第4話 夫の秘密を知ってしまった妻 ①
最近、夫の様子がおかしい。
いや、出会った時から変じ…変わった人だなと思ってはいたのだけれど。
初めて夫の方から声をかけてくれた時も、散々身体ばかり見て声をかけてくる男性に辟易してた私は、夫のことも正直またかと不快な気持ちでいっぱいだった。
そんな私の杞憂もどこ吹く風なのか、夫は私の目を見てしっかりとした挨拶をして、そのまま別の同級生の元へと声を掛けに行ってしまった。オリエンテーションとはいえ、すでに出来上がっている人間関係の中へ、初対面の人間に気軽に声を掛けられるコミュニケーション能力の高さに、これが陽キャと呼ばれる人種なんだと感嘆したものだ。
それ以降も夫は、同じ重なった講義の人とは必ず声を掛け合い、沢山の知り合いを作っていた。私も当然のように話かけられ、いつの間にか気づくと夫のことを観察していくようになっていく。
私は相変わらず一人だったけれど、意図してそうしていたから特に問題はなかった。何かの拍子で自分のことが明るみになったらと、身を縮こませて生きてきたから。
刷り込みでもないのに、初対面時の夫がプラスマイナスゼロだったのもあり、他の男性よりも私の中の好感度の上昇値にマイナス効果が働かなかったのか、少しづつ夫に興味を持ち、好きという気持ちを芽吹かせていくことになるなんて。
まぁ今では、夫を愛していることに不満なんて全くない。
もっと早く、出会いたかったくらい。
本当は、ここから私が夫をどれだけ愛しているかを、小一時間かけて話してもいいのだけれど、それはまた今度にしておきましょう。それはともかく、最初に戻る。
最近、夫の様子がおかしい。
あんなに私にべったりだったのに、私が近づくとススっと距離を取る。
私が料理をしていると、後ろから私のお腹に手を回し抱きしめた上で、肩に顎をかけ首筋にキスをしてくるのが日々の習慣だったのに。
洗濯ものを畳んでいても、食器を洗っていても、事あるごとに隙があれば、私を抱きしめていたあの夫が…だ。結婚してからは、ほぼ毎日会った夜の営みにも、及び腰になっている。あんなに熱く、
『セイフティ解除!行くぞぉぉぉっ!!』と不思議な掛け声で求めてきてくれたのに。
これはもしや…倦怠期と呼ばれるものでは。
『付き合って3年以上一緒にいると、お互いの良い部分も悪い部分も理解し合い、家族のような親密な感情が生まれて、ときめきやドキドキ感が薄れていく』
スマフォで色々検索し一つの記事を読んだ私の身体は、ブルブルと震えだしてしまった。夫からは、あまりネットの記事を鵜呑みにしてはいけないよ、と叱られたばかりなのに。つい便利なものは使ってしまう。
私の過去の汚点を夫は許してくれたけれど、無意識のうちに身体が拒否反応をしめしているのでは…。勇気を振り絞って夫の要望に応えるべく、きつめの水着にも着替え、あまつさえ恥ずかしいセリフ(年齢アップバージョン)とポーズまでしたのに。
その後は、二人で観賞会をしながら…あんなことや、そんなことまで。
でも、そうよね…。
男の人からしたら、妻から一度だけの過ちでしたと言われても、内心では葛藤の渦に巻き込まれて、空の彼方に飛ばされてしまうくらいに…つらいものだったのだろう。
ごめんなさい…あなた。私が再構築なんて、
でも私は、あなたの妻として一生懸命、償って癒し続けていくから。
固く、心に誓うから…。
*
そんな妻の見当外れな考えとは関係なく、実際のところは、しょうもないこんな話だった。
時は遡り、それは夫の大学時代の後輩から『久しぶりに飲みませんか?』というお誘いの場でのことが始まりだった。
「これを使ったらすぐにできたんです。でも恐くなって、正直に彼女に話した方がいいかなって」
「待て待て、それはお前が努力した成果だろう。そんなの一つで心変わりするほど、女性は甘くないぞ」
後輩は、そうですけど…と語尾を弱くして
「もし本物だったとしても、そういうものは何の努力もせず、簡単に成果だけを掠め取るような、女々しい男が使うものだ。人としての誇りを、失ってはいけない」
「はい…」
どうするかなと考えると…閃いた!
「わかった。お前の悩みを解決する為に、俺が一肌脱ぐわ」
「どうやってっすか…」
「俺は、お前が頑張れる男で、努力家なのを知ってる」
「あざっす」
照れながらも感謝を示す、可愛い後輩の力になるために。
「お前の努力と頑張りが実って、彼女ができたんだと実証してやる」
少しだけ目に力が戻って来た後輩の、期待に応えるように、俺は力強くこう言った。
『だから、お前が使った、フェロモン香水を俺に貸してみろ』
「それって先輩が使いた…」
「勘違いするなよ。こういうことはしっかりと検証し実証した上で、効果を確認し、ハッキリと何の役にも立たないと示すことで、彼女を作れたことはお前の努力だと、間違いなくお前自身の成果だと、俺がお前に示したいだけで、俺はその薬に興味なんて一欠けらも無いけれど、そもそも信じてすらいないんだが、世話もしたし、された大切な後輩であるお前のために、俺ができることと言ったら、身を挺してその薬が役に立たないことを立証してやりたいだけだ。大事なことなので、もう一度言うが俺はその薬に全く興味はないからな」
「先輩…ありがとうございます」
目をウルウルとさせて感激している後輩を余所に、さて…どうしようか、と考える夫だった。
つづいてしまった
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