第14話 カノン① 神に愛された少女
とある小さな教会。
そこに集められた身寄りのない子供たち。
みんな一様に細くやせ細り、今にも死んでしまいそうだ。
私も、その中の一人。
この中でなんらかの才能があるものはこの教会で育てられると聞いている。
それ以外は、知らない。
知りたくも無い。
「ほら、この水晶に手を置いて?」
「……はい」
煙草の匂いを纏った神父が私の背後から努めて優しくそう指示する。
顔に張り付いた笑顔にはなんの優しさも籠っていない。
薄ら寒くて、今にもこの場から逃げ出したい。
でも私は馬鹿じゃないからそんなことに意味のない事はわかってる。
私は言われたとおり、水晶に手を置く。
他の子たちが置いた時とは違う強く禍々しい色の光が水晶から放たれる。
「お、おお! これはすごい……! 間違いなく、加護だ!」
神父の声に初めて感情が籠る。
どうやら私は“神に愛されている”らしかった。
―
――
―――
――――
「これは、“呪いの加護“ですな」
「……呪い?」
あれから数十分。
より年老いた神父が教会にやってきて、私の事をあれやこれやと調べだした。
「そうです。あらゆる呪いを自由に操る事の出来る加護です。歴代の聖人でも滅多にいない、貴重な加護です」
「つ、つまり! 聖女にも……?」
「すぐに我々で保護しましょう。他にばれる前に、我々の物であると証明しなくては……!」
「え、ええ! 今すぐに!」
慌ただしく神父たちが走っていく。
私は教会の一室にある部屋で一人待たされることになったみたいだ。
神の加護を持っている人たちは教会で聖人と呼ばれている。
聖女って、そんな“聖人”たちを取り仕切る教会で一番偉い人よね?
そんな人に、私が?
信じられないし実感がわかない。
そもそも“呪いの加護“とやらがなんなのかもいまいちわかんない。
ただ、少なくともここで捨てられるって事は無さそう。
それだけでここで選別されてる他の子たちよりはマシなんだろうとは思う。
―
――
―――
――――
「カノン様、今日もよろしくお願いいたします」
私を見出した神父がいつものように顔に無機質な笑顔を貼り付けて頭を下げる。
あれから数年、私は教会で聖人としての日々を送っていた。
はっきり言う。
あの時、他の子たちよりはマシだと思っていた自分を今すぐにでも殴り飛ばしてしまいたい。
ここは、地獄だ。
「……今日は何人?」
「12名となっています」
「……殺す気?」
「いえ、ですがやっていただかねばなりません。僕はあなたの異端審問は見たくありませんので……」
「……わかったわよ」
私の加護、呪いの加護は言うなれば他人の呪いを体内に蓄える能力だ。
多少は緩和されるとはいえ、呪いを幾つも身体に取り込むなんて行為は、端的に言って自殺行為以外の何物でもない。
そして何より、この“加護”は神から受け取ったにしては物騒過ぎた。
常に異端審問と隣り合わせで、数多の解呪をすることによる功績と引き換えになんとか異端審問から逃れてここまでやってきている。
異端審問にあえば間違いなく私は殺される。
拷問ののち火炙りと言ったところだろう。
そんなのは絶対に嫌だ。
生き延びてやる。
この苦しみから生き延びて、聖女になる。
聖女になれば異端審問におびえる日々ともおさらばだ。
私は今日までそれだけをモチベーションに生きてきた。
「神父たちの取り込みは進んでるの?」
「それはもちろん、次の聖女選挙ではほぼほぼカノン様の勝利は揺るぎないかと」
「そう……」
聖女になるには、当代の聖女が死んだ際に行われる選挙で勝つ必要がある。
国中から様々な加護を持った聖人が候補として推され、その中から次世代の聖女を決める一大イベント。
勝つには当然、他の教会への根回しはマストだ。
私の後ろ盾の神父はそういうクズな政治家みたいな行為がすこぶるうまいから信用してるけど、それでもやはり怖い。
今の聖女もそろそろ死にかけの婆様だし、いつ選挙が来てもおかしくない。
なんとしても準備して、勝たないと……。
ベッドから立ち上がると、身体中が悲鳴を上げる。
痛いし、吐き気が酷い。
最近更に呪いの消化が悪くなってるなぁ……。
「着替えるから、出て行って」
「かしこまりました。では本日もよろしくお願いいたします」
「ええ、よろしく」
いつか、もしも私のこの苦しみを取り除いてくれる人が現れたら。
その時は、どんな事をしてもその人に報いる。
私の全てを捧げられる。
そう感じてしまうほど、本当に心の底から苦しい。
視界がぐるぐると回転する。
お願い、誰か助けて……。
―――――
コメント返し出来てなくてすいません!
一応全部読んでます!
時間が出来たら返していきますので、お待ちください!
少しでも面白いと感じてくださった方はブクマと★をよろしくおねがいします!!!
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