あってよかったインベントリー

 「おい!起きろ!チッ。優男のような顔した奴だ!」


 「遠矢!丁寧に運んでやれ!ワシが後で愛でてやるのだからな!」


 「煩い!なら己で運べや!」


 「それは無理だ!右手は使いものにならぬだろう。だが殿は褒めてくださるはずだ!きっと『それでこそ薩摩男子!』と言ってくださるはずだ!」


 「うっ・・・・・」


 「目が覚めたか。おい!目が覚めたのなら己で歩け!」


 「へ!?え!?ここは!?」


 「寝惚けておるのか!?あそこに置きっぱなしにすれば明晩にでも殺されておっただろう。おいに感謝するのだぞ?」


 おいに感謝?あっ!確かゲームの中に入り込んだのだよね!?で、確かここは日向・・・宮崎県だよね!?


 「すいません・・・」


 「良い。命があっただけ喜べ。まあ、おいが助けてやったのだがな?感謝しろよ?それにしても見慣れぬ者だな?まさか伊藤の間者なわけはあるまい?はたまた、相良の者か?」


 「い、いえ!全然違います!」


 「ほう?ならどこの者だ?」


 どどどどどうしよう!?なんて答えればいいの!?本来なら静岡県だけどそんな事言ってもしょうがないし・・・。


 「答えられぬか。ならば死ねい!」


 「ちょ!タイム!タイム!言います!言いますから!三河の出身です!」


 「三河?何故そのようなところから来たのだ?それにしても訛りが酷いのう」


 「言葉の方はすみません。それが気付けばさっき?の場所に居て・・・・」


 「おかしな奴だ。神隠しにでも会ったか?まあ良い。加久藤城へ向かっておる。貴様もおい達と共に戦え。さすれば間者じゃないと証明にもなるであろう。行く宛がないのならば殿に御目通り致せ。我が殿は優しい方だから手を貸してくださるであろうよ」


 「はぁ〜・・・。分かりました。ありがとうございます・・・」


 「ふん。誠に貴様は男子か?女子のような身体付きで色も白い。ふぐりは付いておるのか?」


 「ヒッ!ヒィィィィ〜!!!」


 このおじさん達なんなのよ!?変態!?


 「うを!?まさか・・・」


 え!?どうしたの!?ってか、私も自分で自分の身体のこと分かってないのだけど・・・確かこのアバターを作成した時性別は・・・あっ・・・女にしたのだった・・・。


 それで出会い厨からのメッセージが面倒だから課金してアバターだけ中性的な感じにしたのだったような・・・。


 「き、き、貴様女か!?ふぐりが付いておらぬぞ!?」


 「黒木!貴様女になんちゅう失礼な事しておるのだ!謝れ!いや・・・謝るだけでは手温い!おいと同じように右手を斬り落とせ!それでこそ詫びっていうもんだ!」


 「貴様こそ愛でてやると抜かしておったではないか!?」


 いやいや2人揃ってなに言ってるの!?私襲われるの!?


 「いやすまん。男と思っておった。それにしても女子がそのような形(なり)をしてどうするのだ!?」


 「いえ・・・構いません。私のせいです。実は男の人が苦手というわけではありませんが色々とありまして・・・」


 「そ、そうであったか。以後気を付けよう。自分で歩けるか?歩けないのならばこのまま背負ってやるが?」


 「あっ!重たいのにすいません!自分で歩けます!」


 恥ずかしい・・・私おんぶされてたんだ・・・。


 それから加久藤城に向かうまで色々と話をした。ここ最近の薩摩や日向での事、薩摩15代当主 島津貴久が死んでから各地で島津領を侵食されてきているらしい。


 2年程前から小競り合いを起こしているらしいがこれから本格的に日向国の伊藤家と戦に入るだろうと。


 今は飯野城から加久藤城へ援軍に向かっているとの事。城の兵と挟み撃ちにする作戦らしい。それが、その前に伊藤の兵を見て昨夜の出来事だったと。


 「この人数で城攻めですか!?」


 「あぁ。贅沢は言えん。殿はおいに期待してくれている。だから60人もの薩摩兵児(さつまへご)を与えてくださった。是非期待に応えなくてはならない」


 嘘でしょ!?いくら挟み撃ちって言ってもこの人数じゃ無理でしょ!?しかも黒木さん右手が宙ぶらりんだよ!?


 もし・・・ここがゲームと同じならインベントリーが使えるはず・・・。まさかラノベや転生系アニメみたいな事になるとは・・・。


 「インベントリー!あっ!出た!」


 「は!?何を言っておるのだ?」


 いや別に発声はしなくてよかったのだけどなんとなく言ってしまっていた。けどこれは吉報!!アイテムが使えるなら私も戦える!死にたくない!むしろこの世界で死ねば元の世界へ帰れるの!?


 いや、今は考えるてる場合じゃない!確か【完全回復スプレー】があるはず!暁君は後先考えず気にせず使っていたから万年スプレー枯渇とか言ってたけど私は考えて使ってたから良かった!やっぱ何でも先を見る事が大事だよね!


 「黒木様すいません。よければ手を治療致します」


 「うん?治療ったって何もできやしなーーなんじゃそれは!?何故いきなり物が現れた!?」


 「詳しくはまた落ち着けば言います。今は信じてください!昨夜助けていただいた御礼です。動かないでください」


 「お、おぅ・・・」


 シュ〜〜〜


 よし!ゲームと同じならすぐに効果が現れるはず!


 「痛くない!?痛くないぞ!しかも動く!!傷も塞がっておるぞ!!」


 「「「黒木様!?」」」「黒木!?」


 「おう!見ての通り大丈夫だ!おい!飯野の兵児(へご)ッ!!今のは見てないな!?この事は他言無用に致せ!もしこの・・・って名前をまだ聞いてないのだが・・・」


 「あっ、すいません。私は・・・拙者、如月ぜんう・・・如月三左衛門と申します」


 思わずゲーム内の名前を言いそうだったけど前右府なんて言えないよね!?


 「きさらぎ!?聞いた事はないが立派な名字だな?三河国の子か?」


 「いえ、実は記憶が曖昧で・・・」


 本当はゲームの中に迷い込んだ所謂・・・迷子です!って言いたいけど言えないよね。


 「まぁ分かった。この者は如月三左衛門と申す!訳あって男の形をしておるが女子だ!女子が男の形をするのは理由があるであろう!皆の者ッ!!殿の次はおいや遠矢よりこの如月を守れ!いいな!?」


 「「「「「おぉぉぉ!!!!」」」」」


 すっごい怒号みたいな返事なんだけど!?しかもみんな私を守ってくれるの!?


 「えっと・・・皆さんありがとうございます。私なんかより皆は自分の命を守ってください!怪我すれば治します!それと・・・暁君とは違うから武器はあまりないけど・・・」


 「うん?暁君とは?三河の知り合いか?」


 「あっ、いえ!唯一覚えている知り合いの名前です!」


 「そうか。仮にそいつが三河の者だとしても三河とはちと距離が離れすぎておるな。おいですら行った事がない。名前しか知らぬところだ」


 「確かにそうですよね・・・」


 っていうかここがあのフリーシナリオの鍵部屋だとすれば確かに誰もプレイヤーは居ないはず。それに何も手を加えなければ基本史実通りに事象が起こるはずだから・・・だからこれから木崎原の戦いなのかな!?どちらにしてもまずは生き残る事を考えないと!


 こんな事なら私も課金して船や飛行機当てておけばよかった。私も暁君しかフレンドが居なかったからいつも暁君のアイテム使ってたんだよね・・・。なんだろう・・・暁君とはゲームだけの知り合いだけど会いたい。今この世界に私を知る人は暁君だけだ。


 

 「ほう?これが連射できる鉄砲と?」


 「はい!あまり数はございませんがこのAK47は使いやすく壊れにくいのが特徴です。リロード方法や弾込めなんかはすぐには覚えられないと思いますので撃ち切りにしてください。あっ!撃ち終われば返してくださいね!?貴重なので!」


 「あ、あぁ。返すのは返すが・・・試しに撃ってもいいか?」


 「はい。弾は多少ありますのでどうぞ」


 「うむ。では・・・・」


 ババババババババババババババババババババババババカチカチカチ


 「お、お、おう!なんじゃこれは!?確かに連射しておる!もう終わりか!?」


 「はい!今のが私の持っている鉄砲になります。一回で30発撃てますので覚えておいてください!」


 「分かった。ありがたく使わせてもらう」


 みんな驚いているよね。そりゃいきなり未来の銃だもんね。まあ20丁しかないけどこれで生存率は上がるはず!みんなに銃は渡して、私は来る時にハズレだと思っていた【アポロン弓】でも使おうかな?


 久しぶりに使うけどこれは専用の矢を放てば確か途轍もない貫徹力を誇るのだったよね。ただ残念ながらゲームでは早々に弱体化され1枚の盾や障害物には強いけど2枚重ねられれば貫通はしないって風になったっけ?とりあえずこの世界では使えるはず!


 もし接近戦になったとしても私が愛用している【クレオパトラの剣(つるぎ)】があるから大丈夫なはず!ここまでゲームと同じなら技も使えるはずよ!みんなを死なせない!助けてあげる!!


 「シッ!静かに!気取られるな!合図と共に先陣がえーけーなんとかって銃を撃て!連射できるからと無駄撃ちするなよ!?1人5殺!」


 「遠矢様!?合図は誰が!?」


 「うん?そりゃもちろん如月だ!これは如月の装備なんだからな!」


 「「「「おぉ!」」」」


 え!?いやいや私!?何でそんな大役を・・・。


 「さぁ!如月!開戦の合図を!盛大に!」


 あぁ〜!もうどうにでもなれ!!!


 「みんなッ!!!!!敵は伊藤家です!!!必ず生きてください!!!怪我した人はすぐに私を呼んでください!」


 スゥゥゥゥゥーーーーー


 「いくゾォぉぉぉーーーーー!!!1番前の人!!斉射ッッ!!!!」


 パパパパパパパパパパパパパンパンパンッッッ!!!


 この時私は23年の人生で1番大声を上げた。私の掛け声で皆は立ち上がりAKと火縄銃を撃った。これが本物の戦場・・・ゲームとは当たり前に違う血生臭さ。一歩間違えば死。死ねばどうなるかは分からないけど私は死にたくない!


 相手は知らない人達だけど向かってくるなら殺る!

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