2.聖騎士とアンデットのお城
アルフレッドは目をぱちくりさせながら、アンデットの城の廊下を歩いていた。壁には燃えていない松明が飾られ、床には骨の模様が描かれている。
「わぁ〜、姫様!この城、すっごくおしゃれですね!」
アルフレッドは目をキラキラさせながら言った。
姫は少し困惑した表情で答えた。
「え?ええ……まあ、そうね」
突然、壁から骨の手が伸びてきて、アルフレッドの肩を叩いた。
「うわっ!」
アルフレッドは驚いて飛び上がった。
「姫様、壁から手が!」
姫は平然と言った。
「あら、挨拶してくれてるのね。ここでは普通よ」
アルフレッドは興奮気味に手を振り返した。
「こんにちは、壁さん!僕、アルフレッドです!」
壁の手は、困惑したように指を曲げたり伸ばしたりしていた。
城内を進むにつれ、アルフレッドの驚きは増すばかり。天井からぶら下がる蜘蛛の巣のシャンデリア、床から生えるキノコの絨毯、そして廊下を行き来する骨だけの従者たち。
「姫様、ここの従者さんたち、みんなスタイル良すぎじゃないですか?」
アルフレッドは骨だけの従者を見て感心していた。
姫は目を細めて笑った。
「ええ、みんなダイエットに成功したのよ」
アルフレッドは天井から吊るされた骨のシャンデリアを指さした。
「ねえ姫様、このお城ってすごくユニークですね!」
姫様は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。先代の執事さんをリサイクルしたのよ」
「すごい!」
アルフレッドにはリサイクルという言葉の意味はよく分からなかったが、なんだかカッコいい響きだったので満面の笑みで賞賛しておいた。
食堂に着くと、テーブルの上には見たこともない料理が並んでいた。緑色に光るスープ、動いている肉、そして目玉が浮かぶゼリー。
「わぁ!こんな面白いお料理、見たことない!」
アルフレッドは目を輝かせた。
姫は心配そうに言った。
「あの、食べられるかしら……?」
「もちろんです!」
アルフレッドは勢いよくスプーンを手に取った。
「いただきます!」
緑のスープを一口飲んだ瞬間、アルフレッドの体が突然透明になり始めた。
「えっ!?」
アルフレッドは驚いて叫んだ。
「僕の体が、消えちゃう!」
姫は慌てて説明した。
「あ、そうそう。忘れてた。その緑のスープは『透明人間スープ』って言って……」
アルフレッドの姿はみるみる透明になっていき、ついには完全に見えなくなってしまった。
「わぁ!姫様、僕どこにいるか分かります?」
見えないアルフレッドの声だけが響く。
姫は頭を抱えながらも、笑いをこらえて答えた。
「ええ、声は聞こえるわ。でも……あなた、どこにいるの?」
「えへへ、ここですよ〜」
突然、テーブルの上の料理が宙に浮き始めた。
「わぁ!僕、料理を持ち上げられるんだ!」
アルフレッドは大喜び。
姫は呆れながらも微笑んだ。
「まあ、せっかくだから城内ツアーでもしましょうか」
こうして、姫と透明人間になったアルフレッドの珍道中が始まった。
廊下では、アルフレッドが突然骨の従者たちに話しかけるものだから、従者たちは驚いて骨をバラバラに落としてしまう。
「すみません!驚かせるつもりじゃなかったんです!」アルフレッドは慌てて謝るが、彼の姿が見えないため、従者たちはますます混乱する。
城の図書館では、本が宙に浮いて頁がめくられる不思議な光景が。
「姫様!この本面白いです!」
アルフレッドは無邪気に叫ぶ。
姫は苦笑いしながら言った。
「そうね。でも、静かにしないと司書に怒られちゃうわよ」
そう言った途端、幽霊の女性司書が現れ、浮いている本に向かって人差し指を立てた。
「シーッ!」
城の最上階に着くと、アルフレッドは窓から身を乗り出した。
「わぁ!ここからの眺め最高です!」
しかし、彼の姿が見えないため、姫は心臓が飛び出る思いだ。
「ちょ、ちょっと!危ないわよ!」
そのとき、城の大時計が夜の12時を告げる。
「ボーン、ボーン……」
鐘の音と共に、アルフレッドの姿がゆっくりと現れ始めた。
「あれ?僕、見えるようになってきました!」
アルフレッドは自分の手を見て驚いた。
姫はほっとため息をついた。
「良かった。透明化の効果は12時間みたいね」
完全に姿を取り戻したアルフレッドは、にっこり笑って言った。
「姫様、今日は本当に楽しかったです!明日はどんな冒険が待っているんでしょうね?」
姫は少し困ったような、でも楽しそうな表情で答えた。
「ええ……きっと、またとんでもないことになるでしょうね」
こうして、アンデットの城での珍道中は幕を閉じた。しかし、これは始まりに過ぎない。明日はどんな騒動が待っているのか、誰にも分からない。
ただ一つ確かなのは、アルフレッドがいる限り、この城に退屈な日々は来ないだろうということだ。
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