新米のアームズ・ディーラー

第42話 ゴブリンの残党狩り

　魔石の秘密が香織パパによって暴かれ、喫茶隠れ家での商談が終わった。

　店から出たオレは点滅しているスマホに気付き、内容を見ると慎吾からのラインメッセージが山の様に届いていた。そして、読んでいく内に蒼然となる。

　もっと詳しい事を知りたいと思ったオレは、直ぐに慎吾のいる学校へ向かった。

　学校に着くと、第二体育館で練習に励む剣道着姿の慎吾を見つけた。彼は剣道部の主将で三年生最後の大会に向け、日曜日にも関わらず部活動に励んでいる。

　ビシッ、バシッ、ガシッ！

　ヤァァァッ、メェェーン！

　道場の入口から顔を出し、練習を見ていると慎吾がオレに気付く。

「皆んなぁ、俺はちょっと出てくるがサボるんじゃないぞ！」

　慎吾は防具を外すと、タオルで汗を拭きながらオレの所にやってきた。

「どうしたぁ〜創真？」

「よぉ慎吾、部活頑張ってるな！　急いで聞きたい事があって、練習の邪魔になるかと思ったんだけど、ちょっといいかな？」

「いいって、いいって！　ここじゃ何だから外へ行こうか？」

　二人で外の自動販売機の前に来ると、オレはジュースを二本買い一本を慎吾に渡す。

「コーラでいいか？」

「おっ分かってるねぇ、さすが幼馴染みだな！」

「まぁな！」

　オレ達は近くの石段に座り、ジュースを飲みながら話をする。

「すまん慎吾、ついさっきラインを見たんだ。それで、ミンミンの生配信の事を詳しく聞きたいんだ。頼む！」

「やっぱりオレのラインを見てなかったんだな！」

　慎吾は昨日のミンミンの生配信の全貌を詳しく語ってくれた。途中の酷いシーンは言葉を濁しながら、四人の女性がゴブリンに強姦された事が分かった。その後は警察が動いて、先程香織パパに聞いた話に繋がった。

「慎吾ありがとう。今度何かで埋め合せをするからな！」

「期待せずに待ってるよ！」

「じゃあな！」

　オレは慎吾と別れ、歩きながらタケじいに尋ねる。

「なぁタケじい、多摩湖のゴブリンはいなくなったのかなぁ？」

「分からん。しかし、ゴブリンはゴキブリ並に繁殖するでなぁ。恐らくは、どこかに生き残りが隠れておるじゃろうな」

「それじゃあ、帰ってゴブリンの残党狩りといこうか？」

「そうじゃの、急ぐぞ創真！」

「了解！」

　オレは小走りで家に戻り、装備を整えて外へ出る。すると、なぜかタケじいに呼び止められた。

「創真よ、剣を腰にぶら下げたまま外に出ると警察に捕まるぞえ」

「あっ！」

　仕方がないので、ゴルフバッグに風の剣を入れ、バッグラーを腰に装着して再び外に出る。その後、タクシーを使って多摩湖へ向かうと、多摩湖周辺には検問が張られ、立ち入り禁止になっていた。

　オレは手前でタクシーを降りると、近くの小さな公園でタケじいと作戦を練る。

「タケじい、千里眼を使うよ」

「まぁ待て、こういう時こそヤタの出番じゃ！」

　オレは鴉の御守袋を握り締めて召喚と唱えると、今日二回目の八咫烏が不機嫌な顔で現れた。

「おいおい、今度は何の用だあ、アァ〜ン！」

「や、やぁ、久しぶり！」

「さっき呼んだばかりじゃねぇかあ、このボケ〜！」

「相変わらず口が悪いのぅ」

「主様、そ、そんな事はないです」

「そうか、なら創真の言う事を聞いてやってくれるか？」

「は、はい、よろこんで！」

「と言う事じゃ。創真よ、ヤタに説明してやってくれ」

　しばらくヤタとの間に沈黙が走ったが、オレは意を決して説明を始める。

「ヤタ、この一帯の森の何処かにゴブリンが隠れているかもしれないんだ。それを君に探して欲しい」

「そんな事かい、楽勝だぜぇ！」

　八咫烏は空に舞い上がると、上空から森の探索を始めた。

「タケじい、大丈夫なのか？」

「まぁ見ておれ」

　しばらくすると、八咫烏が戻ってきた。

「おい創真、見つけたぜ！　ここから北西に五キロ行った所の左岸に二匹いるぞ」

「こんなに早く、す、凄いっ！」

「ヤタよ、さすがじゃのぅ」

　ヤタは胸を張ってふんぞり返る。

「俺様にかかれば、こんなもんよ！」

「ヤタよ、案内せい！」

　オレはヤタに先導されて北西へ走る。

　途中にある検問は瞬歩と跳躍を使って難なくすり抜け、ようやくゴブリンのいる左岸付近に辿り着いた。

　オレは風の剣を右手に、バッグラーを左腕に装備し警戒しながら前進する。すると、左の茂みからゴブリンが木の棒を持って襲いかかってきた。

「ギギィッ！」

　オレはバッグラーで木の棒を受け止めると、風の剣でゴブリンの腹を突き刺した。

　ガシッ！　ズブブッッ！

「ギギャァァァ！」

　ゴブリンは悲鳴を上げて魔石に変わった。オレは、あまりにも簡単に倒せた事で思わず声に出す。

「このバッグラー、めちゃめちゃ使い勝手がいいじゃん！」

　しかし、もう一匹が一向に姿を現さない。すると、ヤタが上空で叫んだ。

「創真、五メートル右の草むらにいるぞ！」

　ヤタの指示に従い、小走りで右の草むらへ進むと、そこにはゴブリンの幼体が頭を抱えて震えていた。

　オレは一歩踏み込んで剣を振り上げる。すると、幼くて妖精の様な顔で怯えるゴブリンと目が合った。

　オレの剣は空中で止まり、頭の中は自問自答を始める。ゴブリンといえど、子供を殺すのは気が引ける。この子は見逃すべきか？

　迷っているオレを見て、タケじいが言う。

「創真よ、一ヶ月もすれば成体になって女を襲い出すぞえ。それでも見逃すのか？」

　タケじいの言葉で我に返り、香織を襲ったゴブリンを思い出す。

「それは駄目だ！」

　オレは感情を殺してゴブリンの幼体を葬り、多摩湖の残党狩りが終わった。

　道々、投げ捨てた荷物を回収しながら、今日のゴブリンについて色々と考える。

　バックラーのお陰で簡単にゴブリンを倒せた事。ゴブリンの幼体が予想以上に可愛くて殺すのをためらった事。そして、最も衝撃だったのが八咫烏の索敵能力が抜群で、タケじいの言ってた事が少し理解できた。

　オレは八咫烏の口の悪さを、多少は我慢しようと思ったのだった。

【第42話　ゴブリンの残党狩り　完】

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【相模慎吾のイメージ画像】

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