第5話 夫の秘密を知ってしまった妻 ②

 夫が私に触れなくなってから、何日が経っただろう。


 私が決意した日から、夫に対してのアプローチを少しづつ増やしていったけれど、反応が芳しくない。


 まずは、あの人が好きなバニー姿でお出迎えをした。

 恥ずかし過ぎて上気した顔が熱い。

 夫は食い入るような目で私を見てくれたけれど、いつもなら鍵を閉めてから玄関で致してしまうのに…寒いからねと自分のジャケットを羽織らせてくれた。(好き)


 その後、食事を一緒に取る時も、私があーんしてあげますと言っても、いつもなら口移しでしてなんて鹿、口移しをのに…風邪がうつってしまうかもと自分の箸で食べてしまった。(おもんぱかってくれるのが、好き)


 ならば、いっしょにお風呂はどうでしょうか、と前かがみになりながら夫に迫ると、視線は熱くなって薄紅色をした私のお胸をロックオンしているのに、仰け反るように離れながら、今日は特に寒かったからキミにしっかり温まって欲しい、と別々に入ることになった。(私を案じてくれる、夫の言葉が大好き) 


 そして


 夜の本番、一日の重要な時間はここしかないと言える、営みの時間も…。

お風呂でしっかりと温まり、お肌のケアも完璧、歯磨きもして、先ほどのバニー姿も効き目がなかったわけではないと、禁断の網タイツ(破いてもO.K)を解禁。 

 

 今日孕んでも構わない。不退転の覚悟で臨んだのに…。


 ごめんね。俺のために準備してくれたのに。から、リビングで寝るよ。体調が戻ったら、いっぱいキミを抱きしめるからね。おやすみ…。

 そう言って夫婦の愛の巣から、出て行ってしまった。

 

 私に対する興味が失われてしまったのかと絶望しかけたが、夫の下半身が。触れてくれない。手を出してくれない。なんでかしら、どうしてかしら、と考えても答えは出てこない。


 でも…部屋を出る時の、あの人の悲し気な顔がとても気になる。


 その日から一週間、夫の体調を気遣いつつ、私の攻勢は増していった。

 日替わりで、夫の弱点を全力で突いていく。容赦なんてしない、徹底的に。

 自分でも何と闘ってるのか疑問に思うが、素面しらふになってはいけないと思考を閉ざす。これがということかしら…ネット言葉って難しい。


・英国風メイド服、ミニではなく清楚重視のロングスカート。カチューシャ付き。

 

・陸上風 ユニフォーム、おへそが見えるのがポイント。ランニングシューズ有り。

 

・ナースウェア、活動的な中に慈愛を感じるらしい。ネームプレートを自前で用意。

 

・フリルショルダーの水着、胸元を強調し過ぎず、フリルが閃くのが通だとか。

 

・客室乗務員、スッチーだったかな。気品あふれる、おもてなしは万国共通。

 

 ここまでの成果はゼロ。


 だけど、効果は抜群に出てるのを肌で感じる。夫のあの目…獲物を狙う獣の目。

 決して目をそらさず、敵が油断するのを待ち構えて、隙を見せた瞬間にパクリ。

 私の方は隙だらけで、油断も何もないけれど。


 そして今日、夫は必ず喰いついてくる。夫の限界は既に超えているのだから。

 あなたが昨日一人でお風呂場でのかを、私が知らないとでも。

 

 七日目


 セクシーニットの童貞を殺すセーター。夫は童貞ではないけれど、策を弄する。ニットを逆向きに着て後ろの紐で前を隠す。これは…一か八かの賭けかもしれない。もしかしたら、夫にとっては解釈違いでマイナス要因になる可能性もある。

 

 だけど…私は夫の妻。夫を一番理解しているのは、私なんだから!


 *


 つらい。毎日がつらすぎる。…そんなでもないか。

  

 でも、もし戻れるのならば後輩と飲んだ日まで、時間を戻してほしい…切実にそう思う。

 後輩の力になりたかったのは本当だ。彼女を作るために、頑張っていたのを大学時代から見てきたので、毎回良い人どまりで終わるのが、あいつの心の傷になってないかと心配していたのだから。


 でも、後輩は諦めなかった。しないことと、できないこととは意味が全く違う。

 彼女を作らないなどと気取ってる奴よりも、彼女が欲しいから頑張って作りますの方が応援しがいもあるだろう。できないなどと言って、後ろを向いた人間に道は開けない。だから後輩が彼女ができたと聞いた時、俺は心底嬉しかった。


 奥さん持ちが上から目線で、と言われれば…確かにそうかもしれない。

 でも、うちの妻だって最初から俺のことを、愛してくれてたわけじゃないからね!


 こいつなんなん、って目つきをしてくる人いるでしょ? 蔑んだ目で対応されたら、俺だってメンタル凹みますよ。それでも声をかけ続けて、警戒を解いて、仲良くなれたら楽しいよねって自分を励まして。…当然合わない人だっているけど。


 ウザがられたら引くし、空気読んだりもするけど、エスパーじゃないんだから声かけなきゃ始まんないんだよ。まぁ下心なんて全くなくて、妻に落とされたのは俺の方なんだけどね。あんまり今回の話とは関係ないから割愛する。


 とにかく!


 後輩のために俺自身が被験者となり、この見るからに怪しいフェロモン香水を使った。使ってしまった。全く信用はしてなかったし、せいぜい高級な香水でも混ぜてるんだろう、くらいにしか考えていなかった。


 でも違った。これは本物ではと…。

 普段では考えられない、嬉しいラッキーハプニングが、俺に起こったのだから。


つづく

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