#26
シホも訳が分からず目を見開いたままだった。吐息と共にメリランダは唇を離すと、エルテを見る。
「エルテさん何か感じませんか?あなたあの朝、宿の廊下で私と会った時、一瞬凄く悲しい顔をしましたね」
「え?」
「まだ友達なんだからとか言って、シホさんに情事を許してましたけど。私はその言葉をいずれは恋仲になると解釈しました。あの夜は私も悪いとは思いました。でも私だって好きなんです、シホさんの事。けれどもエルテさん、今、私はあなたにシホさんを譲るつもりでいます。大事な友達には幸せになって欲しいですからね。エルテさん、まだ必要とされる事だけに甘んじるつもりですか?」
「分からない・・・・。ずっと胸痛かった。分からないけど、今のも凄く痛い」
「・・・・それが恋です。誰かに必要とされたいだけの呪縛からエルテさんは抜け出そうとしています。自由になったエルテさん、その時、隣に居るのは誰ですか?」
エルテはただシホを静かに見つめていた。シホも出かかった言葉は沈黙に変わっていた。
メリランダは二人を見ると何事も無かったかのように話し出す。
「さあ、時間がありません。頼れるのはお二人だけです。あ、ティオさんもう目を開けていいですよ」
シホはエルテに黙ったまま笑顔で頷いた。シホに続きエルテは魔力を練り始めると、同じ上位魔法を発動したのだった。それを見たメリランダは呟く。
「随分素直になったじゃないですか、エルテさん・・・・」
シホ達に宝玉を砕かれながらも、体の原型を取り戻し、立ち上がるカースドラゴン達。しかし、上手く立ち回る二人は、二体を翻弄しながら、次々に額の宝玉を粉砕していく。
そして残り一つ、最後の宝玉を砕かれると、屍の龍たちは力なくその場に倒れ、ただの巨大な肉塊となったのだった。
シホがその肉塊に触れると体に吸収されていく。固有アビリティの組織修復を手に入れた証拠なのか、シホの体の傷跡が消えていく。メリランダはシホの首が刎ねられた跡が繋がり、傷が消えていくのを見ると、
「シホさんその縫い糸取りましょうか?」
「これはそのままでいい。メリランダが縫ってくれたやつでしょ?」
「そうですけど。ふふ、シホさんはロマンチストですね」
「それよりさっき、舌入れてきたよね?その必要あった!?」
「そ、そうでしたか?覚えが無いです」
「う、嘘だ!」
「いいじゃないですか。私の思い出になってください」
「まったく、メリランダってば・・・・」
「何だか緊張の糸が切れたらお腹の調子が・・・・。飲んだ水にでも
物陰に消えていったメリランダはそこでうずくまると、顔を膝へと押し当てた。
「うう・・・・、うぇーん!!シホさん、シホしゃぁん!うぅー・・・・、ひっく」
◆メリランダが涙を堪えきれなくて姿を隠したのは分かっていた。私は彼女にどれだけ感謝すればいいんだろう。
エルテに恋心が芽生えてたなんて。それもこんな私に。それを気づかせてくれたメリランダ。その手前、今浮かれるのは彼女に悪い。エルテには後でちゃんと言葉にして伝えよう。
しかしティオまでライバル視してたなんて。馬鹿だなぁ、私。
目元を赤く腫らしたメリランダが戻ってきた。
「お待たせしました。いやぁ、シホさんとの子供が出来たのかと思いましたよ」
いつもの様に冗談で誤魔化そうとするメリランダにエルテはゆっくりと抱き着く。そして耳元で言い聞かせる。
「メリランダの気持ち無駄にしないから。ちゃんと私、幸せになる。だからこれからも、友達してくれる?」
「ええ、当然ですとも。ずっとお友達でいて下さい。そうだエルテさん、今の戦いで上位種に成れたんじゃないですか?」
エルテが離れるとメリランダは彼女に解析魔法をかける。
「レベルが一気に70に!肉体保持もちゃんと習得してますよ。おめでとうございます、エルテさん。これで私だけお婆さんになってしまう事確定ですね。お二人の若さに嫉妬する時が来るのでしょうか・・・・」
その言葉にエルテは何やら考え込む。
「ねえ、シホ。もし願いを叶える秘宝とか見つけたら、メリランダと私達、ずっと友達でいられるように願いたい」
エルテの望みを聞きニコッと笑顔を浮かべたシホは頷いた。
「そうだね、そうしよう。とっても素敵な願いだと思う」
◆そっか、これがエルテの幸せの形か・・・・。いつかメリランダにも恩返しできるだろうし、叶えられるといいな。
すると何処からか四人の耳に何者かが喋る声が聞こえてくる。
「い、居ねぇ。居なくなっちまったぁ。俺らの平穏もこれで終わりだぁ」
シホ達がよく目を凝らすと闇の中の離れた場所で、上位種と思われる男のアンデッドと亡霊が何やら話していた。
「だなぁ。皆にも知らせっぺ」
二体はシホ達を見ながらそう言うと、身を翻し奥へと去って行った。
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