第四章 特異な彼女と後ろめたい彼女
#8
メリランダは魔物として目覚めた事に自覚が薄い二人に話を続ける。
「本来強大な力を持つ龍の生き血を大量に浴びたとすれば、その影響でお二人は特異個体の魔物として目を覚ましたのかもしれません」
「特異個体?」
シホがぽかんとしながら質問すると、彼女は二人に向かい杖を掲げた。シホは思わず身を屈め、
「うわぁ!エルテ気をつけて、チクッとするやつだ」
メリランダは少しむすっとした表情をする。
「違いますよ。能力を見るための魔法です。時として魔物には特殊な能力を持つ個体が存在すると言われています。いきますよ?開示せよ、天命の才」
彼女が杖を振り下ろすと二人から様々な文字が飛び出す。メリランダはそれを目で追いながら読み上げる。
「えーと、何々?まずはシホさんから」
個体識別 :シホ
種別 :不死系・ゾンビ
レベル :1
能力値 :体力1・力1・魔力1
耐性・弱点 :聖100・闇100・弱点 火
スキル :無し
固有アビリティ:死者継承
「固有アビリティ持ちとは。死者継承?聞いた事無いですね。続いてエルテさんはと・・・・」
個体識別 :エルテ
種別 :不死系・ゾンビ
レベル :1
能力値 :体力1・力1・魔力1
耐性・弱点 :聖100・闇100・弱点 火
スキル :無し
固有アビリティ:情愛共鳴
「能力値的にはシホさんと同じ様です。こちらは情愛共鳴?これも聞いた事無いですね」
魔法を解除した彼女は二人に向かい忠告する。
「聖属性完全耐性と固有アビリティはかなり特異ですが、それ以外は普通のゾンビみたいですので、何日かすれば肉体は朽ち果てるでしょう。その間どう過ごすか考えた方がいいかと思います。それと、物理攻撃等で普通にもう一度死にますから気をつけてください」
シホは彼女の矛盾した言動に疑問を抱く。
「さっきは私に遠慮無しに魔法撃って来たけど、今度はどうして見過ごそうとしてるの?」
「流石にこれだけ人間味があると倒すにも気が引けると言うか・・・・。それに私、死んでいる美少女が大好物でして・・・・。ふふ。特にシホさんは私の好みでしたので、死後硬直が解けたら楽しもうかと思っていたのですよ」
◆鳥肌立った・・・・。知らない間に貞操の危機。ちょっと待って!?エルテもあの時こんな気持ちだったんじゃ!?
ん?エルテがこっちを見て微笑んでる。
「良かったね、シホ。シホも女の子が好きなんでしょ?私はそもそも人にあまり興味が無いけど、好きになるとすれば、たぶん男の人だと思うから。二人で楽しんできたら?」
◆私は気づくと土下座していた。
「エルテさん。あの時は非常に不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ありませんでした。せめてお友達でいてください」
「どうでもいい、もう死んじゃってるし。でもせっかく死ねたのに魔物になるなんて・・・・。私はここで朽ち果てるのを待つから」
「エルテ・・・・」
エルテは自分が埋葬された場所へと戻っていった。その場で固まるシホにメリランダは声を掛ける。
「一体何を言ったのです?ひどい嫌われようですね」
「自分に正直にと思うあまり、エルテを傷つけちゃって。その・・・・、エッチしたいって」
「ぷぷっ。これだから生きている人間は面倒なのです。と言うか、シホさんは女の子が・・・・。それなら、私がそんな欲望むき出しなシホさんの心の傷を癒して差し上げますよ?」
「今はそんな気分じゃないって・・・・。それに私はエルテの事が好きなの。私の恋が叶わないとしても、エルテにはもっと幸せな生き方をしてほしい。こんな暗い場所で無駄に最期を迎えてほしくないよ。エルテだけでも自由にしてあげられないかな?」
「やれやれ、困った死体ですね。無暗に希望を持たせたくありませんが、墓守の一族に伝わる話をしますと、死者の王の赦しを得た死者は外に出られると言われています」
「そいつと会えばエルテを自由にできるの!?」
「あくまで伝承の一部です。その様な存在が居るのかも不明ですし、何かの例えかも・・・・。それにアンデッドとなった彼女が外に出られたところで、幸せが待っているとは思えませんがね」
「そうだよね・・・・」
「あとは願いを叶える秘宝がこの大カタコンベの奥底に眠るという話もありますが、これもあくまで噂です」
「決めた。私、それ取ってくるよ。魔物なら魔物に襲われずに済むでしょ?」
「ですからそんな物あるかどうか・・・・。それにそんな単純な話ではないのです。凄腕の冒険者でも中々深層部に近づけない理由、ご存じですか?報告では、ある地点から魔物同士は淘汰し合い、その過程でより強力な魔物が育っているからなのだとか」
「それって私も他の魔物を倒せば強くなれるって事?それにある地点からって事は、それより手前では隙を突いて倒し放題って事だよね?」
「まあ理屈ではそうですけど、シホさんはレベル1のゾンビなのをお忘れなく。弱い魔物を狩ったとて、一人前になる前に朽ち果てるのがオチです」
「それでも私やるよ」
「ふむ、まあいいでしょう。すみませんが、そろそろ私はお父様へ報告をしに戻らないといけませんので、また明日話しましょう。あ、冒険者に襲われないように、元の場所で死んだふりでもしておいてください。それでは」
メリランダが大カタコンベから出て行くと、シホは言われた通り寝かされていた場所へと戻る。その途中、エルテが通路に背を向け横になっているのを見かけるも、シホは掛ける言葉が思いつかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます