2024/12/05

 泰成氏の案内で応接室に通されたおれたちは、続々と集まってきた一家の面々から、この館で起こった怪現象について一通り聞かされることになった。

「父の書斎から物音がするのは日常茶飯事ですね。施錠してあるのですが、幽霊には意味がないんでしょう……」

「お手伝いさんに聞いたんですけど、義父の書斎にお掃除に入ったら、きちんとしまったはずの本が床に落ちていたそうですわ。ほかにも抽斗にしまっておいたはずの書類が机の上に散乱していたとか、椅子の位置が変わっていたとか……」

 泰成氏の奥さん、小隅野菊代きくよさんも色んな話を聞かせてくれる。眉をひそめ、困った顔をしているようでいて、その反面若干ワクワクしているようにも見えるのは、気のせいだろうか? キッチンの戸棚の中身がテーブルの上にタワーのように積み重ねられていたとか、誰もいないはずの部屋から男の声が聞こえたとか、とにかくあれこれ語ってくれるので、おれはもう一生分の怪談を聞いた気分になってしまった。

「とにかく、困っているんですよ」

 明らかに不機嫌そうなのは、菊代さんの弟の鯉花翔こいばな かける氏だ。小隅野先生の助手というか運転手というか、身の回りの雑事を任されていたらしい。姉の菊代さんとは打って変わって、こちらは本当に困っているように見える。

「屋敷の査定に来た不動産業者も逃げ帰っちゃうし……ねぇ義兄さん」

 話を振られた泰成氏も、うんうんとうなずく。

「査定ということは、こちらは売却される予定なのですか?」

 先生が尋ねると、鯉花氏は「そうです」と即答した。

「何しろこの屋敷は、百パーセント角蔵さんの趣味で建てられたものですからね……わざわざ妖怪伝説のある山中の土地を購入して、外装も内装も凝ってホラー一色の家を建てたはいいけど、正直不便なんですよ。そこにいる姪たちの登校ひとつとっても、いちいち車で山を降りなければならないありさまです。角蔵さんが亡くなれば、この屋敷も相続の対象になります。そうなったらすぐにでも売却したいんです。幽霊屋敷のままじゃ困るんですよ」

「屋敷の売却については、母も承知しています」

 泰成氏がそう付けくわえた。

 なるほどなぁ……売りたい気持ちはよくわかる。明らかに不便な立地のバカでかい屋敷、ホラー作家的には美味しくても、日常生活には不便だろう。ここを売って、都市部のマンションでも買い直した方がいい気がする。

「くすくす……きっと幽霊が怒ったんだよ」

 双子の女の子の片方が、もう片方に囁いた。

「おうちを売られそうになったから怒ったんだよね。くすくす……」

 もう片方が囁き返す。

「くすくす……もっと怒ったらどうなるのかな」

「もっと怖いことが起こるんじゃないかな。くすくす……」

 小隅野先生の孫にあたる双子らしいが、どうやら、この子たちが一番ホラーっぽいようだ。

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