#15

◆私達が自己紹介を済ませ、皆でテーブルを囲むと、リズさんは魔物である私達にも当たり前のようにお茶を淹れてくれた。それが全員に行き渡るのを待たずして、メリランダは姉であるはずのリズさんを問い詰め始めた。


 「しかしこんな場所で連れ込み宿など、お父様も怒るはずです!毎日のように愚痴を聞く私の身にもなって下さい」

 「だって墓守より儲かるんだもの。この辺、急に魔物が強くなるじゃない?だから男女混合の冒険者パーティーなんかはさ、生存本能が働いてヤる事ヤりたくなるらしくて。相場よりかなり高くても利用してくれるのよね。それにこの仕事やってると私も男に困らないし」

 「お姉様は才能と美貌の使い方が間違っています。お姉様の力なら大カタコンベ深層部の探索も可能だったはずですよ!?」

 「だって、あの50層目のふざけた仕掛けを抜けられないんだもの。四股、いや五だったかな?あれがいけなかったのかなー」

 「憧れだったお姉様が“罪の分銅”で弾かれるなど、私は残念でなりません」

 「そんな事言わないでー、可愛い妹ちゃんよー」

 自由奔放な姉だとは聞かされていたが、想像以上のリズの奔放さにシホ達は呆気に取られていた。


 エルテはシホの耳元で、

 「ねぇシホ、メリランダがまともに見える」

 「うん、私も・・・・。ところでその罪の分銅って何?50層目に何かあるの?」


 メリランダは仕切り直し二人の方を向く。

 「はい。私は行ったことは無いのですが、罪の分銅と呼ばれる間が存在していまして、生きている間に犯した罪を問われると言われています」

 リズが続けて語る。

 「そう。高潔たる者には道を、罪深き者には帰路を。だっけか?壁壊して通れないかなぁって思ってやってみたけど全然だめ。ちょっと他の男と寝たくらいで何が罪よ!」

 「人を欺き騙したと判断されたのでしょう・・・・」

 「ところでメリランダ、この子達には防腐処理はした?」

 「いえ、そもそも長期保存の依頼もありませんでしたし、その前にアンデッドとして目覚めたので」

 「んー、これはそろそろ腐敗が次の段階に進むわよ?」

 「そんな!?私の見立てではあと数日は持つと思っていました」

 そう言われシホとエルテが少し不安そうな顔をしていると、リズは立ち上がりノートを手に取り戻って来た。


 「ま、私もここで遊んでばかりいたわけじゃないのよ。新しい遺体保存技術も研究してたの。近場で調達出来そうな物は、魔力たっぷりのダークスライムの肉片をバケツ一杯分。タダで泊めてあげる代わりに材料調達は頑張ってね、メリランダ」

 「シホさん達の容姿を美しく保つためならお安いものです」

 「相変わらずの性癖ね」

 「なっ!?お姉様、いつからそれを・・・・」

 「ずっと前から。大丈夫、父さん達には言ってないから。という事はあなたまだ処女よね?」

 「妹になんて事を聞くのですか!?そ、そうですけど」

 「そう、なら良かった。さ、お友達のためにさっさと動きなさい」


 納得のいかない表情をしたメリランダを連れ、シホ達は宿を出る。

 「ではリズさん、行ってきます」

 「ダークスライムはここより深い場所にいるからくれぐれも気をつけなさいよー、可愛い子ちゃん達。戻ってきたらまたお話しましょ」

 「はーい」

 バケツを手にメリランダはブツブツと呟き二人の後ろを歩く。

 「お姉様に私のお楽しみ姿を見られていたとは・・・・」

 そんな彼女に聞こえる様にシホがいたずらな笑みでエルテと話す。

 「そー言えば、メリランダと初めて会った時もお楽しみの最中だったね。二人でお邪魔しちゃって悪かったかも。でも結構綺麗な体だったよねー」

 「メリランダのメリランダはツルツルだった。あれはシホが襲って脱がせたんじゃないんだ?」

 「まだ誤解してたの!?」

 メリランダは早足で二人に並ぶ。

 「エルテさん、サラッと私のコンプレックスに触れないで下さい。これは天然なのですよ。まぁ、シホさんが私の裸体を褒めるのはご褒美なので、今のは聞かなかった事にしましょう」


 二人と和気あいあいと話しながら歩いて行くメリランダの後姿を、リズは少し嬉しそうに見届けていた。

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