2024/12/07
見覚えのあるデザイン――小説投稿サイトだ。
実はおれも利用しているので、ぱっと見でわかったわけなのだが、残念ながら小説が書けるわけではない。往年のライトノベルが無料で読めたりするので、アカウントを持っているのだ。いわゆる読み専である。
「読増さんも、そういうサイトを使われるんですか」
思わず声をかけると、「ええ、もちろん」と返事があった。
「こういったサイトの一般ユーザーが、商業作家になるケースも多いんですよ。なので、気になる作品にはどんどん目を通すようにしています。楽しいですよ、宝探しみたいで」
読増さんの画面に表示されているのは、タイトルといいキャッチコピーといい、どう見てもラブコメのそれだ。ホラー系に強い文芸雑誌担当のはずだが、色んなジャンルの作品を読むんだな……と感心してしまう。しかしこの人、本当に常に仕事しているイメージだ。一体いつ寝ているんだろうか。
読増さんはものすごい勢いでラブコメに目を通し、うんうんとうなずいたあと、
「ところで雨息斎先生、こちらの屋敷はどうです? その、霊的な空気とかは」
と、突然先生に話しかけてきた。
「そうですねぇ……」
先生は顎に手を当て、少し考え込むような仕草をする。「今のところ、嫌な感じはあまりしませんね。まだきちんと調べたわけではないから、なんとも言えませんが」
「えーっ、嫌な感じしませんかぁ」
なんでそんなに残念そうなんだよ。
しかし先生、「嫌な感じはあまりしない」ときた。どうせハッタリをかますんだし、「邪悪な霊の気配がします」なんて言いそうなものだが……まぁ、おれが口を出すことではない。
それからまた数分経って、書斎の鍵を持った泰成さんが戻ってきた。
「お待たせしました! ご案内いたします」
古びた肖像画の視線を感じながら玄関ホールを通り抜け、おれたちは一階の東側の端っこに到着した。
ここが小隈野先生の書斎らしい。奥まった場所にあって、日当たりもあまりよくなさそうだ。書籍を保管するのにはいいコンディションなのかもしれないが、一家の主の部屋としては暗いし寒そうだな……というのが、凡人たるおれ個人の感想だった。
「では、開けますね」
泰成さんがそう言って、持ってきた鍵を鍵穴に差し込んだ。
緊張する。いよいよこの屋敷で一番「出る」部屋とのご対面だ。
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