新米のアームズ・ディーラー

第41話 暴かれる秘密

　ここは転移の丘。

　オレが勝手に名前を付けただけで、この場所でないと転移ができない訳ではない。

　帰る前に大和商店の新商品、鋼の盾の鑑定をする。

鋼の盾(小)　　Ｌｖ１

防御　　　Ｅ

魔法障壁　Ｌｖ１

魔石(火)　 Ｌｖ１　防御１０％ＵＰ

　なるほどね、盾の場合は魔石のバフは防御力アップになる訳だ。

「なあタケじい、鋼の剣はロングソードにしたよね。鋼の盾はなんて名前にしようか？」

「そうじゃのう、確か〜小さい盾はバッグラーと言ったかのう」

「響きがいいねぇ、バッグラーに決定だ！」

　新商品の評価も終わった所で、転移を唱えて現代へ帰還。自分の部屋に着くと日曜日の午前一〇時。母は今日も仕事で家にはいない。いつもオレの為に働いてくれているのだ。

　オレには決めている目標が一つある。それは一千万円が貯まったら、母に全てをプレゼントして仕事を辞めてもらおうと思っている。

　今回の冒険で入手したロングソード六本で売上が一千万円になる。正確には売掛金七百万円なんだけど……。

　今夜の夕食の時、母に話す予定だ。

　早速、東雲さんに電話をすると、日曜日にも関わらず、隠れ家で一二時に会う事になった。

　東雲さんは日曜日なのに彼氏とデートとかしないのかな〜などと勝手な心配をしながら、服を着替えてゴルフバッグに剣を詰め込み隠れ家へと向かう。

　さすがに盾はゴルフバッグに入らないので、腰のホルダーに装着して運んだのだが、道行く人にジロジロ見られて恥ずかしい思いをした。

　隠れ家に着くと、いつもの奥の席に香織パパも来ている。電話で新商品の話しをしたからだろうか？

「創真君、ここだよ〜！」

　香織パパはオレを見つけて手を振る。

「真壁さん、ご無沙汰してます」

　オレは丁寧にお辞儀をした。

「おっ、だんだん社長らしくなってきたじゃないかぁ〜、ハハハッ！」

「ありがとうございます。ハハ……」

　オレが席に座ると、注文を取りに来た店員に香織パパはランチを三つ注文した。

「創真君、たまには一緒に食事をしようじゃないか！」

　香織パパがニコニコしてオレを見る。

　このおっさん、きっと何かたくらんでやがる！　と思いながら返事をする。

「はい、頂きます」

　すると、香織パパがオレの腰にぶら下がっている盾を見て質問する。

「創真君、腰に引っ掛けているのが新商品だね？」

「はい、これが新商品のバッグラーです！」

　オレはバッグラーとホルダーを腰から外してテーブルの上に置くと、香織パパが盾を手に取り品定めを始めた。

「やはり、盾にも宝石が付いてるんだね？」

「そ、その様ですね。ハハハ……」

　オレは無難に答える。

「うん、これもロングソードと同じ値段で買い取ろう。ただし、ホルダーはこの一つがあればいいんだが……」

　香織パパは、オレの返事を待ってる様だ。

「……はいはい、サービスでホルダーも付けときますよっ！」

「創真君、大人の会話が分かってきたじゃないかっ、将来が楽しみだよ〜、ハハハッ！」

　このタヌキおやじめぇ、香織のパパじゃなかったら必殺技でもお見舞いしてやる所だ！

　その後は、東雲さんに伝票を書かされると、例の如く防衛省の職員が出てきて武具を運んで行った。

　テーブルの上がスッキリした所で、隠れ家のランチが運ばれて来る。

「今日のランチはコロコロステーキ定食です」

　鉄板の上で、美味しそうな肉がじゅうじゅう言っている。オレのお腹もぐぅぐぅ鳴っている。

　三人が手を合わせて食事を始めると、オレはご飯とお肉にがっついた。

　ガツガツ、モグモグ……。

　頃合いを見て、香織パパが質問を始める。

「創真君、これが何だか分かるかい？」

　香織パパがテーブルの上に黄色の魔石を置いた。

「魔石！？」

　つい、口から言葉が漏れてしまった。

「ほほぅ、これは魔石と言うのかい？」

　オレが焦っている様子を、香織パパは楽しそうに眺めている。

　オレは観念して言葉を返す。

「それをどこで？」

　香織パパは質問を被せてくる。

「創真君は昨日の事件をどう思うかね？」

「昨日の事件？？」

　オレが何も知らない事を感じ取り、香織パパが説明を始めた。

「創真君は何も知らないようだね。昨日の夜、正確には今朝の二時だ。多摩湖に一六匹のゴブリンが現れた。そして君から購入した剣で全て撃退したのだが、犠牲者が三四名も出たんだ。東京の街は今、その話題で持ちきりのはずなんだがね」

　間に合わなかった！　あの時、異世界へ行かずに多摩湖へ行っていれば、もう少し犠牲者を減らせたかもしれない。

　全てオレのせいだ……。

　オレが落ち込んだ顔をしていると、香織パパが更に質問を被せる。

「創真君、君を疑う訳ではないんだが、君は何かを知っているね？」

　ここまで追い込まれたら、知らぬ存ぜぬは通用しない。どこまでを話すべきか？　異世界の話をしても頭がおかしいと思われ、返って怪しまれる。

　それならっ！　

　オレはアグルヒルの武器屋のおやじをイメージして語る。

「ボクの知っている事で良ければ、少しだけなら話せます。しかし、多くを語ると謎の武器屋から剣を調達出来なくなるかも知れません！」　

　今度は香織パパが苦い顔になった。どうやらオレは巻き返しに成功した様だ。

　交渉スキルパネェ〜！

「わ、分かった。君の話せる範囲で教えて欲しい」

「分かりました。ボクもお役に立ちたいので、出来る限り協力します。まずは魔石ですが、それはゴブリンを倒すとドロップ、いや出現します」

「確かにその通りだ。では、私の推論を聞いて君の意見を聞かせて欲しい」

　そうきたかぁ〜！

　オレがうなずくと、香織パパは推論を話し始めた。

「私の考えでは、ゴブリンを倒すカギはこの魔石にある。ゴブリン自身が魔石と考えると、その魔石に対抗するには同じ魔石が必要だ。だから剣に魔石が埋め込まれている。そして、ゴブリンが持つ棒切れの威力が凄いのは、ロングソードの柄がゴブリンで、棒切れが刃先と言う訳だ。違うかね？」

　やはり香織のパパは侮れないっ！

「……はい、その通りです」

　オレは正直に答えるしかなかった。

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【第41話　暴かれる秘密　完】