2024/12/21
そのときおれはこう思ったのだ。
ばれた、と。
緊張で息が止まりそうになった。一応ごまかそうとしたが、
「お、おれが何で嘘なんか吐くんすかねぇ?」
という感じで、残念ながらダメダメだった。
「何でか知らんが、とにかく嘘をついているのはわかる。さっきから死ぬほど顔と声に出てる」
先生はきっぱり断言した。初対面の泰成氏たちや、存在感の薄いおれをあまり認識してない読増さんはともかく、先生はごまかせなかったか。残念だ……おれは角蔵氏に謝らねばならない。もう一度無事に会うことができたらの話だが。
「ミステリーでいうところの『信頼できない語り手』ってやつだな」
先生はそう言ってため息をついた。
「柳、お前は小隈野先生に昏倒させられたようなことを言ってたが、実際のところは殴られてもいないだろう。自分の意志で、小隈野先生が逃げるのを見逃したんだ。違うか?」
「なななな、なにを証拠に」
「バレバレのくせに粘るなぁ……まぁいい。どうして嘘をついたのかはさておき、こういうことをされると当たり前だが俺は非常に困る。俺が連れてきた助手が依頼人にとって不利益を生む行動をとったら、雇い主である俺が責任をとらなきゃならん。しかしそうはなりたくないので、お前にはそのバレバレの嘘を吐き通してもらわなにゃならん。その上で小隈野先生を探して……は~、面倒なことになったな……」
「スイマセン……」
「あっさり謝るな! というわけで柳、先生はどうした? おそらくあの隠し部屋、外に直通の出入り口があるんだろ」
黙っているおれの顔を見て、先生は「図星だな」と言った。
「いくら隠し部屋があったって、それだけじゃ一年間隠れ通すのは難しいと思っていたんだ。食料やらなにやら調達しなきゃならないし、小隈野先生はあまり敏捷そうに見えない。いちいち邸内を通って外に出てたんじゃ、早い段階で誰かに気づかれてたはずだ。でもそうなっていないということは、おそらくあの隠し部屋には、屋敷の外直通のトンネルがある。違うか?」
「ち、違くないです……で、でもその出口がどこにあるかは、その、おれも知らなくってですね」
「ほーん?」
もうおれの嘘は百パーセントばれると思った方がいいなこりゃ。
「でででででも大まかな場所しか知らないんですよ!」
「それでいいから教えろ。わからんよりはいい」
「こ、小隈野先生を見つけたら、どうするんですか?」
先生はおれの襟をつかんだまま、ため息をついた。「ご家族と読増さんの前に連れてくに決まってるだろうが……逃亡を手伝ってやるほどお人よしじゃないぞ」
「ですか……ですよね……」
そりゃそうだ。角蔵氏は生きてるんだから、それが筋ってものだ。
でもそうなった場合、読増さんだけでなく、各出版社の担当さんたちが殺到し、角蔵氏は一年分の〆切に追われることになるだろう。そうなったら――
おれは思った。かくなる上は腹を決めねばならない、と。
せめて角蔵氏がなるべく遠くに逃げるまで、少しでも時間を稼がなければ。
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