第13話 断罪裁判第三ラウンド
「と、このようにそこにいるフィル様はボクや部下たちを庇い、一人犠牲となってくれたのです!」
大仰な身振り手振りであの日の戦場について語るルイーゼ。
そのほとんどが真実なだけに、あの日の自分の行動を思い出して少しだけ恥ずかしくなる……。
ただし、隊長の死に関してだけはしれっと大嘘をついてたけど……。
「実に我が王国軍人らしい素晴らしい立ち居振る舞いですな」
裁判長も関心した、と言った様子で俺を見ている。
うーん、これは……。
「さあライナス殿、書類も証拠も証言もなく、一体どうやってフィル様の行動を証明するおつもりですか? 先ほどの説明でわかるとおり、彼はボクの命の恩人ですから余り無茶苦茶な事を言うようだと……」
「……くっ」
ライナスは意気消沈、といった様子で俯いた。
どうやらもう証拠はないらしい。
その姿をみたルイーゼが満足そうに微笑んでいる。
そしてそのまま俺の方まで小走りで近づいてきた。
「久しぶり!」
「ルイーゼ将軍、わざわざ証言など……」
あの時は俺の方が身分が下だったが、今では将軍。
身分で言えばどちらが上か微妙なところだ。
一応敬語を使っておこう。
「ちょ、敬語なんてやめてよ!」
「じゃあまあ、普段通りで……。それにしても、どうやって……?」
どうやってというのは、もちろん証拠の事だ。
あれは間違いなく俺が殺したんだから、当然証拠があんな風になっているわけがない。
「ふふ、ボクはこれでも“将軍”だからね?」
ああ、つまり。
やっぱりルイーゼが捏造したんだろう。
「そっか、えと……。ありがとう」
「ううん、お礼はロキシアちゃんに言って」
「ロキシアに?」
うちの秘蔵っ子が何かやってるんだろうか?
孤児院でも飛びぬけて優秀だったあの子なら何をやっても驚きはないけど……。
でも、もしロキシアが今回の裁判を事前に察知して何かしてたなら。
そうなったら、俺の計画も水の泡になるのでは……?
よくみたらもう主人公君もボロボロで死んだ魚みたいな目をしてるし。
やばい、どうしよう……。
「さてライナス殿、流石にもういいかな」
「ま、待ってください! もう一つだけ、非常に大きなものがあります!」
「非常に大きな、ねぇ」
この裁判における主人公君の信用はもうほぼ0に等しい。
まあ、流石に失態が続き過ぎた。
でも、それでも。
それでもライナスなら!
ライナスならきっとどうにかできる!
何故なら、お前は主人公だからだ!
「かの大罪人フィルは、“禁忌の地“に足を踏み入れています!」
「な、なに!?」
禁忌の地。
まあ、読んで字のごとくだ。
立ち入ってはいけない場所。
そこに入れば有象無象の呪いを一身に受け、地獄の苦しみにのたうち回る事になる。
禁忌の地を出た後も、その者や家族、果ては国までをも不幸にする呪いを身に纏う事になる。
故に、禁忌の地。
入ったものは、唯一の例外を除き必ず厳刑に処される。
そんな地に俺は、“入っている”。
これはもう、間違いなく国外追放だろう。
うんうん、間違いないね。
「フィル……」
「え、いやー……」
リゼやルイーゼ、そして隣にいるレーナ。
全員が心配そうに俺を見つめる。
まあ当然だろう。
「ライナス殿、それが本当ならば今すぐに彼は国外追放処分です。証拠は、あるのですかな?」
「ええ、ありますとも」
3回目でも自信たっぷりに、ライナスが胸を張る。
ある意味でこいつが一番の味方なわけだが、正直ムカつく自分もいる。
頭のめでたい野郎だ。
「もう失敗は許されませんよ? では、証拠を提出してください」
「はい。……カノン様、こちらへお越しください!」
ライナスが大声で叫ぶ。
その瞬間、ざわざわと会場全体が揺れる。
この裁判所の主賓席、その中央。
そこに、カノンと言われる黒髪の似合う美しい女性が座っている。
彼女こそ、この国の宗教上の指導者。
“聖女”カノンだ。
カノンはゆっくりと腰を上げ、証言台の方へ歩いていく。
凄まじい圧力が裁判所全体を支配する。
カノンが証言台に到着するころには、会場全体が静けさで満ちていた。
「か、カノン様……」
「なに?」
「何故、このような席に……」
裁判長も恐縮しきりって感じだ。
唯一ライナスだけが得意気に辺りを見渡している。
「そこの凡愚が言ったのよ、禁忌の地に入ったフィルの話をしろって」
「そ、それでは本当に入ったのですか!?」
「ええ、入ったわね」
周りから、決まりだ、と言った声が聞こえる。
カノンが証言するならそりゃそうだろう。
でも、なんだろう。
なんか、嫌な予感がするというか……。
落ちが読めたというか……。
「ほらみろ! これで国外追放だ!」
ライナスが叫び、兵士を呼び集め始める。
この世の絶頂って感じの顔だ。
「黙れ、下種」
カノンがそう言った瞬間、集まり始めた兵士たちがバタバタと倒れていく。
みんな一様に青い顔をして、苦しそうに呻いている。
間違いない、カノンの仕業だ。
「カ、カノン様?」
「何かしら」
「もしかして……出したのですか? 許可を……」
「ええ、もちろん。だってフィルは私のために禁忌の地に行ったんですもの」
当然、と言った様子でカノンが答える。
そう、禁忌の地に足を踏み入れてはいけないとの規則には、唯一例外があるのだ。
それが、聖女の許可。
聖女の許可があれば、何のお咎めも無く禁忌の地に入ることが許されるのだ。
「はぁ!? そ、そんなの……! な、なんで……?」
ライナスがへたり込むように床に崩れ落ちていく。
ああ、これはもう再起不能かもな……。
「なんで? ふふ、凡愚にしてはいい質問ね。教えてあげるわ! あれは、もうずいぶん前のことね……」
そう言って、カノンが頬を赤く染め、真っ黒な瞳をさらにどんどん濁らせながらあの日の出来事を語っていく。
ああ、本当にどうしよう。
これはもうどうしようもないかも知れないなぁ……。
―――――
風邪がようやく治りました!
これからまた頑張って投稿していくので、どうかよろしくお願いします!
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