!?島津めが!謀りおったな!?」
距離はあるが敵の言ってる事が分かるくらいだ。
「懸かれッッ!!!!」
島津義弘の号令にて敵に突撃した。私は黒木さんに止められ同じ場所に留まっている。私も何かしないといけないと思うが何もできない。
というか充てられてしまっている。敵は倍どころの人数じゃない。けどこの無謀な突撃に見える戦・・・当の本人 島津義弘さんは臆する事なく斬り込んでいる。
「慌てるな!人数はこちらの方が勝っている!落ち着いて対処せよ!」
伊藤家の誰かが激を飛ばすと、やはり人数差のせいか前方の人達が徐々に倒れ始めている。
「あっ!あっ!危ないです!!」
気付けば私は最前線に飛び出していた。
「如月!!後方で待てと言うたであろうが!!」
遠矢さんの叱責を無視して私はありったけの完全回復スプレーをみんなに振り掛ける。暁君のような万年枯渇スプレーじゃないためそれなりにある。
けどやはり人数が多すぎる。今後の事を考え暁君の一押し【アカチン】に途中から変えて皆の怪我の患部に振りかけている。
「如月さま・・・」
「起きて!死なないでください!!」
私が皆を励ましながら前方を走り回っていると、私も敵の手に掛かりそうになる。
「小僧が!死ねいッ!!!」
すると今しがた私が助けた名前も知らない人が私の前に立ちはだかり盾となってくれた。
「お前も道連れだ!」
「グハッ・・・」
「きさらぎさま・・・さんどいっちなる物美味でした・・・お先に・・御免・・・」
「何でよ!?何で死ぬのよ!!生き返って!お願い!!!」
この薬は死者には効かない。私を守ってくれて死んでしまった名前も知らない人・・・。
「クッ・・・こんな所に居たのか!!如月!退け!!多勢に無勢!このままならば危うい!」
「・・・・やです」
「は!?」
「嫌です!!私もここで戦う!」
「ダメだ!無理矢理連れてくぞ!殿を逃がすのだ!その後お前も戦わせてやる!」
私は半狂乱になりつつも黒木さんの声に従う。遠目に明らかに総大将と分かる一団が目に入る。
「必ず殺す・・・」
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