2024/12/20

 音の大きさとビジュアルの強さに、おれは飛び上がりそうになった。泰成氏がすかさず窓に駆け寄った。

「父さん! ポルターガイストのふりもいい加減にしてくれ!」

 そう言いながら窓を開け、外に体を乗り出す。が、

「いない……?」

 そう呟きながら、なおも辺りを見回している。

 おれは泰成氏に駆け寄った。ブチ切れ寸前の雨息斎先生の真正面にいるより、手形の正体を探しに行った方がずっとマシだ。

 窓の外は庭で、ここもやっぱり不気味だ。葉の落ちた植木の間に、塗装の剥げた小人の像が並んでいたり、古びたブランコが置かれていたりする。見たところ、大人が隠れられる場所はなさそうだった。壁沿いには大きめの室外機やガス機器が設置されているが、これといって目立つものはない。

「走って逃げたんでしょうか?」

「いや、父は足が遅くて……それに足跡がありません。昨日の雨で、ここはまだぬかるんでいるのですが」

 泰成氏が言うとおりだった。目の前の庭は湿った土がむき出しになっていて、飛び石などもない。

「やっぱり本物のポルターガイストですわ! ほら、お義父さまの手はこんなに小さくないもの!」

 菊代さんは大はしゃぎだ。

 しかし、角蔵氏でないとすれば今のは一体何だろう。まさか本当に本物……? などと考えていたら、足元がぞわぞわしてきた。

「柳くん」

 先生に肩を叩かれた。そういえば何か話しかけられたところだったな……。

「ちょっと話がしたいんだが――いや、こんな場合にすまない」

 先生は眉をひそめて、「実は別件でね、依頼者のことを聞かれるとまずいから、どうしても内密に相談しなければならないんだが……」

 おれに内密に相談? いつもトップダウンの先生が? 嘘だ。たぶん二人になるための口実だ。うわぁ、しばき倒される……。

「別室が必要ですか? よかったら、隣の客室を使ってください」

 翔氏が気を遣ってくれた。おれとしてはいらない親切だが、先生は「ありがとうございます」とにっこり笑い、おれを応接室から引っ張りだした。

 さすが豪邸、普段は使われていなさそうな部屋があるなんて大したものだ……ちょっとしたビジネスホテルくらいの設備がある。先生は部屋に入ると素早く内鍵をかけ、「さて」と言っておれを睨んだ。営業用の笑顔がきれいに消滅している。

 まずい。大変にまずい。

「な、何でしょう先生……」

「何でしょうじゃないよ柳お前、何言われるか大体わかってんだろが」

「あ、はぁ……いやでもその、まさか小隈野先生に昏倒させられるとは思ってなくてですね。えーと……」

 おれは必死に言い訳を探した。が、先生はぐいぐい近づいてくると、おれのジャケットの襟をつかんだ。

 やばい、投げられる……!

 そう思って身構えたが、先生はそのまま動かなかった。ただものすごい力でおれの襟をつかんだまま、

「柳、お前さっきから嘘ついてるな?」

 と、そう言った。

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