1.聖騎士とアンデットの姫君

捲土重来(すこすこ)

1.聖騎士とアンデットの姫君

「ねえジャック、僕たち迷子になってない?」


13歳の聖騎士見習いアルフレッドは、ロバのジャックの背中に逆向きに乗りながら尋ねた。地図を必死に読もうとするも、上下逆さまに持っていることに気づいていない。


「ヒヒーン!(お前が道を間違えてるんだ!)」

「そっか!きっとこの先だね!」


アルフレッドは満面の笑みで言った。当然、ロバの言葉など理解できていない。

アルフレッドの家系は国の大貴族として最上位の格式ある家だ。

だが、彼はそんな栄光ある一族に相応しくない落ちこぼれであった。

聖騎士になれたのも家のコネと金の力である……。


「ふんふん、ふんふん♪」


見た目だけは可愛らしいので親からも兄弟姉妹からも愛された彼ではあるが、七光りどころか百光りの彼には聖騎士としての実力など一欠けらもない。

そんな彼が、なぜかアンデットの国の姫様の婿に選ばれてしまった。

ポケットから国王からの手紙を取り出す。何度読んでも意味が分からず、首を傾げる。


『親愛なるアルフレッド殿へ

貴殿を、アンデットの国の姫君の婿として推薦した。

理由は単純、貴殿なら死んでも気づかれないからだ。

頑張れよ。                国王より』


「うーん、これって僕が超重要な任務を任されたってこと?」


アルフレッドは目を輝かせた。


「ヒヒーン……(お前、大丈夫か?)」


ジャックは心配そうに鳴いた。

数日後、アルフレッドはついにアンデットの国に到着した。

しかし、宮殿に入ろうとした瞬間、巨大な骨の門番に止められた。


「止まれ、生者よ。我らが姫に謁見する資格があるか証明せよ」


アルフレッドは困惑した顔で首をかしげた。


「え〜と、資格ですか?あ、そうだ!」


彼はポケットから一枚の紙切れを取り出した。


「はい、これです!」


門番は紙切れを覗き込んだ。


「これは……騎士学校の落第通知書だな」

「えっ?」


アルフレッドは慌てて紙切れを確認し、真っ赤になった。


「あ、違います!こっちです!」


今度は正しい手紙を差し出す。門番はそれを読み、不思議そうな表情を浮かべた。

……骨だけど。


「ふむ。確かにお主は選ばれし者のようだ。入っても良い」


宮殿内に入ったアルフレッドは、豪華な装飾に目を奪われていた。そのせいで、目の前の柱にぶつかってしまう。


「いたた……」

「あら、大丈夫?」


優しい声が聞こえた。

アルフレッドが顔を上げると、そこには美しい少女が立っていた。しかし、その肌は青ざめ、所々に骨が見えていた。


「うわっ!」


背後から声がしたのでアルフレッドは驚いて後ろに跳んだ。


「す、すみません。気づきませんでした」


姫君は首を傾げた。その拍子に、彼女の左目が外れて転がり落ちた。


「あっ」


姫君は慌てて目を拾い上げ、さっと元の位置にはめ込んだ。


「ごめんなさい。たまにこうなの」


アルフレッドは目をキラキラさせた。


「すごいです!僕もそんな技できるようになりたいです!」


姫君は呆れつつも、微笑んだ。その笑顔は確かに可愛らしかったが、顔色の悪さと、頬から覗く頬骨が、その可愛らしさを際立たせていた。


「それで、あなたが私の婿になる人?」


姫君は尋ねた。

アルフレッドは胸を張って答えた。


「はい!聖騎士見習いのアルフレッドです!姫様のために頑張ります!」

「聖騎士さま?でも、馬はどこ?」


アルフレッドは得意げに言った。


「僕の相棒は馬じゃないんです。もっとすごいんですよ!」


そのとき、ロバの鳴き声が聞こえた。


「ヒヒーン!」

「聞こえました?あれが僕の相棒、ジャックです!」


アルフレッドは自慢げに言った。

姫君は目を丸くした。


「えっ、あれって……ロバ?」

「そうです!ロバですけど、馬の鳴きマネがすごく上手なんです!」


姫君は一瞬黙り込んだ後、突然笑い出した。その笑い声があまりに大きかったせいか、今度は下顎が外れて床に落ちた。


「あらら」


姫君は顎を拾い上げながら言った。


「ごめんなさい。でも、あなた面白い人ね」


アルフレッドは嬉しそうに飛び跳ねた。


「面白いですかね?カッコいいって言葉の方が嬉しいなぁ」


姫君はくすくす笑いながら言った。


「そうね。私たち、なんだか似てるわ」

「似てる?」


アルフレッドは首を傾げた。


「ええ。あなたは馬の代わりにロバ、私は生きた人間の代わりにアンデット。どっちも、ちょっと変わってるでしょ?」


アルフレッドは大きくうなずいた。


「そっか!僕たち、特別な組み合わせなんですね!」


姫君は楽しそうに言った。


「これからの人生、きっと面白くなりそう」

「はい!絶対に骨抜きの素敵な日々になります!」


アルフレッドは意味も分からず口にした。

二人の明るい笑い声が宮殿に響き渡った。そして、どこからともなく聞こえてきたロバの鳴き声が、まるで祝福のように響いた。


「ヒヒーン!(お前ら、ホントに大丈夫かよ……)」


これは天然な聖騎士の少年と、アンデットの姫君のお話である……。

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