2024/12/08

「うわ……」

 書斎のドアが開いた瞬間、思わず声が出てしまった。

 部屋の中が本だらけなのだ。十畳ほどの洋間の三方の壁に大きな造り付けの本棚があり、大量の本が並べられている。それはいいのだが、問題は本棚以外のところだ。

 床のあちこちに、本が散らばっている。

「またか……今日も家政婦が掃除をしたはずなのですが」

 泰成さんがため息をついた。

 やっぱり、と思った。部屋の主がいないというのに、こんなに散らかしたままにしているなんておかしな話だ。ということは――

「ポルターガイストですか!?」

 読増さんが身を乗り出した。「ちょっと片付けるの待ってください!」と言って写真を撮り始める。

「部屋の鍵は泰成さんがお持ちで?」

 先生が尋ねると、泰成さんは「はい」とうなずいた。

「重要な書類や高価なものもありますので、施錠するようにはしております。鍵は私の部屋で管理をして、掃除の際はそこから貸し出す形に」

「なるほど。つまりこの部屋は、我々が入るまでは密室だったということですね?」

「ええ、そういうことになるかと」

 誰もいないはずの部屋が、勝手に散らかされていたということか……もう帰りたい。無人の部屋でそういうことが起きたってことは、つまりオバケが出たってことじゃないのか? ていうか仮に人間の仕業でも、故人(たぶん)の部屋をわざわざ散らかすなんて、やっぱり怖い。

「ふむ」

 先生は真面目な顔で一度うなずくと、「失礼します」と言って室内に入った。

「先生、どうですか!? 霊の気配なんかしませんか!?」

 読増さんは真剣そのものの面持ちで、高そうなデジカメを持ってバシャバシャ写真を撮っている。先生は部屋の中をゆっくりと見回した後、

「これは……少々困ったことになるかもしれませんね」

 などと思いっきり思わせぶりなことを言った。

「すみませんが皆さん、少々静かにしていただいてもよろしいですか」

 先生はそう言って、部屋の奥、書き物机の前あたりに立った。読増さんが撮影を止め、泰成さんもぴたりと黙っている。おれももちろん黙る。

 先生は霊感はないが、異様に耳がいい。たとえば電話越しの音声から、通話相手がいる部屋の広さを大体特定することができる。その優れた聴力を使って、いくつもの心霊っぽい事件をいい感じに収めてきた実績がある。

 静かになった部屋の中に、突然パァン! と乾いた音が響き渡った。

 先生が柏手を打ったのである。

「雨息斎先生……っ、やっぱ何かいるんですか……!」

 我慢できなくなった読増さんが、顔をギリギリさせながら思わず小声で尋ねてしまっている。先生はさっと振り返り、

「これはもう少し集中して調べなければならないようですね。柳くん、結界を張ってくれ」

 けっ……結界だと!!!?

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