#7
多くの死体が眠る広大な埋葬施設、大カタコンベの地下1層目。その中で一人の少女が、二体の死体の首を縫い合わせていた。処理が済むと埋葬場所へと運ぶ。
エルテの後にシホを寝かせると、その首に懐から取り出した集魂の器を掛けた。そしてシホの頬を愛おしそうに撫でながら、その顔に自分の顔を近づける。
「ではまた後で」
そう囁くと人気の無い埋葬区域の奥へと消えて行った。
シホは薄暗い中で目が覚めた。ぼんやりする意識と記憶の中で体を起こすと、狭い空間に寝かされていた事を認識する。横には通路が伸びていた。その長い通路の先、遠くの方に明かりが差し込んでいるのが見える。
光に向かい歩いていると、自分が目を覚ましたものと同じ窪みが壁に幾つもあるのに気づき目をやる。
「ひぃ!し、死体!?ここは埋葬施設?」
足早で出口と思われる方へ進むと、そこで何かに顔面をぶつける。
「へぶっ!・・・・な、何?見えない壁?」
不可視の壁を押したり叩いたりするが、出られないと分かると恐る恐る中を探索する。すると暗い曲がり角の先から妖しげな息遣いが聞こえてきた。
そっと覗き込むと、壁の窪みの中で一糸まとわぬ少女が金色の長髪を乱しながら、女の子の死体に覆いかぶさり悦楽の表情を浮かべ情事に耽っていた。
◆あ、話しかけない方がいい子か・・・・。別の人が居ないか探してみよう。
シホが素通りしようとするとその少女が呼び止める。
「ちょっと待ちなさい!そこのアンデッド!」
「私の事!?変態にアンデッド呼ばわりされるなんて心外!」
シホが振り向くと少女がこちらに杖を向け構えていた。
「あれ?さっき葬った子ですね。喋れるなんて、まさかこんな短時間で上位アンデッドに?それに私の
少女が魔法を詠唱しだすとシホの周りに白い魔法陣が現れる。シホは身構え目を閉じた。
「ちょちょ、ちょっと、止め・・・・!」
「聖なる葬送!」
放たれた聖属性魔法に包まれるシホだったが、光が収まると呆気にとられる。
「うわ、なんかチクッとした」
シホ以上に目の前の少女は呆気に取られていた。
「まさか聖属性耐性!?ありえないです!生まれて間もないアンデッドなのに」
「あなたさっきから人の事アンデッドアンデッドって失礼じゃない!」
そこにもう一人の人影が歩み寄る。
「何の騒ぎ?ここどこ?」
杖を構えた少女は狼狽える。
「あ、あなたもですか!?」
シホは裸の少女越しに声の主を確認すると、不思議そうに首を傾げる見覚えのある少女が立っていた。
「エルテ?エルテだよね?」
「シホ?私達どうしてこんな場所に?記憶があやふや」
「私も覚えてなくて」
そんなやり取りをする二人に挟まれ、裸の少女は杖を床に打ち付けながら叫んだ。
「あなた達もう死んでるんですよ!死罪になって!」
無言の間が流れると二人の記憶が徐々に蘇り、シホは呟く。
「そうだ、私とエルテは森で捕まって、それで死刑に・・・・」
◆ん?私最期にとんでもない事を叫んでしまった気がする・・・・。
エルテは混乱するシホをよそに目の前の疑問を投げかける。
「ところでこの人なんで全裸?シホ、まさか性欲を抑えきれなくて・・・・」
◆うわぁ・・・、覚えてたー・・・・。
「ち、違うって!あの時の言葉は混乱してたっていうか、正直過ぎたっていうか。エルテ、そんな目をしないでー」
二人に敵意が無いのを確認すると、裸のままだった少女はローブを羽織りながら咳ばらいをする。
「私はメリランダと言います。この大カタコンベ埋葬区域の管理をしている墓守の一族の者です。その経験上言わせてもらいますが、お二人は間違いなくアンデッドです」
シホはエルテのまるでゴミでも見下す様な視線から逃れる様に、集魂の器を握りメリランダを見た。
「そ、それよりこれあなたが拾ってくれてたんだ。ありがと」
「いえ、墓守の役目と言いますか」
「私ここで無垢なる魂を集めて村へ帰らないと。あ、捕まった時、お金も没収されてたんだ。これじゃ冒険者も雇えないや、どうしよう・・・・」
メリランダは眉をひそめる。
「シホさんと言いましたか?あなた人の話聞いてました?今あなた達はアンデッドなのですよ?冒険者に出会えば狩られる立場なのです。それにこの大カタコンベで生まれた魔物は、強力な結界というか、この場の持つルールそのものの様な力で外には出られません」
「さっき出口でぶつかったあれか。じゃあ、このままずっとここで冒険者に怯えて暮らせって事!?」
「正確にはずっとではありませんね。並みのアンデッドなら肉体が朽ちればそれで終わりです」
「それまでずっと死体と暮らすなんて嫌だなぁ。せめて外で過ごしたいよ」
「あなたも死体ですけどね。しかし生まれたばかりでものを考えて話せるアンデッドなんて初めて見ました。しかも聖属性耐性持ちとは・・・・。一体生前何をやらかしたのですか?見たところとても罪人の様にも見えないのですが」
エルテが少し申し訳なさそうに話す。
「森で瀕死の黒龍様助けようと手当してたら、そこに竜騎兵団が来て、私のせいでシホをトラブルに巻き込んだ」
「エルテのせいじゃないって。そうやってなんでも自分のせいにするの良くないよ」
納得した様子を見せるメリランダ。
「なるほど、王都であった一連の騒動は概ね知っています。あなた達も運が悪いですね」
二人の血に染まった服を彼女は見ると少し考える。
「すると、もしかしてその血は黒龍ミスティルティオのものですか?」
こくりと二人は頷いた。
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