2024/12/04
というわけで、小隈野邸である。
ホテルか? と問いたくなるような豪邸だ。だが登山が趣味ゆえなのか、やたらと山奥に建てられており、雪が降ったら容易くクローズドサークルになりそうな立地でもある。そういえば以前もそんなことがあったな……先生と一緒に山中の豪邸に閉じ込められたことが……二回ほど……。
二度あることは三度あるというが、もう二度と経験したくない。常に自信満々な雨息斎先生とは違って、おれは臆病なのだ――などと考えながら邸内に入ると、おれのビビりは更に加速した。
「ホラーゲームみたいなお屋敷でしょう」
読増さんが言うとおりの場所だった。玄関ホールは暗いトーンの壁紙やカーテンで統一され、天井からは巨大なシャンデリアが垂れ下がっている。壁には誰のものだかよくわからない大きな肖像画が何枚も飾られ、年季の入ったビスクドールや、今にも動き出しそうな西洋甲冑まで置かれているという拘りようだ。
「これは凄いですね」
雨息斎先生が腕を組む。「ホラー小説の大家にふさわしい屋敷だ。小隈野先生のご趣味ですか?」
「ええ、先生は茶目っ気のある方でしたからね。生前、『どうだ、本物のお化け屋敷みたいだろう』と自慢されておいででした。この人形などは曰く付きで……」
勘弁してくれ。建てた本人はさぞ楽しかろうが、おれは普通に怖い。なんだか壁紙の柄が人間の目みたいに見えてきた。早く東京に帰りたい……。
「おお! これはこれは読増さん。よくぞこんな辺鄙なところへいらっしゃいました」
上へ続く階段から、高そうなスーツを着た中年の紳士が降りてきた。
「ああ、泰成さん。ご相談いただいていたとおり、霊能力者の先生をお連れしましたよ」
と、読増さんが言う。除霊してほしくないなどと言っていたくせに、なかなか分厚い面の皮だ。まぁ、どっちみち雨息斎先生に除霊などできないのだが。
「ありがとうございます!」
スーツの紳士は早足でこちらにやって来た。
「小隈野
と言いながら、先生のみならずおれにまで頭を下げ、握手まで求めてくる。怪現象に相当参っているのだろうか、歓迎っぷりが熱い。
おれは申し訳ない気分になってきた。だが雨息斎先生は余裕たっぷりに微笑みながら、
「禅士院雨息斎と申します。こちらは私の助手の柳です」
と自己紹介を返した。
「助手の方までお連れくださるとは、ますます心強いですな」
「これでも我々は一応専門家ですから、小隈野さんのお役に立てると思います」
先生の面の皮が一番分厚そうだな……。
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