#4
屋根のない馬車に揺られ、大勢の国民から注目を浴び、威厳を放つ若き国王。そのすぐ後ろを、騎士の乗る大きな白い二頭の竜と、それに追従して行進する、大勢の兵士達の姿があった。すると国民の歓声が、不穏などよめきに変わる。
先ほどまで晴れていた空に、重く暗い雲が現れたかと思うと、その中に黒い大きな影があった。雑踏の中の一人の民が声を上げる。
「黒龍様だ!黒龍様はやはりお怒りだったのだ!」
国王の周りに、守りの陣形を組む騎士団。それを見た民衆は、散り散りにその場から逃げて行く。国王は冷たい口調で、竜に乗る騎士に問い掛ける。
「アガーリンよ。封印したのではなかったのか?」
「そ、そのはずですが」
「お前の失態だ。責任を取れ。今度はミスティルティオを殺すのだ」
「ですが、黒龍が死ねば、この大地にどんな影響があるか・・・・」
「迷信に決まっておろう。二度も言わせるな。それとも、首を刎ねてもらいたいのか?」
アガーリンは少しためらいながらも剣を抜いた。
それと同時に、漆黒の鱗を纏った巨大な龍は、石畳の広場へと降り立つ。その衝撃で、めくれ上がった石畳の破片が周囲へと飛散する。黒龍は右前足を上げ、魔力を練りながら、低く怒りに満ちた声で人の言葉を介した。
「驕リ高ブッタ人間ヨ。我ノ娘達ヲ解放スルノダ」
アガーリンは国王を逃がすよう声を上げるが、国王は片手を挙げそれを制止した。彼らを取り囲むよう、巨大な魔法陣が形成される。それを見て狼狽える兵士達に反して、国王は冷静に馬車を降りた。
黒龍に歩み寄りながら右手を掲げると、彼のその指にはめられた指環から、怪しげなオーラが発せられる。途端、黒龍は苦しみだした。
国王は表情を変えることなく、命令を出す。
「龍王と呼ばれるのは、この我だけで十分だ。二度も同じ手にかかるとは、やはり下等な生き物に過ぎん。やれ、アガーリンよ」
剣を振り上げたアガーリンは竜を走らせた。黒龍はその剣から異質な力を感じ、魔法の詠唱を中断すると、指環の力に抗い、咄嗟にその剣を避けた。
掠っただけに思えた剣は、鋼鉄よりも遥かに硬い鱗を持つ黒龍の胸に、何故か容易く深い傷を生み出した。
大量の血が地面へと滴る。黒龍は逃げる事を余儀なくされた。混濁する意識の中、飛び上がると王都の外へと飛び去った。
それを見た国王は、指環を撫でながら、馬車へと戻ると、もう一頭の竜に乗る騎士に指示を出す。
「龍殺しの武器による傷だ。そう長くは持たぬ。バルザザよ、捜索隊を編成し、生死の検分へ向かえ」
指示を与えられた彼は、幾人かの兵士を引き連れ、すぐに捜索へと向かったのだった。
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