第十二章 気遣い彼女と叶える彼女

#27

 やけに訛りの強い言葉を話す二体の魔物が気になったシホ達は、その後を追う様に奥へと進んで行った。


 創生龍の頭蓋骨と思われる場所までやって来ると、下顎の部分から下の層へと続く道を見つける。暫く進むと空間が開けてきたのを感じた。

 メリランダが魔法で闇を晴らすと、信じられない事にそこには地上に似た景色が広がっていた。地上の大地に息づく草木など、それらが見たことのない種類ではあるものの、どこか懐かしく思える景色だった。


 更に下の階層への道を見つけ下っていくと、遠くに村の様なものが見えてきた。その正面にはぞろぞろと人影が集まっているのが見える。それはアンデッドや亡霊の集団だった。

 シホ達の姿を目にすると、先ほど巨龍骨の洞で喋っていたと思われるアンデッドが声を上げる。

 「来ちまったぁ。戦いたくねぇのによぉ」

 そんな言葉がざわざわと群衆の中で飛び交う。


 メリランダがシホとその様子を見ながら話す。

 「見たところ上位種の群れの様ですが、雰囲気が違いますね」

 「うん、私が声かけるよ」

 シホは離れた場所から呼び掛ける。

 「あのー、私達も出来れば戦いたくありませーん。どなたかお話をー」

 すると、あのアンデッドが歩み出た。ほぼほぼ白骨の様な姿で、僅かに乾いた肉がそれに乗っている程度の男はシホの前までやって来て立ち止まる。

 「おめぇらか?あの龍さ倒したの」

 「そうですけど・・・・」

 「何て事してくれたんだ!責任取ってけろ!」

 「え?」

 「あの龍のお陰で戦うしか能のねぇ魔物や人間が来なかったんだ。って、おめぇらそっちのは人間じゃあねぇか。ここに生きた人間が来るなんて初めてだどぉ?しっかし、人間と一緒に居るなんてどんな神経してんだぁ?」

 「この子は友達です」

 「人間の友達だぁ?変わってんなぁ。それに俺らと同じにしてはおめぇら随分若けぇな」

 「そうなんですかね。まあ、色々ありまして」

 「とりあえず話が出来るなら付いてこぅ。村で話さ聞かせてやる」

 「あ、ありがとうございます」


 村に入ると四人は周囲から警戒や疑いの視線を集める。質素な建物が並ぶ雰囲気。そこはシホの生まれ育った村とどことなく似ている様に思えた。

 そして四人は男の住処と思われる簡素な屋敷へと通され、部屋の中で腰を下ろすとシホは質問を投げ掛けた。

 「あの、ここの皆さんって今まで出会った魔物と違う感じなんですけど、どういった集まりで・・・・?」

 「違かねぇ。俺らも昔はしょっちゅう殺し合ってたんだぁ。だがぁ、ある時ふと思う事があったんだよ。自然には死にもせず同族や人間の命だけ奪って、なんだか虚しいだけだなぁって。そんな考えが芽生えた奴らがちらほら現れてぇ、何百年何千年とかけて集まったのがこの村の連中だぁ。俺らはここを天界忘れの村って呼んでらぁ」

 「そうなんですね。あの、カースドラゴン倒しちゃったのまずかったんですよね・・・・?」

 「あの龍は千年前くらいに穢れが集まって生まれたんだぁ。ここは創生龍の亡骸の下に位置してるだろぅ?だから龍脈が沢山通ってっからよぅ、そこから操って村さ守ってたんだ。しっかし、反応が無くなって見に行ってみれば、倒されちまったんだからなぁ。ぶったまげたよぅ。あれを倒せる程の力があんなら、この村の門番でもしてくれっけぇ?」

 「お詫びとしてしたいのも山々なんですが、私達ここの最深部を目指しながら伝説の秘宝と死者の王を探してまして」

 「秘宝だぁ?聞いた事も見たこともねぇなぁ。だが、一番深ぇとこと言うと、ここ抜けて暫く行けばすぐだぞぉ?でっけぇ扉とその部屋の中に偉そうな椅子があるだけで、それ以上は下に続く道は無ぇ」

 シホ達はその言葉に顔を見合わせていると、ティオがシホに話しかけた。

 「皆は先に地の底を見てきてほしい。僕はここの龍脈とかいうの調べたい。ここに来てから胸がソワソワする」

 「龍に関する力だもんね。じゃあ暫く別行動しよっか」

 ティオが頷くとアンデッドの男は提案する。

 「龍脈見て回るなら誰か案内つけるぞぉ。ここの底なら俺が案内してやらぁ。早く村さ守ってもらいてぇしなぁ」


◆困った。私達を住まわせる気でいるぞ、この人たち・・・・。もっと爽やかな場所で私は早くエルテとイチャつきたいのに!


 シホ達は屋敷を出るとティオと別れた。そして訛りの強いアンデッドの案内で下層へと向かうその道中、彼から様々な話を聞く。

 メリランダはその話から得た情報や未開の地で見たものなど、ノートに色々と書き込みながら歩いている。人間の身である彼女は、ここまでの道のりで相当疲れているはずだが、そんな様子は見せずに今はさながら好奇心の塊そのものであった。


◆案内する彼の話ではこうだ。

 ここも遥か古代は元々埋葬施設だったらしく、その頃の価値観では創生龍の傍に葬られる事が幸福な最期だと考えられていた。

 今ほど大陸もダンジョンも巨大ではなく、どちらも数千年以上掛けて徐々に大きく、そして内部も変容していったらしい。創生龍の亡骸と、この土地への人々の持つ認識の影響で、龍脈を通じて魂やら穢れやらを集めやすいとの事。現代でも死者の都と呼ばれるくらいだし、ここで生まれる魔物の種族が偏っているのも納得だ。


 地の底へと進み続けてかなりの時間が経った。一行の前に高くそびえる重々しい巨大な扉が現れる。メリランダはノートに100層目、闇の底と書き込んでいる。

 シホとアンデッドの男は力を込めて扉を押し開けた。そこには闇そのもの、黒の中の黒を孕んだ空気で満たされていた。メリランダの魔法でも照らしきれない強烈な闇の中でようやく見えたのは一つの玉座であった。男がシホに話す。

 「な?何もねぇべ?」

 「あれって玉座ですよね?死者の王ってこれの事?」

 「玉座だぁ?そう言われればそう見えなくはねぇけど、死者の王なんて大げさだっぺ。座っても何も起きなかったしよぅ」

 「んー、死者の王の赦しかー・・・・」

 シホはその玉座へ歩み寄り腰を掛けると威厳を出して声を張る。

 「おほんっ。エルテをこの大カタコンベから出る事を許す!・・・・何か感じる?エルテ」

 「え?特には・・・・」

 「王様としての威厳が足りないのかなぁ」

 立ち上がるシホに入れ替わるようにメリランダが玉座へと近づく。

 「ここは高潔なる乙女の私が威厳というものを見せてあげましょう」


 意気揚々と彼女がピョンと腰を掛けた瞬間、閃光が辺りを包む。


 「わひょぉぉぉぉえぇぇぇぇー!!」


 メリランダの間の抜けた絶叫と、さらに強まる光が部屋を満たす。シホ達は目が眩み何も見えない中、彼女の名を呼びかけるのだった。

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