第13話 分からないこの気持ち

 ――パタン


 朝日のように眩しかった笑顔が去っていった。


 いつになく明るかったその笑顔は私の心臓をけれど、それ以上に……恥ずかしい……。


 思い出すのは昨夜――崎守くんが寝て私が運んであげた時。


「……私だけが恥ずかしいじゃん……」


 崎守くんはなにも覚えていないらしい。


 あの大きなお手々で私の……私の…………を鷲掴みにしたことを……。


「――っ!」


 瞬間、まるでなにかが爆発したかのように顔が熱くなる。


「私の……ぶ、まで外しちゃって……さ……」


 顔を隠すようにベッドの足元に手を伸ばす。

 そうして掴むのは昨日のお風呂上がりに付けたはずの黒色の


 お母さんに『崎守くんが来る時は毎回これを付けなさい』と言われて付けていたブラなんだけれど……まさかこんなに外れやすいだなんて……。


「嬉しいのは分かるけど……!不意打ちは……ずるいよぉ……」


 プシューッと空気が抜けていくようにベッドに顔を埋める。

 形が崩れていく胸なんて他所に。ただ己の恥ずかしさを消し飛ばすために。


 崎守くんが私の胸を触って喜んでくれるのは

 そして私も……恥ずかしいけれど、まんざらじゃなかった……。


 嫌なはずなのに、崎守くんに触れられたらドキドキして、もっと触ってほしいと思ってしまう。


(これがダメなことだって分かってはいる……。けど……!)


 がどうしても気になる。


 どうして私は崎守くんに触れられると嬉しいのか。どうして鼓動が早まってしまうのか。


「……どうして、嫌だと言えないのか……」


 その感情を確かめるために、私は自ら中学生の記憶を頼りに崎守くんに触ってもらっている。


 言葉も当時に寄せて選んで。できるだけその時の感情に近づけるように励んでいる……のだけれど、なにかが違う。


 自分から求めるのと、不意に起こるのとではなにかが違うのだ。


「……嬉しいのに変わりはないんだけどさぁ……」


「うぅ……」とブランケットに唸り声を吐き捨てる。


 でも昨日あった崎守くんに揉まれるあの瞬間……。

 あれだけは特別だったし、1番ドキドキした……。


 一体どんな違いがあるのだろうか?

 求められるか求めるかの違い?きっとそれもあるのだろうけど……なんか違う……。


「……力?」


 中学生の頃といい、昨夜といい。

 崎守くんの手には力が宿っていた。


 もしかしたら私は乱暴に扱われるのが好き……?


(いやでも乱暴はがあるし……)


 悶々とした感情が胸の中で渦巻く。

 どんなに問いただしても、答えが返ってこない複雑な感情に怒りすら覚えながら。


「……私も準備しよ」


 完全に諦めモードに入った私はブラを片手に体を上げる。

 そして寝る前に吊るして置いた制服に向かって歩き――


「なにこれ」


 ――不意に視界に入ってくるのは机に置かれている赤い箱。


 その箱の中心部分にデカデカと書かれているのは『0.01』やら『極薄』やら『生の感覚』やらの意味のわからない文字たち。


「崎守くんの忘れ物かな……?」


 そんな言葉を残した私は特にその箱に触ることもなく、首を傾げながらタンスから新しいブラを取り出した。

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