2024/12/09

 おれが何か言うよりも早く、泰成氏が「結界!?」とおれの方を振り返った。

「まさか、あの『結界!』がこの屋敷で見られるとは……おっと、すみません。父が……」

 そう言って涙ぐむ。すごくイヤな予感がしてきた。

「実は父が好きだったんです。柳さんの結界……」

「は!? なんで!?」

「柳くん、驚くのはわかるが不躾だぞ」

 でかい声とタメ口で驚きの声をあげたおれを、先生が真っ当に叱った。しかし、正直それどころではない。

 結界か――そういえばプチバズったことがあるんだよな……おれはため息をついた。

 ニセ霊能力者の助手であるおれにも、当然まともな霊能力者としての力はない。ゼロである。したがって結界なんぞ張れるわけがない。わけがないのだが、かつて先生が人払いをしたいとき、「皆と一緒に部屋の外に出て、危険がないよう結界を張れ」みたいなことを突然言い出したことがあった。結界の張り方はアドリブでやれという条件で――で、おれはがんばった。おれなりに全力を出して「結界術」を披露した結果、概ね冷たい視線を浴びることになった。が、一部の人にはバカ受けし、その一部の人がSNSに投稿されたショート動画がうっかりプチバズったのである。おれにとっては、まったく嬉しくない結果となった。

 その動画をホラー小説の大家たる小隈野先生が見ていたとは……しかも気に入っていらっしゃったとは。嬉しいような、全然そうでないような、なんだかムズムズする不思議な気分である。

 とにもかくにも、おれはまたアレをやらねばならないらしい。

「柳くん、頼むよ! 部屋の入口あたりにさ」

 雨息斎先生が畳みかける。よく見たら口元がちょっと笑っている……なんてこった、完全におれへの無茶ぶりを楽しんでいるじゃないか。読増さんはカメラを構え、泰成氏はハンカチで目元をぬぐっている。

 まぁ、こうなったら仕方がない。引っ張れば引っ張るほどやりにくくなる。おれはすぐに覚悟を決め、適当なポーズで構えた。

 おれはかつて俳優を志していた。加えて、我ながら運動神経はいい方である。

 したがって、無駄にキレのあるポージングを披露することができる。

「えーい! けっ! かい!」

 思い切って声を張り上げながら、前に突きだした両腕で五芒星を描く。さらに空中に描いた五芒星を前方に押し出すようにしながら、「エイヤー!!」と叫んだ。

「おおー! これが! 結界術!」

 読増さんがバシャバシャ写真を撮る。泰成氏は鼻をすすりながら拍手をし、先生は肩をプルプルと振るわせている。

 ……恥ずかしい! いっそ誰か大声で笑ってくれ!

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