2024/12/12
そういえば「死体は見つかっていないが状況的に死んだであろうと思われる人物」って、ミステリーでは生きてる可能性高いよな……。
と、とっさにそんなことを考えてしまった。とにかく目の前にいる人物は、おれの知る限り小隈野角蔵氏その人だ。確認せねばなるまい。
「あの、もしかして小隈野角蔵先生ですか?」
ストレートに尋ねると、角蔵氏(もう確定でいいだろ)はあからさまに「ギクゥ!」という顔をした。が、すぐに険しい顔つきを作ると、
「な、何かね君は! 勝手に人の部屋に入ってきて!」
と怒り出した。しかし慌てているのが丸わかりなので、正直あんまり恐くないな……と眺めていると、後ろから階段を降りてくる音が聞こえてきた。雨息斎先生だ。
「やっぱりこちらにいらしたか」
先生はさも当然のような口調で言ったあと、「初めまして、小隈野先生。禅士院雨息斎と申します」と、悠々と自己紹介をした。
「あっ、霊能力者の禅士い……ああ!」
角蔵氏は突然デスクチェアから立ち上がると、こちらにずかずかと歩いてきた。先生の方に行くのかと思いきや、おれの目の前にやってくる。
「あ、あの……」
「やはり! あの『結界!』の方ですな!」
角蔵氏はおれに握手を求め、握った手をぶんぶんと振った。うわ、本当にあの動画好きだったんだ……ちょっと嬉しいかも。いややっぱり恥ずかしい。俳優を目指していたくせにファン的なものに出会う経験が乏しいおれは、顔を真っ赤にしながら「はぁ」「どうも」などと気の利かない相槌を繰り返した。
「いや~、すぐに気づかず失礼しました。わしはあの動画が好きでしてな……こう、なんと言いますか、不思議と悲哀のようなものが感じられて、妙に癖になりますな」
まぁ、悲哀は出ていたかもしれないな……。しかしまぁ、小隈野角蔵氏のような大先生に褒められるのは凄いことかもしれない。しれないが、こんなことで褒められたくはなかった。
「あの、ところで先生はどうしてこちらに……?」
おれがおずおずと尋ねると(雨息斎先生はにやにやしながらこちらを伺っている)、角蔵氏は途端に「ハッ!」という表情になった。漫画みたいな顔をする人である。
「いやあの、その……」
「小隈野先生、ご家族の皆さんが心配しておられますよ」
雨息斎先生が、穏やかな、かつよく通る声でそう言った。「どんな事情があるかは存じませんが、そろそろ先生の死亡が認定される時期です。今のうちにご家族の前に出て……」
「や、やだ……」
角蔵氏は、おれの手を握ったまま大声を出した。「絶対叱られるからやだ!」
叱られるとかそういう問題じゃないだろ!
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