第7話 正直言って、可愛かった
「んっ!やっぱり美味しいです!」
俺達が作ったのはチャーハン。
冷凍ご飯やらレタスが大量にあったことを考慮し、チャーハンを作ってみたのだが……ちょっとベタッとしてしまったな。
目の前で落ちそうになる頬を抑える辻野さんが「美味しい」と何度も言ってくれることは嬉しいのだが、やはり納得はできない。
「そう言ってくれるなら嬉しいよ」
とりあえずの言葉を並べた俺はベタッとしたチャーハンをスプーンで掬って口の中に放り込む。
「美味しいですよね!」
「味は……まぁ……それなりに……」
「どうしてそんなに自信がないんですか!?あっ、もしかして私が手伝ったから思うように……」
「違う!それだけは断じて違うから安心してくれ!」
慌てて首を横に振る。
確かに辻野さんは料理ができない節はある。……というか、言っちゃ悪いが全くできない。
でもそれはそれ。これはこれ。
俺がいるキッチンに、料理が下手な子がいようが大体の料理が美味しくなる。
だからこれはあくまでも俺のミスなのであって、決して辻野さんのミスではない。
確かに!人参を切ってと頼んだら包丁を逆手持ちにするようなやつだけど!
確かに!塩を入れるところで砂糖を入れようとするやつだけど!
それでも、数ヶ月も一緒に料理を作っていれば辻野さんの行動は予測できるし、かもしれない運転があるように、辻野さんが別の調味料を勝手にいれる可能性だってある。
今日だって予測していたし、ちゃんと指摘して起動に戻した。
その結果味は良くなったのだが……やっぱりベタッとしてるのは気になる。
「そ、そんな暗い顔してる人を前に気にしないなんて無理です……!」
と言いつつも、大きく口を開けた辻野さんはパクっとチャーハンを頬張り――頬を緩ませた。
もちろん辻野さんが心配してくれてるのは分かる。
そして、意図してではないだろうが、頬を緩めて慰めようとしてくれてるのも分かる。
……だがな?その頬を緩ませながらだと説得力が絶望的にないんだよ。
思わず苦笑を浮かべてしまう俺は辻野さんに続くようにチャーハンを口の中に放り込み、そしてもう一口放り込む。
「んっ!さひもりふんも美味ひいでふか!」
「うん」
口の中にまだあるのに話すなよ、なんてことを思いながらも縦に頷く俺は、未だに頬を緩ませている少女と目を合わせる。
さすればニへへと更に頬を緩ませるスプーンを持った少女。
(……天使か?)
不意にそう思ってしまうほどに可愛く見えてしまった。
黒縁メガネにかかっている前髪も相まってか、元々小さかった顔が更に小さく見え、目を閉じたことによって日頃はメガネの縁に隠れている長い睫毛がレンズ越しに見える。
ふにっと垂れそうになる頬はお皿を抑えていたはずの手よって支えられ、傾けた顔が黒縁のメガネと背中まで伸びた黒い髪を揺らす。
黒い制服に、黒い髪。そして黒いメガネで天使を彷彿とさせるのは少し無理があると思うかもしれない。
けれど、そう思ってしまうほどに可愛かった。
「さ、崎守くん……?」
呆気にとられた俺の様子に疑念を抱いたのだろう。
更に首を傾げる辻野さんは懐疑的な瞳をジッとこちらに向けてくる。
「あ、え、あぁ……うん。ちょっと、うん」
『見惚れていました』なんてことは当然言えるわけもなく、濁しに濁しまくった俺の言葉はチャーハンに落ち、口を塞ぐようにトッピングされたチャーハンを頬張る。
「……え?な、え……?そんなに誤魔化します……?」
「うん」
「うんじゃありませんよ……!教えてください!気になります!」
「ううん」
「どうしてですか!?」
口に食べ物が入ってるからとりあえず唸るだけ唸っているのだが、勝手に会話してくれるからありがたい。
(言うつもりはないんだけど)
これからめんどくさいことになりそうだが、言ったほうが更にめんどくさくなるのは目に見えている。
あくまでも俺の予想なのだが、多分こいつは顔を真っ赤にして失神するはずだ。
だって中学時代からほぼ毎日こいつと一緒にいるが、こいつが誰かに可愛いと言われたことは一度もない。
そしてふとした時に顔を赤らめるこいつのことだ。
褒められてないこいつは失神すると俺は予想する。
「……崎守くん。今、失礼なこと考えました……?」
「ううん」
「……そうですか」
若干不服気に頬を膨らませる辻野さんはジッとこちらを見つめてくるが、動揺を顔に出さない俺はチャーハンを頬張るばかりでこれといった反応は返さない。
だがそれは表での話。内面では『なぜバレた!?』と動揺しまくりの俺の脳みそ。
もしかしたら俺と同じように、数年間も一緒にいれば相手の考え方がわかってくるのかもしれない。
(……けど、これまでこいつにそんな素振りはなかったぞ……?)
なんて疑問が脳裏に過るが、懐疑的な顔をしながらチャーハンを頬張る辻野さんが答えを言ってくれるわけもなく、疑問は疑問のまま消化される。
……はずだったのだが、目の前でまたもや頬を緩ませる少女を視界に入れればそんな疑問もどうでも良くなり、料理をミスしたことも頭からすっ飛ばして食事の場を楽しんだ。
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