第十三章 触れたい彼女とお姉ちゃんな彼女

#29

 大カタコンベの出入り口までやって来たシホ達。そこからは昼の光が差し込んでいる。

 シホはティオに尋ねた。

 「いよいよ外に戻れるんだね。ところでティオ、竜騎兵団の所に乗り込むのに何か作戦とかある?」

 「城門まで行ったら正面から入るだけ。それで僕の娘達を助ける」

 「正面突破なのね・・・・。まぁ、竜騎兵団も国王も、少しくらい痛い目見ないと考えを改めないだろうからそれもいいかもね」

 「邪魔になる奴は全員倒す。じゃないと僕の娘達を安全に連れだせない」

 「協力するよ。あ、魔物の私達が街中を歩いてると騒ぎになるから、城門までは不可視化スキル使ってついて行くね」


 シホとエルテは姿を透明に変えると、ティオに続き外の世界へと一歩踏み出す。エルテがシホにそっと話しかける。

 「シホの願いも叶ったね。私はこうして外に出られた」

 「私の願いはまだだよ。エルテをこれから幸せにするの」

 「・・・・。うん」



 城門を目指し城下町を歩いていると、税務署と思われる建物の前に人だかりが出来ていた。着ている服や振る舞いからその人々が農夫達という事が窺える。

 ざわざわと何やら穏やかではない雰囲気の集団から、口々に同じ内容が聞こえてきた。

 「農作物が収穫直前で全部枯れちまった。今年は税金なんて払えない。それどころか国の食糧危機かもしれない」

 シホは人々の様子を不思議に思いエルテと話す。

 「私達が大カタコンベにいる間に地上で何かあったのかな?」

 「わからない。この辺りは気候が安定してるから飢饉なんて聞かないけど」

 そこにティオがぼそっと呟く。

 「大地が痩せ衰えてる・・・・」

 どういう事かシホが尋ねるとティオは続けた。

 「龍の不在。前の僕はこの大地の力の循環を司ってた。僕が居なくなった事でその流れが乱れたんだ」

 「大変じゃない!それって元に戻るの?」

 「今の僕では不完全、というか性質の異なる存在になってしまった。だから僕の娘達、他の竜にそれを担ってもらう」

 「なら何が何でも助けないとね」



 立派な城門の前、ティオはそれを見上げていた。すると二人の兵士が出てくるとティオに立ち去るよう警告するが、兵士二人は同時に後頭部に打撃を受け気絶する。

 兵士達を黙らせたシホ達が不可視化を解くと、ティオは門を叩き壊し三人が通れるだけの穴を開けた。

 門を潜ると、その衝撃音に気づいた兵士達が大勢現れる。

 「何事だ!人間?いや、アンデッドか?何故城内に魔物が!?かかれー!かかれー!」

 シホ達は難なくその軍勢をねじ伏せる。怯える兵士の一人を捕まえると、竜騎兵団の本拠地まで案内させた。


 竜騎兵団にも騒ぎは伝わっていた様で、城壁に囲まれた広い屋外の敷地にぞろぞろと騎士たちが出てくる。竜に騎乗した団長と副団長達を中心に陣形が組まれていく。

 ティオは団長を睨むとシホ達に告げる。

 「あいつら龍殺しの剣をもってる。僕の鎧を容易く斬るかもしれない」

 「ならここは私とエルテがやる。龍相手じゃなければただの剣。ティオは取り巻きをお願い」


 団長アガーリンは少し困惑していた。

 「たった三匹に城への侵入を許したのか!?バルザザ、奴らをどう見る・・・・」

 バルザザと呼ばれた副団長はある事に気付く。

 「目的は知らんが上位種の魔物だろう。ん?待てよ?あのアンデッドの二人、顔に見覚えがある。黒龍を仕留めた森で捕まえた娘共だ。もう一人の娘は人間か?」

 「お前に仕返ししにでも来たのか?どうであれ討つのみだが」

 「そうだな、やるぞ」

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