#28
やがて光が収まるとそこには白髪に真っ赤な瞳、禍々しさと神々しさを兼ね備えた、妖艶な衣装になったメリランダが足を組んで座っていた。
「マっオウです!!」
何かの影響を受け、変化した彼女の開口一番のセリフにシホは困惑する。
「は?」
「魔王ですよ!魔王になったのです!」
「え?メリランダ大丈夫?色々変わってるけど・・・・。特に頭とかほんとに大丈夫?」
「大丈夫どころか最高の気分です!疲れも吹っ飛び、手に取るように色々な事が分かります。この玉座、生きた人間が座る事が発動条件だったみたいですね!」
「いや、その魔王ってどういう事?」
「死者の王の伝説は本当だったみたいです。つまり私が今ここの、大カタコンベの全権を掌握し、王となったのです!」
「それ本当なの?」
「それだけじゃあありません。私の固有アビリティを聞いて驚いてください!不老不死に魔窟創造。あとおまけで聖魔特攻です。特にこの魔窟創造とか言うやつがですね・・・・!」
「目のキラキラが凄いけど・・・・」
「この大カタコンベを思うがままに改造できる他、ここの魔物を支配できる能力です!つ・ま・り、美少女アンデッドも作り放題で、私はここにハーレムを築けるんですよ!」
「もっと別な使い方があるでしょ!」
「これくらいしないと私の失恋の傷は埋められません。そうです、シホさんとエルテさんを眷属にするのもいいですね」
「や、やらないよね・・・・?」
「冗談ですよ。お二人とも私の赦しを与えます。外の世界を好きに楽しんで下さい」
「え?出られるの?それなら早く出たいけど、メリランダはこれからどうするの?」
「暫くはお楽しみに耽りますよ。当り前じゃないですか!」
◆メリランダには恩がある以上、その力の使い方にとやかく言うつもりはないけど、本当にブレない子だなぁ。一族の名誉の話とかはどこに行ったのやら。それにエルテが横で嬉しそうなのはメリランダの不老不死という部分だと思うけど。
「シホ、これでずっとメリランダと友達できる」
「そうだね。良く分からないけど願い叶っちゃったね」
突然の出来事に面食らっていた訛りの強いアンデッドの男も、メリランダに尋ねる。
「なぁ、人間の娘っ子。今の話だと俺らはどうなるんだぁ?」
「娘っ子ではなく魔王です。戦う気が無いなら私は干渉するつもりはありませんよ。まぁ、村の安全を確保するくらいなら致しますが」
「まだ眉唾だが、そう言ってくれるならありがてぇな」
するとそこに案内役の亡霊と共にティオがやって来ると、少しの喜びと焦りが混じった表情でシホに話しかける。
「何か強大な力が生まれた気配がした。あれはメリランダ?」
「そうなんだけど・・・・。自分の事、魔王とか言ってるんだよね」
「魔王?確かに凄い力を感じる。それより記憶と力の一部が戻った。前の姿で死んだ時、大地の龍脈に僕の力が散っていたみたい」
「ほんと!?良かったね。じゃあ、ティオはやっぱり黒龍ミスティルティオだったって事?」
「そのはず。僕は早くここを出て娘達を助けなきゃならない」
◆あれ?記憶戻っても性格とか口調は戻らないんだ?前は「我ハ」とか言ってたのに・・・・。完全に生まれ変わってしまったって事なのかな。まあいいか。
今にも突っ走りそうなティオにシホは、
「ちょっと待って。黒龍を殺せる奴らと戦う気なんだよね?ティオ一人じゃ心配だよ」
「今度は負けない。使える魔法は減ったけど、創生龍の力を取り込んだこの体なら精神支配にもきっと耐えられる。ただ心配がないわけじゃない。僕の敵は龍殺しの剣を持ってる。今の僕の半分は龍としての存在。だから斬られるかもしれない」
「それなら尚更ティオを見殺しには出来ないよ」
エルテもシホの気持ちに続く。
「私も。今度は誰かに認めてもらうためじゃなく、助けたいから助ける。シホ、地上に出たらまずティオの手伝いしよう」
「うん。私達も強くなったし、ひと暴れしてやろっか!死罪にされた恨みもあるしね」
「メリランダはどうする?」
そう問われ彼女は腕組みをすると少し考えた。
「さっき言った通りです。だって今のシホさん達なら人間相手くらい何て事ないでしょう?あ、でもあの下衆な若き国王に会う機会があったら伝えて下さい。心を入れ替えないなら、いつでも死者の軍勢を地上に送れると。あの国の導き方は流石に見ていられません」
シホは頷くと、魔王と成ったメリランダに期待して、ある事をお願いする。
「じゃあ、一旦お別れだね。ここの全権を掌握してるって事は、私達を出口まで一気に転送なんて出来る?」
「あ、そういう便利なものは・・・・。私の知っている人物限定で安全は確保してありますので、頑張って歩いて戻って下さい。と言うかシホさん達はここでは最上位の魔物になってますから、死霊召喚術くらい使えると思いますよ。ゾンビ馬でも呼び出したらどうですか?」
「私達そんな事出来るの?ちょっとやってみよう」
シホとエルテが地面に手をかざすと、数本の骨が地中から浮かび上がってくる。それらが組み上がると腐った肉が湧き、馬らしい形となりその場で嘶いた。
そのゾンビ馬を愛でながら、シホはティオにも作ってあげようとする。
「僕は自分で走った方が早い」
「そう?疲れない?」
「うん、大丈夫」
「じゃあそろそろ行こっか。ああ、メリランダ、リズさん心配してるだろうから、途中で会ったらここまでの事伝えておくけど?」
少しドキッとした様子を見せるメリランダ。
「お、お姉様には私が地下で安全に研究を進めているとだけ伝えてください。ただのむっつりスケベな妹だという認識が定着してしまいますので」
「あ、うん」
◆何を今更言っているんだこの子は・・・。まぁ、リズさんにはすぐバレると思うけど・・・・。
「じゃあメリランダ、私達行くね。また後で会おうね。村の方々も案内ありがとうございました」
笑顔で手を振りシホ達を見送るメリランダの前で、訛りの強いアンデットと亡霊は未だ事態を良く呑み込めていない様だった。
「なんだかとんでもねぇ奴ら来たなぁ」
「だなぁ。まぁ、村が平和ならいいべ」
穢れの澱みまで戻ってくると、シホは人影に気付く。
「あ、リズさーん」
馬を降りるとシホ達はリズに歩み寄って行った。
「あら!シホちゃん達が戻ったという事は、この魔物達から敵意が喪失した件、何か関係があるのかしら?」
「それはメリランダが・・・・。いえ、メリランダの研究の賜物です」
「あの子の研究?そう言えばあの子は?それに見慣れない子も居るわね」
「メリランダなら安全な場所で研究を・・・・。この子はティオっていいます。んー、リズさんを心配させるのも悪いから、下で何があったか話しますね」
シホはメリランダのお楽しみの件だけ伏せて、今まであった事を話した。するとリズはそれを聞き嬉しそうに笑い声を上げる。
「しかし、ミスティルティオの生まれ変わりに魔王ですって!?予想の遥か上を行ってくれるじゃない」
「そうだ、リズさん。宿代の件、地上に出たら何とかしますから」
「出世払いって言ったでしょ?あなた達、これは大出世じゃない。チャラよ、チャラ」
「リズさん・・・・」
「それにしてもエルテちゃん、顔つきが良くなったわね・・・・。ふーん、お幸せにね。じゃあ、私は妹の様子でもこっそり見てこようかしら。先を急ぐのでしょう?」
「はい。ティオが抱えている問題をまずは解決しようと思います」
「じゃあまた会いましょう」
シホ達が去って行くとリズは下の層へと降りて行った。
罪の分銅。リズは壁に文字が刻まれているのを見つける。
「これより先、メリランダのプライベート空間?って何よー!!」
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